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第3回南川学弁護士に聞く

刑事司法のあり方を常に模索する

法曹三者のバランスと刑事弁護

千葉・船橋市にあるPAC法律事務所にて、2019年6月20日


6 刑事弁護の魅力とは

──南川さんは、刑事事件をやりたくて弁護士になられましたが、多くの報酬をもらえる仕事ではないと思います。その点、苦労していることはありますか。

南川 やはり時間を取られるのが、一番の苦労でしょうね。身体拘束されていると、会いに行くにも、警察に行かなければならないし、その移動に時間がかかります。

 千葉では、木更津警察署と千葉中央警察署以外、現状では警察署の接見室が1つしかないので、ほかの弁護士とかが接見していると、待たなければなりません。だから、なるべく一般面会の時間を避けて、夜に行くことが多くなります。また、拘置所の面会時間は昼間だけなので、ほかの裁判の期日があると行けなかったりします。そのため、時間をやりくりする必要も出てきます。

 ある意味、刑事弁護は体力勝負のところがあるので、今はいいのですが、将来的なことを考えると、いまのまま続けられるかどうか、若干不安はあります。韓国のように早期の保釈とかで身体不拘束が原則になれば、打ち合わせに来てもらったりできて、苦労が減るかなと思います。

 あと、接見では、アクリル板越しだから、証拠書類を見せるのも苦労します。接見の時は通信機器を使えない建前となっているので、たとえば警察がいう犯行現場を示すためにグーグルマップなども使えないことになっています。当たり前のようにスマホを使っている世の中で、身体拘束されている時、刑事弁護の打ち合わせで、そうした電子機器が使えないのは問題です。

──今後も刑事弁護をやっていこうと思う魅力は、どんなところにありますか。

南川 魅力というか、刑事司法システムが世の中で正常に機能することが、社会正義に適うと思います。正常に機能するためには、法曹三者のバランスが重要で、刑事弁護が十分な力を持つことは、大事だと思っています。それは冤罪、誤判を防ぐことにもなります。本当に罪を犯している人だったら、適正な刑罰の実現のために弁護人としては努力します。

 神ならぬ人間の営みである刑事裁判の中で、真実発見と人権擁護などの視点から、どういった刑事司法のあり方がいいのか、常に模索していかなければいけませんが、その最前線で戦うところに,刑事弁護の魅力を感じています。

7 刑事司法改革で望むこと

──南川さんが弁護士登録されて以降、刑事司法には、大きな改革がたくさんありました。被疑者国選の問題もあるし、裁判員裁判もありますけど、刑事司法改革の中で、ここはもっと改革しなければならない点はありますか。

南川 今後、改革しなければならないのは、証拠法の問題だと、私は思っています。特に、刑訴法322条や「2号書面」の問題も含め、今のままでいいのか。伝聞法則の在り方が十分に検討されていないので、そこをきちんと議論していく必要があります。

 証拠法といった、いわば公判という出力部分が変わっていけば、必然的にその入力部分──捜査段階での証拠の作り方も変わっていくと思います。取調べの録音・録画問題も、そもそも刑訴法322条をどうするかを議論しないと、入口の取調べの危険の問題に入っていかないと思うんです。だから、手が付けられずにずっと放っておかれたのでしょうが、現行刑訴法は1949年にできて、今年2019年で70年も経ちますが、ぜひ100周年を迎える2050年ぐらいまでには動いていてほしいですね。

 新しく改正があったばかりですぐに、刑事訴訟法が動くとは思いません。長いスパンで考える必要があります。変わるのが2050年ぐらいだとして、少なくとも2030年ぐらいから議論を始めていくことになるかなと思います。新しい弁護実践や研究成果が積み重なっていく中、そこに向けて一歩一歩議論をしていかないといけないと思います。

(2019年09月24日公開) 


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