冤罪(誤判)と再審法改正の最前線 第13回

冤罪(誤判)と再審法改正の最前線 第13回

法制審議会─刑事法(再審関係)部会のリアル⑥

第5回会議(8月7日)[その1]

鴨志田祐美 日弁連再審法改正推進室長


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 一方、今回筆者が提出した資料も「鴨志田委員提出資料」として第5回会議のサイトにアップされている。資料は3種類で、①「検察官抗告の状況」、②「前審関与に関する事例」、③「福井女子中学生殺人事件の概要と再審手続に関する問題点」である。

①は、検察官抗告の実情を把握するためには、上記の事務当局配布資料6の記載では甚だ不十分であるため、日弁連の支援事件のうち再審開始決定がされた事件にかかる検察官抗告の状況を一覧表にしたものである。この表によれば、再審開始事件19件のうち17件で検察官が抗告を行う一方、再審公判に至らずに終結した事件は3件のみである。

②は、再審請求を審理する裁判体の中に、当該事件の確定審段階で関与した裁判官や、累次の再審請求が行われている事件の過去の再審請求手続に関与した裁判官が含まれていた実例を列挙したものである。

③は、第4回会議で再審無罪となった5事件(湖東、松橋、足利、東電、布川)について、事件の概要と再審手続に関する問題点を整理した資料と同様の形式で、福井女子中学生殺人事件(福井事件)をまとめたものである。同事件は第4回会議で議論された、証拠開示に関する項目を検討する際における重要な立法事実を示すケースであったが、第4回の段階では「未だ再審無罪判決が確定していない」という理由で事務局が資料とすることを見合わせていた。第5回会議の6日前である8月1日に無罪が確定したため、提出資料とすることが認められたが、前回の議論で言及すべきだった点が「時機に遅れた」状態になってしまったため、資料についての質疑の時間を利用して、筆者において以下のとおり発言した。

 「同判決におきましては、通常審の一審の段階で判明していた事実に関する捜査報告書がその段階で提出されずに、第2次再審になって初めてその捜査報告書が開示され、それが明白な新証拠の一つと認められて再審開始、再審無罪になった事情があります。

 そのことについて判決は、『確定審検察官は、被告人から正しい事実関係を前提とした主張・立証の機会を奪い、裁判所にも動かし難い事実について真実と異なる心証を抱かせたまま判決をさせるなど、不利益な事実を隠そうとする不公正な意図があったと言われても仕方ない訴訟活動に及んでいる、確定審検察官がこの誤りを適切に是正していれば、そもそも再審請求以前に確定審において原審の無罪判決が確定していた可能性も十分に考えられるのであって、上記のような確定審検察官の訴訟活動に対しては、その公益の代表者としての職責に照らし、率直に言って失望を禁じ得ない』と判示しています。

 このように、確定審の段階で提出されていなかった証拠がその後、再審請求手続の段階で開示されることによって真実が明らかになるという福井事件の経緯こそ、そもそも確定審で提出されるべきだった証拠が出ていない場合がありうることから、再審請求段階での証拠開示ルールを定めなければ真実に近づけないということを示す立法事実であるということを、本来であれば前回の議論で説明をすべき点だったので、あえて今、補足説明した次第です」。

 また、正式な提出資料とすることは認められなかったが、第5回で検討される「裁判所不提出記録・証拠物の保存保管に関する規律」の必要性を示す立法事実として、再審請求手続において判明した、証拠の保管、開示に関する不適切事例について論じた筆者の論考である「再審事件にみる証拠の保管・開示の問題」(季刊刑事弁護123号〔2025年〕36〜43頁)が、「机上配付資料」として、全委員・幹事に事前配布された。『季刊刑事弁護』に掲載された論文が法制審の資料となるのは極めて珍しいのではないか。そもそも、再審法改正をめぐるこれまでの協議会等での議論では、法務省が「個別の事件には言及しない」というスタンスを貫いていたことからしても、前回と今回、具体的な事件に言及した多くの資料が法制審に提出されたことは、わずかながらとは言え前進と捉えたい。

 他方、前回会議の際に委員提出資料として事前配布されていた「諸外国の有罪確定後救済制度」と題する海外法制の一覧表について、成瀬幹事、川出委員、森本委員から指摘のあった点を踏まえて修正した、同資料の修正版については、事務当局における検討未了ということで第5回の提出資料とすることができなかった。法改正を検討するにあたり海外の立法例を参照することは不可欠であり、事務当局の速やかな対応を求めたい。


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第10回「法制審議会─刑事法(再審関係)部会のリアル③——第4回会議(7月15日)[その1]」(鴨志田祐美)

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(2025年09月17日公開)


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