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第6回山本了宣弁護士に聞く

証拠開示のデジタル化で弁護士本来の力を発揮する

文書の整理・検索・共有ソフト「弁護革命」の開発

(後藤貞人法律事務所にて、2021年7月6日編集部撮影)

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1 新型コロナウイルス感染症と弁護士業務

―― はじめに、まだ新型コロナウイルス感染症が終息しない状態ですが、山本さんは、仕事の上で新型コロナウイルスの影響はありますか。

山本  もともとリモートワークが多く、ちょっと前から一審の公判は結構減らして、控訴審などどちらかというとそんなに出歩かない案件を増やしていました。

 新型コロナウイルスが来ても、仕事のやり方自体はそんなに変わっていません。必要なときは出ていきます。ツールで困ったことも特にありません。あとで話に出ると思いますが、「弁護革命」というソフトもあるので、記録を見るのも困りません。事務局とのやりとりも、以前からチャットを導入し、それに慣れていましたので、支障はありません。私自身は世間で言うほどの影響は受けていないと思います。

―― 仕事では事務所にはあまり行かず、もっぱら自宅でリモートですか。

山本  従来からあまり事務所には行っていなくて、コロナでさらに行かなくなりました。必要なときに行けばいいし、このご時世だから、依頼者も電話だけというのに抵抗がないと思うし、意外と大丈夫ですね。

―― リモートをやっていない人は大変かもしれません。

山本  私は例外かもしれないので、あまり参考にならない 可能性もあります。

―― 刑事施設での接見や裁判所の公判などの関係ではどうですか。

山本 拘置所では、最近、アクリル板の穴が目張りをされて話しにくくなったとか、声が通らないから、弁護士が声を張り上げてしゃべると壁が薄いところでは丸聞こえじゃないかという話を耳にしますね。そもそも外出がしづらい状況ですので、密度にも頻度にも影響してきていると思います。

2 証拠開示デジタル化の活動

――「証拠開示のデジタル化を実現する会」(共同代表:後藤貞人弁護士、高野隆弁護士)を結成して、「証拠開示のデジタル化を求める要望書」の署名活動をしていますが、その趣旨と今後の活動についてお聞かせください。はじめに、現在の証拠の謄写の実態からお話しください。

山本 大阪の本庁のように都市部で謄写業者がいる場合を想定しますと、検察官から証拠開示の連絡が来ると、検察庁にある謄写業者に依頼して、その複製(紙)を入手するというやり方をします。謄写業者に依頼する場合は、大阪なら紙1枚あたり、モノクロで40円、カラーで70円になります。その複写代は、私選事件の場合は、弁護報酬だけでなく、「謄写費用が別途かかる」ことを依頼人に説明して、依頼人に負担していただくことになります。国選事件の場合は、一定程度法テラスが支払ってくれますが、実際に支払われるのは事件が終わったあとです。
 別の道として、閲覧だけで済ませるとか、デジタルカメラで1枚ずつ撮影するということもできますが、閲覧だけだと手元に証拠が残りません。デジタルカメラだと時間と手間が大変ですし、複写状態も悪くなります。

―― 私選の場合、謄写費用が払えないとなると、どうなるのですか。

山本 大事そうなところを部分的に謄写するとか、デジタルカメラを使うといった対処になります。それか、覚悟を決めて弁護人の負担で全部謄写する、逆に謄写自体をあきらめるという可能性もあります。国選では補填されますが、事後的な話なので、弁護士が数十万円の謄写費用を数ヶ月立て替えてるというようなことも、ままあります。

―― それでは、最初から被疑者・被告人には大きな負担になり、十分な弁護を受けることができないおそれもありますね。

山本 そうです。私自身が大問題だと思ったのは、半年以上やって史上最長になった神戸地裁姫路支部の裁判員裁判がきっかけです(私選)。最終的に開示証拠がペーパーで15万枚ほどになりました。1冊のファイルに500枚ずつ綴じたとすると、合計300冊になりますね。
 比較的裁判の初期の話ですが、あるとき、1500点ほどの証拠の開示通知があり、それを全部謄写するとどうやら80万円ほどかかるということがありました。そのときは何とか謄写費用をおさえられないかと思って、選別のために姫路まで4回閲覧に行きました。4回行ったのは、「ざっと」見るだけでもそれだけの時間がかかったからです。

