再審法改正の法制審部会、「答申案」を採決/検察官抗告の禁止など盛り込まれず、弁護士委員ら記者会見で批判


記者会見をする日弁連委員ら──左から、村山浩昭弁護士、袴田ひで子さん、鴨志田祐美弁護士、田岡直博弁護士。(2026年2月2日、東京・霞が関の弁護士会館にて。撮影:刑事弁護オアシス編集部)

 2月2日、法制審議会―刑事法(再審関係)部会の第18回会議が開かれ、「諮問第129号に対する答申案」が採決された。採決は部会長を除く出席委員13人の多数決によって行われ、日弁連が推薦した鴨志田祐美弁護士、村山浩昭弁護士、山本剛弁護士の3人の委員のみが反対した。答申案には、要綱(骨子)案と附帯事項が含まれる。

 委員の鴨志田弁護士、村山弁護士と、幹事の田岡直博弁護士は、会議後に記者会見を行った。会見には袴田巖さんの姉・ひで子さんも同席した。 

 また同日、日弁連会長の渕上玲子弁護士も、「法制審議会刑事法(再審関係)部会の要綱(骨子)案に反対する会長声明」を発表した。 

要綱(骨子)案の問題点を指摘 

 要綱(骨子) 案の中身は、1月28日の第17回会議の際に法制審事務局が提出した「試案〔改訂版〕」 と同一のものである。 第18回会議では、鴨志田、村山各委員と田岡幹事が、あらかじめ「取りまとめ(案)に対する修正案」を部会に提出していた。

 同委員らが問題視するのは、第一に検察官抗告禁止の規定が設けられなかった点、第二に証拠の目的外使用禁止の条項が設けられた点、第三に「再審の請求についての調査手続」(スクリーニング)の規定が盛り込まれた点、第四に、裁判官の除斥・忌避の問題で再審開始決定を出した裁判官が再審に関われない点である。ほかにも制限的証拠開示や、国選弁護制度が盛り込まれなかったなど、さまざまな問題点を修正案で指摘した。

 検察官抗告の禁止については、項目すら設けられなかった。免田事件や袴田事件、福井女子中学生殺人事件など、一度再審開始決定が出されても検察官抗告によって覆され、審理が長期化した例は少なくない。しかし、そのような立法事実はまったく考慮されなかった。 

 証拠の目的外使用については、再審請求人や弁護人(であった者)は、検察官開示証拠を再審・再審請求審の審理手続等以外の目的で使用してはならないという規定が設けられた。目的外使用を行った場合(弁護人は利益を得る目的の場合)、「1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する」と定められている。この規定ができた場合、再審請求審で開示された証拠を市民や報道機関に見せることなどが不可能となる (袴田事件における弁護人と支援者の共同作業では開示証拠の共有が欠かせなかった点については、ニュース「再審法改正/法制審が証拠の目的外使用禁止を検討、『袴田事件』支援者に聞く『証拠』の取扱いと市民の司法参加」を参照)。

 「再審の請求についての調査手続」(スクリーニング)として、「再審の請求を受けた裁判所は、遅滞なく、その請求について調査しなければならないものとする」という文言も盛り込まれた。十分な証拠開示や事実調べが行われないうちに拙速に請求が棄却されることが懸念される。 

 裁判官の除斥・忌避については、確定有罪判決に関わった裁判官を除斥するという点では日弁連委員も賛成していたが、第15回会議(1月6日)で突然、東京大学教授の成瀬剛幹事から、再審請求審に関わった裁判官(再審開始決定を出した裁判官も含む)も除斥されるべきだという意見が出て、多くの委員が賛成した。要綱(骨子)案でもその意見が盛り込まれ、日弁連委員らは議論が不十分などと反発している。 

 証拠開示に関しては、すべての証拠ではなく、一定の範囲に限定されるという点で問題がある。また、開示された証拠は裁判所に提出され、弁護人は閲覧・謄写が可能であるが、再審請求人には認められていない。そのため、弁護人のいない再審請求人は証拠を見ることができない。一方で、証拠開示を「命じなければならない」という提出命令が出せるということは、元裁判官である村山弁護士が述べるところによれば、心強いものだという。 

 さらに、修正案は、「裁判所は、再審の請求をした者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができない場合において、事案の内容、再審の請求をした者の状況その他の事情を考慮し、弁護人が関与する必要があると認めるときは、再審の請求をした者の請求により又は職権で、弁護人を附さなければならない」という国選弁護制度も設けるべきだとしている。 

 一方、要綱(骨子) 案とは別に12項目の「附帯事項」も付けられている。証拠開示の範囲が不当に狭くならないことや、検察官抗告が「慎重かつ十分な検討を確実に行った上で」なされることなどに期待する内容となっている。しかし、同案に入らなかった点に言及しているものの、法的拘束力はなく、曖昧な表現が多い。田岡弁護士は、「『第3 附帯事項』に対する修正意見」も提出している。 

