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漫画家・浅見理都が刑事弁護人に聞くザイヤのオオカミ

第5回 石野百合子弁護士に聞く(2)

「法律家の枠をこえる」弁護士の仕事

非行を犯した少年が、自分と向き合えるように寄り添う


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少年と信頼関係をつくる雑談

 少年事件で、一番苦労したケースって何ですか。

 どれも結構大変なんで、一番って言われてもむずかしいですね。

 たとえば、重大事件をやったときに、不遇感を抱えていた少年だったのですが、2年近く、その少年に週に1回ぐらいのペースで、ひたすら会っていたんです。何の用がなくても。

 雑談しにいくみたいな感じですか。

 そうですね。

 少年への面会って、1回何分までとか、毎回時間が決まっているんですか。

 いえ、特に決まってないですね。基本的に少年の場合でも、弁護人や付添人は権利を守るためにいるので、時間は無制限です。

 私は行くと毎回、小一時間ぐらい話し込んできますね。最後の方には、「仕事大変だと思うけどがんばってね」とか、「風邪ひかないでね」とか、私を心配するような発言もしてくれるようになって、人のことを思いやれる、本来の優しさが出てきたんだな、と感慨深く思ったことを覚えています。

 石野先生が担当した少年で、社会復帰した方も結構いらっしゃるんですか。

 今、元気にやっていることがわかっている少年は何人もいます。少年院を出て「何も悪いことをしていない」っていう少年もいれば、残念ながら「他の件でまた捕まって、結局少年院へ行った」っていう少年もいます。

 あと「今度は犯罪に巻き込まれて、被害者になってしまい、暴行を振るわれて、ケガをしたから、何とかできませんか」みたいな形で連絡をもらったこともあります。

 そんなケースもあるんですね。

 親御さんが私に、「今回、この子、手を出さなかったんですよ、先生」って。「ケガさせられちゃって、ネックレスを引きちぎられたらしいんですけど、多少賠償してもらえたりするんですか」と連絡してきました。

 大きな目で見たら、殴らなかったっていう点で、一歩前進ですね。

 そうなんです! 「元」少年が「今回はぐっとこらえました、超腹立ったんすけどね」って言うのを聞いて、「えー、殴らなかったんだ、偉かったじゃん」みたいな話をしたりしました。

少年から話を聞くときに気をつけていること

 少年から話を聞くうえで、気をつけていることはありますか。

 上から目線にならないように気をつけています。少年は少年で歳は下なんですけど、一個人なので、人格にできるだけ配慮したような接し方ができたらいいなと思っています。

 自分も親ぐらいの年齢になってきているので、少年の話を聞きながら、「えっ!? ダメじゃん」「それって、あなたが悪いよね」みたいなことを言いたくなるんですけど、まずは本人の見え方を、言い分を聞いてあげたいと思っています。価値観の押し付けにならないように。人から言われたことなんて、聞くのに限界があると思うので。

 結果的に「この程度、反省してくれたらいいな」とか、「この程度、この事件に向き合ってくれたらいいな」っていうゴールは、確かにあります。だけど、そのゴールを私が教えるのではなく、できるだけいろいろな角度からコミュニケーションをとって、本人が自分で気づいてくれるような流れにもっていけたらと思っています。

 話を聞く中で、腹立つようなことを言われたりしないんですか。

 あんまりないですね。向こうも一応、弁護士に逆らうと良くないっていうのはわかっているからか、わかりやすい反抗はありません。

 ただ信頼してもらえていないときに、明らかに距離を感じることはありますね。

 やさぐれた感じですか。

 「やさぐれ」っていう言葉は、当たっているのかもしれませんね。

 「どうせ、弁護士さんにはわかんないですよね」
 「俺が悪いことをしたんだから、少年院に行かされるんでしょ」
 「(やったことを警察から突き付けられて)今さら『やってない』と言っても、もう無理だっていうのがわかったし、やったことを認めました」

 何か投げやりになっているんですよね。あと「僕がね、警察で認めた内容はね、こうなんですよ」みたいに、ペラペラと警察で言われた警察官の言葉をコピペして、あたかも自分で話しているようなことも多いんです。

 例えば、供述調書って、少年のケースでも、基本的に警察官が下地を作ります。供述調書の一般的な書き方のようなものがあって、最終的に裁判で耐えられるような言葉で警察官が作成するのですが、「私はこのとき被害者に腹が立ったので、被害者をぶん殴ってやろうと思いました」みたいな文章が挿入されたりするんです。

 私は、実際に少年がそういう言葉を使うとは思えないので、少年に「どういう事件だったの?」って聞くと、「そのとき、腹が立ったんで、殴ってやろうと思って」と言うわけです。「それって、あなたがさっきサインした調書のままじゃないの?」「本当に自分の言葉でしゃべってんの?」とやりとりすることがあります。

 面倒くさくなっちゃったんですかね。

 面倒くさくなったのか、頑張って説明しようと思ったら、そのとき脳裏に焼き付いているものをそのまま吐き出すしかなかったのか。別に警察官に悪意があるわけじゃないのかもしれませんけれど。

 確かに、そういう少年は多そうです。逆に、自分の意見をハキハキ言える子だったら、そこにはいなさそうですし。

 すぐ投げやりになっちゃうんですが、よくよく聞いていくと、「実は、ちょっと違うんすよね」みたいなことがポロポロと出てきます。

 刑事裁判だと、「1回言っちゃったら、覆すのが大変」っていうのがありますが、少年審判では成年事件より言いやすい(訂正しやすい)ってこと、あるんですか。

 少年事件には、刑事裁判ほど証拠の出し方について厳格なルールがなく、とりあえず全て証拠になるんです。

 例えば、刑事裁判だと「伝聞証拠は基本的に出してはいけません」というのがあって、被告人の署名捺印のない供述調書などは、証拠として採用されません。

 他方、少年事件の記録は、一式すべて家庭裁判所に送付されることになっています。だから、少年の供述調書は、署名捺印がないものであっても、署名捺印のない供述調書として記録に綴られることになり、それも裁判官の判断の材料になります。

 最終的に本人が内容を確認して署名捺印していなくても、話した内容が書面になって独り歩きし、記録に綴られてしまうことがあるんです。

 その点では、今までの経過すべてが出てしまう前提で、違うなら違うことを丁寧に示していく必要があります。

 審理のやり方そのものは、刑事裁判と結構違うんですが、罪を認めている事件の場合、処分に影響を及ぼさない事実関係の細かいところはあまり大きな問題になりません。

 ですが、罪を認めるかどうかというところで、1度罪を認めた後に「やってない」と言うと覆すのが大変っていうのは、少年の場合でも、成人の場合でも変わりはありません。

(2021年11月05日公開) 

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インタビュイープロフィール
石野百合子

(いしの・ゆりこ)


埼玉県生まれ、神奈川県育ち。東京大学経済学部経営学科卒業。都市銀行勤務後、早稲田大学大学院法務研究科修了、平成23年弁護士登録。新百合ヶ丘総合法律事務所共同代表。日弁連子どもの権利委員会幹事。『少年事件ビギナーズ ver.2』の編集も務める。地域に根差した弁護士業務を行うかたわら、少年事件や犯罪被害者支援、高齢者障がい者支援なども積極的に行っている。

インタビュアープロフィール
浅見理都

(あさみ・りと)


漫画家。1990年、埼玉県生まれ。『第三日曜日』で第33回MANGA OPEN東村アキコ賞を受賞。『イチケイのカラス』は自身初の連載(モーニングで連載、2018年24号〜2019年14号)。


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