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笹倉香奈

『オアシス・インタビュー』第2回

【1/3】えん罪救済センターとSBS検証プロジェクト は何を目指すのか

実務家と研究者との連携

インタビューアー:小石勝朗(フリーライター)


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小石 そういう土壌がアメリカにはあるんですね。

笹倉 それはこっちの努力不足もあると思います。広報をきちんとしていけば、そういう寄付ももらえるのかなと思いますし、嘆いているばかりではしょうがないという気はします。

 財政面だけでなく、さらに一般的にはこんな問題もあります。専門家の先生はあまり刑事裁判に関わりたくないと思っています。それは、医者とか自然科学者だけではなく、多分、法学の研究者だってそうだと思います。事件に関わっても、ただ忙しくなってあまり得るものがないからでしょう。事件に関わることで得るものがあれば、積極的に参加される多分野の研究者もいると思います。例えば、事件の資料を研究にも活用できる法律の枠組みを整備していく必要があります。

 センターの稲葉代表が、「飛行機の事故が起こったり列車の事故が起こったりしたら、事故調査委員会が立ち上がるじゃないか。何で日本ではえん罪の原因をちゃんと追究しないのか。普通の科学者として、あるいは研究者としては当然の立場であるはずなのに、それをしなかったら、誤りをもう1回乗り越えて、もっといい建設的なことができないじゃないか」ということをよく言いますが、そのとおりだと思っています。研究者がもっと実際の事件に目を向けるべきです。私だってすべての問題にちゃんと関われているわけではないので、自分でも反省することがあります。

センターの今後の課題は

小石 えん罪をなくすためには、法的な枠組みや制度をどうつくるかも課題の1つになります。その点ではセンターは具体的に何を目指しているのでしょうか。

笹倉 個々の制度の改革はもちろん必要です。例えば、物的証拠で言えば、証拠へのアクセスで、証拠の保存・保管などの問題があります。調書の作られ方、取調べの可視化、弁護人の立会いという、一つ一つの制度に問題点がありますが、何か問題が起こったときに、誰が悪いのかという犯人捜しをするのではなく、その原因を追及できる仕組みが司法の中でもちゃんと作られるべきだと思います。

 検察、警察の内部だけではなく、みんなが関わるかたちでオープンにして議論するべき、社会的な問題だと思います。それを議論できる仕組みが必要です。そして、議論して、制度を変えていくというサイクルが必要です。

 えん罪の原因追及はこういう民間団体だけでできる話ではありません。えん罪を調査する公的な第三者機関が必要になってくるのかもしれません。イギリス、スコットランド、ノルウェーのCCRC(刑事再審委員会)など、確定した事件をもう1回検証し直す機関を司法の枠組みの外でつくることも必要だと思います。

小石 日本ではえん罪が起きても、それを検証する第三者機関ができたことがありませんが、絶対に必要です。

他の団体との連携

小石 課題は、その他にありますか。

笹倉 取り組んでいかなければいけない問題はいろいろあります。たとえば、我々としてもえん罪が救済されたあとのサポートも将来的には考えていくことが必要だと思います。布川事件の櫻井昌司さんが『冤罪犠牲者の会』を2019年3月に立ち上げられましたが、そういう団体をもっとつくるべきだと思います。

小石 生活支援的なものも含めてですか。

笹倉 そうです。アメリカでは、イノセンス・プロジェクトがそこも担っていますが、日本でもソーシャルワーカーとか、いろいろな専門家の対応が必要になってくると思います。本当はそこまでカバーしなければ、広い意味でのえん罪問題は解決できません。

小石 社会に戻って普通に生活できるようになって解決、ということでしょうからね。

笹倉 失われた時間はもちろん戻りませんが、それを補うだけの補償は与えられるべきです。

えん罪の被害者たち
「冤罪犠牲者の会」の結成総会に出席したえん罪の被害者たち。会には41事件の当事者や家族らが参加している(3月2日、東京都内の甲南大学ネットワークキャンパス東京、撮影/小石勝朗)。

小石 当番弁護士のように、「どこかのタイミングで必ず告知しなければいけない」という制度になることを期待したいです。

笹倉 最近は刑事施設の中からの申込みが多いですが、そういう人は、家族や友人から聞いたのかも知れませんね。刑事施設の中にいる人たちの間でそういう話題になっているのかもしれません。

法務省矯正局への申し入れ

小石 刑事施設といえば、刑事施設によるセンターへのアクセス妨害があったことを、2018年3月に発表しています。どういう形で表面化したのですか。

笹倉 刑事施設に収容されている人から申込書が届いて、「資料を送ってください」という段階で、「送らせてもらえませんでした」という手紙が届きました。そういう事例が2017年度に一番多かったと思います。もし刑事施設から事実上の圧力がかかって資料が送れないということがあるとすれば、えん罪救済に支障をきたすという意味で重大問題です。そこで、法務省矯正局に申入れを行いました(2018年3月12日「刑事施設の被収容者から『えん罪救済センター』への書類の送付について法務省矯正局宛て申入れ」)。

小石 実際に表面化していないものも入れれば、全国的には、こういう事例は結構あるのでしょうか。

笹倉 このちょっと前に、長野刑務所の収容者が「えん罪救済センターに資料を送ろうとしたら送れなかった」と長野県弁護士会に人権救済の申立てをして、それに対して長野県弁護士会が抗議声明を出していました。「われわれとしてもやらなきゃいけないな」ということで、申し入れをしたということです。

小石 正当な理由もなく、刑事施設当局が救済の相談に関する通信を制限しているということですか。

笹倉 事実上の制限なのか、それとも実際に何かの法律に基づいて制限したのかもよくわからないので、その両方の点についての早急な調査と制限の撤廃を求めました。その後、法務省から回答や面談の機会がないのですが、そのあとは問題にはなっておらず、ちょっと落ち着いています。もしかしたら、申し入れが効果を持ったのかもしれません。特に長野刑務所については長野弁護士会が迅速な対応をされたので、それもよかったのだと思います。

小石 こういうかたちで頭から抑えられると、救済が必要な事件で同様のことが起こるおそれがありますね。

笹倉 そうです。私たちの所だけではなく、ほかの所に出しても同じようなことが起こっていたら困るので、監獄人権センター(CPR)にも伝えて、「こういう問題が生じていますよ」ということを共有しました。

「えん罪救済センターとSBS検証プロジェクト は何を目指すのか」その2はこちら

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