「人権問題として考えて」──日弁連委員ら訴え 

 記者会見で、日弁連委員らは悔しさを滲ませた。 

 法制審部会の議論は、袴田巖さんが、無実なのに捏造した証拠で死刑判決を受け、無罪判決を得るまで58年かかったというところから出発したはずである。 

 法制審部会は袴田ひで子さんや東住吉事件の青木惠子さんからヒアリングを行ったが、時間は10分程度だった上に、そこで発言した意見もまったく反映されなかった。 

 青木さんは、「証拠開示、検察官の抗告の禁止、再審開始決定後の刑の執行停止、三者協議に当事者本人が立ち会えること、冤罪犠牲者が平等に裁判を受ける権利として通常の裁判のように国選弁護制度も検討していただきたい」と発言したが、要綱(骨子)案では一つも実現していない。 

 袴田ひで子さんは、「巖だけが助かればいいという問題ではない。今も冤罪で苦しんでいる人が大勢いる。巖が長く苦労したということを、せめて法律の改正ということで、どうか法務省の皆さん、人として考えてほしい」と発言したが、伝わったとは感じていないという。 

 鴨志田弁護士は、「今日は本当に悔しいですけれども、これをバネにして、冤罪被害を受けた方がきちんと適切に迅速に救われる法改正を進めるために全力を尽くさなければという思いでいます」と今後の再審法改正へ意気込みを語った。 

 衆議院選挙期間中であるが、「これでこの法案がそのまま国会に通るようなことがあったら、この国は終わり。刑事司法はその国の民主主義の尺度」と語る。「人権問題で全国民的課題で、党派に関係なくみんなが、今この時代に変えなければいけない課題だということを訴えていきたい」と、議員立法による再審法改正に強く期待を寄せた。 

 村山弁護士は、「日本の再審制度は冤罪救済を唯一の目的にしている制度だから、より早く、より確実に冤罪救済を図れるような制度にするための法改正を議論するのが当然だと思っていたが、結局、立法事実、再審請求事件がどれだけ過酷な状況にあるかというのが最後まで理解してもらえなかった」と悔しげに語る。 

 部会では何度か冤罪被害者に対するヒアリングを行ったが、ヒアリング後には、「制度全体、刑事訴訟法制度全体の整合性とか法的安定性とか、信じられないような議論が続いた」という。 

 そして、「この問題は経済対策とかそういうのとは違うんです。人権問題で人道問題なんです。経済政策であろうが、社会体制であろうが、予算の問題であろうが、どのような立場の人にとっても重要な人権問題だという位置づけは変わらないと思うんです」と訴えかけた。 

 田岡弁護士は、研究者委員が「今の再審請求手続に別に問題があるわけではない。ただ、少し規定が足りないから行間を埋める作業をする」と述べたことを挙げ、「袴田巖さんが事件発生から58年、また47年7カ月勾留されて、ようやく無実の人が無罪の判決を受けても、この制度には何の問題もないというふうにおっしゃるわけなんですよ」と憤りを露わにした。 

 また、「せめて証拠開示や不服申立てに不適切な事案があったということは認めるべきじゃないか。少なくとも一部は不適切な事案があったから、これは今後改めますと言うべきではないかと発言したけど、最後まで彼らはそれに同意しなかった。最後まで現状に問題があるとは言わない」と述べた。 

 袴田ひで子さんは、「だいたい58年も闘って、やっと無罪になったというのが非常識すぎる。こんなことがいつまでも続いていいんでしょうか」と憤った。 

 ヒアリングなどを通して、「法務省の人達は私たち一般人の常識とは違う。だから私は人間として、法務省の方はどうぞお考えくださいって言ったけど、そんなもんじゃやっぱりダメですね。聞いているふりをしてるだけなんです」と悔しさを滲ませた。 

 検察の不服申立てを制限することができない内容については、「けしからんの一言」と一蹴した。 

 そして、「でも負けてなんかいられません。せっかく58年闘ってきたんです。私、まだまだ元気でございます。100歳までも闘っていけると思います」と前向きな姿勢を示した。 

 今後、要綱(骨子) 案は2月12日の法制審総会で採択され、法務大臣に答申されることが確実である。そして選挙後、閣法として国会に提出される。 

 2月8日、衆議院選挙の投票が行われる。冤罪被害者の早期救済のための再審法改正は、選挙後の議員連盟の動きに懸かっている。究極の人権侵害である冤罪問題に対して、国民、国会議員一人ひとりが向き合っていくことが求められる。 

(2026年02月06日公開)


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