 あとで計算してみて気付いたのですが、1500点の証拠があるということは、それを1点1分ずつ確認するだけでも、1500分=25時間かかるんですね。更に言えば、否認事件ですし、意外な証拠が意外なところで意味を持ってくることは十分に起こりえました。結局、「ざっと見て要否を選別する」なんていうこと自体、そもそも不可能だったのだと悟りました。それで、依頼人には申し訳ないですが、あきらめて80万円負担していただいて全部謄写しました。

 審理が大体終わった時期の前後だったと思います。この事件の謄写費用がだいぶかかっていることは分かっていましたが、いったい幾らかかったのかが気になって、あらためて事務員に聞いてみました。そしたら、600万円を超えていると言われました。開示証拠だけで600万円で、裁判所の訴訟記録も入れたら、当時で700万円くらいだったと思います。

―― 700万円もですか。

山本 問題はいろいろな角度から言えますが、それだけお金がかかったら証拠を手に入れられない人はいるし、できるにしても、裁判を受ける入り口の所で証拠を手に入れるだけで600万円払わされるのでは、裁判を受ける権利という観点でも、まともな仕組みではないと思いました。

 それで、何とかしたいと思い始めました。大阪弁護士会の取調べの可視化・弁護人立会大阪本部が、当時、大阪で取調べの録音録画媒体の謄写が最大1枚2,500円と、高すぎることを問題視していました。その問題と共通点があったので、「録音録画媒体の値段という以前に、そもそも、開示証拠を入手するのにお金がかかること自体がおかしい」という形で問題を捉え直して動きを取ってはどうかという提案をしました。
 海外の事情を調べようという話になり、大阪弁護士会が友好協定を結んでいる海外の弁護士会に照会書を送るなどのルートで、証拠開示について教えてもらうことになりました。

―― 海外調査の結果はどうでしたか。

山本 7カ国を調べた結果、韓国だけは日本と同じでしたが、ほかは全部無料で、5カ国は電子化されているという返事でした。やっぱり無料が当たり前なのか、日本がおかしかったのかと思い、その調査結果をレポートに書きました(詳しくは、山本了宣「「開示証拠の謄写に700万円かかる」日本の法制は妥当か―刑事記録の入手に関する費用負担についての諸外国への照会調査を踏まえて―」(『月刊大阪弁護士会』、2020年6月号・7月号参照)。

 その数カ月後ですが、2020年10月に、東京の高野隆先生から、「証拠開示のデジタル化の活動をやっていきたい。ついては、参加してくれないか」ということでお声がけがあったので、「やりましょう」ということで、「証拠開示のデジタル化を実現する会」を立ち上げました。

―― 具体的にはどんな活動ですか。

山本 昨年11月の頭にウェブサイトを立ち上げて、11月11日から要望書(詳しくは、https://www.keiben-oasis.com/9442を参照)を公開して署名募集を始めました。最初は対象が弁護士と研究者でしたが、途中から一般署名の募集も始めました。
  幸いこれは普通の人が普通に聞いても結構おかしいと思うのでしょうか、短期間にたくさんの署名をいただきました。できるだけ広い範囲で理解を得ながら、何とか実現したいと思っています。

―― 今、署名はどれぐらい集まっていますか。

山本  署名は、1月22日現在、弁護士が2,700名で、一般が6,500名ぐらいで、合計したら1万名弱までいっています1)

―― 証拠開示のデジタル化のためには、特に法改正の必要はありませんか。

山本 デジタル化を義務づけるなら改正が要りますが、運用でやる分には要らないはずです。捜査機関では捜査記録をPDFにしている事件も時々あるので、そういった事件からやり始めることもできます。

―― 証拠をデジタルデータでもらった場合、例えば、その証拠を被疑者・被告人に見てもらわないといけない場合、拘置所など刑事施設のデジタル化が遅れている現状では、電子データをまた事務所などでプリントアウトしなければいけないということになるかもしれませんね。

山本 態勢が整うまではそうなるかもしれませんね。

「姫路の裁判員裁判の証拠書類はこの棚一杯あります」と語る山本了宣弁護士
(後藤貞人法律事務所にて、2021年7月6日編集部撮影)

注/用語解説   [ + ]

(2021年09月17日公開) 

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