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『オアシス・インタビュー』第4回

【前編】地域との共生を目指す官民協働運営の刑務所

美祢社会復帰促進センターの取組み


手塚文哉(てづか・ふみや)氏
手塚文哉(てづか・ふみや)氏(2019年10月31日撮影 現代人文社にて)。

—— 刑務所(刑事施設)は犯罪者が収容されているということで、刑務所に対する一般の人のイメージは悪いし、むしろ日本社会には、そういう犯罪者は社会から隔離して、排除する意識がまだ根強く残っていると思います。国は受刑者の社会復帰促進、再犯防止の施策を進めています。そこで、今日は、美祢社会復帰促進センターや府中刑務所長などを務められた手塚さんに、刑務所の現状や受刑者の社会復帰についてお話しいただきます。

1 刑務官という仕事

—— はじめに、手塚さんは、刑務所の仕事を始めようということになったきっかけはどんなことでしょうか。

手塚 私は、最初、刑務官になるつもりはありませんでした。私の父が刑務官で、その影響が非常に大きかったと思います。父から刑務官の仕事と受刑者の生活のことなどを聞く機会が多かったし、経済面で安定していることで勧められて、刑務官になったということです。

—— 子どものころから職住接近で、刑務所の近くに住んでいらっしゃったのですか。

手塚 そうです。刑務所と同じ敷地にあった官舎にずっと住んでいましたので、受刑者に接することも多かったです。今はあまり受刑者を外に出しませんが、昔は、施設や敷地の清掃などで外に出していましたので、受刑者には比較的接していました。ですから、自分自身としては、刑務所のことは割と理解していたつもりでいました。

—— 刑務所の近くにいたということで、たぶん、刑務所に対するイメージは一般の人とだいぶ違うと思いますが、実際に仕事に就いたときの刑務所をどう感じましたか。

手塚 実際に入ってみると、イメージしたものと全く違っていて、一言で言えば、やはり厳しい職場だと思いました。刑務所の紹介パンフレットなどを見ると、「刑務所は受刑者を改善、更生して、社会復帰させ、そして、再犯を防止する」と書かれていますが、日々の多くの仕事は、受刑者の反則行為の取り締まりや規律維持です。これが主な仕事で、はじめは再犯防止を考える気持ちにはなれなかったです。

—— 理念としては、再犯防止を常にうたっているわけですね。

手塚 日々の仕事の中ではなかなか考えられないですけど、そういう気持ちがどこかにないと、彼らを処遇できませんので、無くさないようには常に努力しました。

—— 無 くさない努力とは、どんなことを具体的にするのですか。

手塚 刑務所の中で教育部門や職業訓練とかにだんだん携わっていきますので、そういうところで、どういう訓練がいいのか、どういう教育がいいのかを考えながら指導しています。そして、彼らと接することが多くなると、接する中で、どうやって彼らを処遇したらいい効果が出るのかを考えるようになったということです。

—— 刑務所の中で第一に、受刑者とのコミュニケーションがうまくいかなければ、改善、更生という目的は達成できないと思います。受刑者とのコミュニケーションを取るときに、どんなことに気をつけていましたか。

手塚 受刑者と良好なコミュニケーションを取るのは非常に難しいことです。その関係が近すぎても駄目だし、遠すぎても駄目だということです。先輩の刑務官は、私たちを教育するにあたって、「威あって猛々しからず、親しみあって馴れず、彼また人たるをしるべし」と説明してくれました。私なりに解釈すると、威厳を持って接しても、決して横暴であってはならない。威厳を持つことと威張ることは全く違うものであり、威厳のある人には付いていくが、威張る人には誰も付いていかないものです。「威厳」と「威張る」ことの違いの分からない職員は、自分の威厳を示そうと職員に対しても被収容者に対してもすぐに大きな声で怒鳴るが、決して他からの真の信頼を得ることはできないと思います。

 また、彼ら(被収容者)の事情や心根を理解して人情味をもって接しても、決して友達になってはならない。あくまでも管理する側と管理される側の立場は変わらないのですから、刑務官と被収容者としての一線を画す必要があります。温情と甘やかすことは、全く別物であることを認識しなければならない、ということです 。

 しかし、彼ら(被収容者)も我々と同じ人間であることを忘れてはいけません。当然、喜怒哀楽の情があり、管理する側の傲慢に陥りそれを無視することは、人間としても刑務官としても極めて危険なことです。自分自身の心の中で彼らを裁いてはいけない、ということです。私は現職中、この言葉を教訓として胸に留め、退職した後も思い出します。

—— 今、おっしゃったことで、こういうことをするとうまくいったという具体的なことはありますか。

手塚 若い頃は、受刑者と会話をあまりしてはいけないという指導がなされるのです。

—— そうなんですか。

手塚 というのは、受刑者の方がはるかに社会経験や犯罪歴が長いですから、職員を愚弄(ぐろう)して、所内で利便を取ろうという者が少なからずいます。若い頃は、全く口をきいてはいけないと、指示だけして、もしくは、聞かれたら、それには返答しないで、上司に報告しなさいというようなことを言われました。ですから、最初は、口を全くきかないところから始まっていくのです。

 ある程度年数がたつと、彼らとの会話だとか、彼らの身分帳(身分関係の情報をまとめた帳簿であり、成育歴、犯罪歴、犯罪内容、精神状況、身体状況、これまでの入所態度や経歴、行動など詳細に記載している書類。所内で問題を起こすたびに身分帳に記載される)を見たり、いろいろな犯罪の傾向を見たりして、はじめてコミュニケーションが始まります。

—— 仕事をしながらコミュニケーションが取れていくということですね。

手塚 そうです。仕事をしながら、そうしたスキルを身につけていくということです。

—— 例えば、「これでうまくいくな」という実感を持ったのは、仕事に携わってからどのぐらいですか。

手塚 10年ぐらいたつと、職員の言葉に反応する受刑者が出てくるのです。ですから、私は、常日頃若い刑務官に、「処遇って、いわゆる教育や職業訓練だけじゃなくて、職員の言動から、受刑者は更生のきっかけをつかむことがあるので、自分もきちんと勉強しなきゃいけない。自分を磨かなきゃいけないのだ」と言っていました。

—— 反応とは、具体的にどういうことですか。

手塚 私は、何回かあるのですけど、受刑者が私の言葉を受けて、それを日誌に書いて、「こういうことを言われて、そうだと思うので、自分はこういうふうに今後気をつけよう」とか、そういう反応が出てくるのです。それをきっかけに変わっていってくれたらなと思います。

(2020年05月27日公開) 

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