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『オアシス・インタビュー』第5回

性犯罪の量刑の実証研究からみえてくるもの

裁判官や裁判員はどのように量刑を決めているのか


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柴田守(しばた・まもる)氏
柴田守(しばた・まもる) 氏(2020年2月1日 現代人文社にて)。

1 量刑の実証研究のきっかけ

—— 柴田先生は、量刑判断の研究をずっとされていると聞いています。まず、その研究を始めたきっかけをお話しください。

柴田 実証研究はもう10年以上になりますが、きっかけは2つあります。指導教授が専修大学名誉教授の岩井宜子先生ですが、専修大学は、伝統的にそうした量刑の実証研究をやってきております。前田俊郎先生、岩井宜子先生、井上大先生、渡邊一弘先生という流れです。私の兄弟子の渡邊一弘先生は、岩井先生と一緒に死刑の判断に関する研究(「死刑・無期懲役の数量化基準――永山判決以降の判例分析」専修大学法学研究所紀要『刑事法の諸問題VI』(2003年)など)をしました。そうした系譜から、この研究に入っていったのが、まず1つです。

 2つ目は、これも10年近く前ですが、ちょうど交通犯罪の法改正の時期で、その量刑に非常に興味を持ちました。例えば、自動車運転過失致死傷罪の法定刑には、懲役、禁錮のほかに罰金もあります。懲役・禁錮の長期が7年以下ですから、選択の幅が広いうえに、そこには実刑か執行猶予の判断も必ず付いて回るものなので、さらに選択の幅が広がるわけです。それをどうやって裁判官は判断しているんだろう、どういう基準で判断しているということが非常に興味深かったからです。

—— 交通犯罪の刑罰には、さまざまな選択肢があるんですね。

柴田 当初は、刑法の業務上過失致死傷罪が当てはめられていましたが、その法定刑は最初禁錮3年以下でした。それが5年になって、懲役刑が加えられたりして、そして、刑法典に自動車運転過失致死傷罪が新設されて、懲役・禁錮の長期が7年以下になりました。今では、特別法の「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に移管されて、過失運転致死傷罪の場合には懲役・禁錮で7年以下ですから、2倍以上になっています。改正のきっかけは刑罰が非常に軽すぎるという被害者からの指摘があったからです。交通犯罪は被害者運動も大きく関係しています。

 量刑判断を一般の国民にきちんと見てもらったうえで議論しないと、単に厳罰がいいとか悪いとかだけでは判断できないと思います。

2 量刑判断のしくみ

—— 実際の裁判実務では、どういう形で量刑判断をしているかについてお聞きしたいと思います。

柴田 裁判員裁判を契機に、量刑判断のモデルが示されました。これは司法研究(『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』)などで示されましたが、それはおおよそ次のような手続です。

 裁判員にとって、刑の量定ははじめてすることで、職業裁判官のように判断の経験値がありませんから、幅広い法定刑・処断刑(法定刑に法律上および裁判上の加重軽減を加えた刑)からそれを導きだすことは困難です。そこで、犯情から犯罪行為が社会的にどのような類型(社会的類型)に位置するのかを明らかにします。たとえば、路上強盗(致傷)の事案といっても、銀行など金融機関を狙った強盗や店舗狙いの強盗、タクシー強盗などさまざまな形態があります。それに従って犯罪行為の重さ――非常に重い、やや重い、軽いというように3分類ぐらい――にわけて、それを目安に各類型の間で位置付けを決めて、宣告刑(処断刑の範囲内で具体的に刑の量定を行って言い渡される刑)に向けての絞りをかけていくわけです。最後に、周辺的というか、付随的な考慮として一般情状で決めていきます。

 社会的類型は、犯情を中心として決めますが、一般情状は周辺的、付随的なものとして位置付けられているというのが、現在の実務上の量刑判断モデルです。これは裁判例などでも確認されているので、実務的には定着しているものだろうと思います。

—— 犯情と一般情状というのが分かりにくいと思いますので、簡単に説明してください。

柴田 犯情というのは、犯罪行為に関する事情です。例えば、殺人罪における被害者の数、窃盗罪における被害額など結果、犯罪行為の悪質さ、保険金目当てといった動機などです。それに対して、一般情状は犯情以外の事情で、例えば、前科・前歴、また、被害者と被害弁償や示談が成立しているかどうかとか、更生をする支援先があるかどうかといったことなどです。ですから、一般情状というのは、犯情以外の被告人に関する事情を中心にしたものということになります。

—— 裁判員裁判では一般の人が裁判官とともに有罪・無罪の事実判断から量刑判断までしますが、裁判の経験があるわけではないし、事件はそれぞれ千差万別で、量刑判断の要素をうまく当てはめていくことは難しいのではないかと思います。それでも、裁判ですから判断しなければいけないときに、その判断がうまくできるのかどうか疑問をもちます。

柴田 例えば、量刑判断にあたって、過去の裁判例を参照する際は、何かに着目して参照する裁判例を引っ張ってくることになります。私の実証研究から考えてみる限りは、ほぼ犯情で決まっているのだと思います。ただ、さっき言ったような被告人に関する事情である一般情状や、事件の犯情以外のそのほかの背景事情を考えれば、参照の仕方は非常に問題になってくる気がします。1つ懸念していることは、現状では一般情状が少し軽視される傾向があることです。

 量刑というのは、「これは絶対3年」と決まるものではなくて、幅があっていいと考えられています。もちろん一部の学説で異論はありますが、今の学説や実務での一般的な理解です。したがって、控訴されたときに、控訴審でこの範囲だったらいいだろうというチェックが入ります。

 先程いったように量刑は犯情と一般情状で決まりますが、犯情に関する量刑の因子はいっぱいあります。一般情状もいっぱいあって、さらに言うと、量刑因子の中に、例えば、死亡した被害者の人数が1人だったのか2人だったのか3人以上だったのかというサブカテゴリーがあります。私の実証研究でもあわせて100以上のサブカテゴリーを見て分析しています。

 その中で、その事件が何に該当して、1人殺しているのか2人殺しているのか、動機は、例えば怨恨なのか、それとももっと違う理由なのか、それを一つひとつチェックしていって、そのチェックしたもので刑の重みが決まるという構造です。チェックして、重みを掛け合わせて、足し算して、刑期は大体これぐらいと決まるわけですが、その幅が適切かどうかは、実証されていないんです。その幅がいいのか悪いのかは、今までのデータを検証して考えなければいけないと思います。

 以前、判例時報で評釈した事案(判例時報2371号〔判例評論714号〕)があります。路上での連続強盗致傷の事案ですが、第一審では示談とか被告人が若年者であることとかをおそらく重視したようで、懲役3年で5年の保護観察付き執行猶予となりましたが、控訴審では、示談などを重視していなくて、破棄自判して主犯格には懲役6年6月、もう1人の共犯者には懲役6年を科しました。

—— すごい違いですね。

柴田 一審は裁判員裁判でした。許されるという言い方はちょっと変ですが、控訴審で破棄して自分の所で判断(破棄自判)することが許されるのか、それがすごく気に掛かっています。第一審と控訴審とで判断の基準や結果に大きな乖離があるからです。そのときの評釈では、「差し戻して、もう一度信を問うべきだったのではないか」と書きました。そういう意味で興味深い事例です。

(2020年10月05日公開) 

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