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12(2015年)

[最優秀賞]

被害者供述の信用性を弾劾して勝ち取った無罪判決と逆転刑事補償

神林美樹かんばやし・みき第一東京弁護士会・64期

窃盗被告事件

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[優秀賞]

虚偽告訴の解明と無罪判決

染川智子そめかわ・さとこ大阪弁護士会・64期

暴行被告事件

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[優秀賞]

包摂か排除か ──福祉的支援を確保して懲役刑を回避した事案

芝﨑勇介しばさき・ゆうすけ東京弁護士会・66期

窃盗被告事件

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[論評]

 第12回新人賞は、全国各地から17件の応募があり、研究者および実務家10名からなる選考委員会で議論を尽くし、最優秀賞1名と優秀賞2名を選考した。

 応募のあったすべての弁護活動は素晴らしいものであった。優秀賞とまではいかないが、実務的に参考になると判断され、本誌でレポートを依頼したものも多数ある。いずれの事件の弁護人も、つまらない型にはまることなく、捜査・公判、あるいは判決後においても依頼者のためにベストを尽くしていた。その情熱的な弁護人としての活動は、すべての弁護人に参考になるものである。

 最優秀賞となった神林さんの事件は、展開がドラマチックである。捜査段階で「本当のことを話します」と依頼者から言われ、まったく異なる事件像が語られる。弁護人は、悩みつつも最終的に検察官に真相を話し、再捜査等を求めるがなかなかうまく進展しない。そこで、独自の調査や証拠開示を経て、期日間整理手続で徐々に弁護人のケース・セオリーを構築し、それに沿った反対尋問を行ったところ、依頼者に感謝を示された。うらやましい関係である。そして無罪という結論も素晴らしい。検察官に再捜査を求めるという方針自体は異論もありうるかもしれない。しかし、依頼者が納得するまで話し合う姿勢やその真摯な活動があってこそ、依頼者との信頼関係も築けたものと思われた。また、刑事補償の裁判で補償を否定され、抗告審でようやく補償が受けられるなど、裁判が終わってもなお不屈の精神で依頼者の利益のために頑張る姿勢は、多くの選考委員の心を掴んだ。個人的には、不正行為に加担し、あえて虚偽自白をしていた微妙な立場の依頼者のために全力で頑張れる姿勢も素晴らしいと感じた。

 優秀賞の染川さんの事件は、現場付近で情報収集をしたり、協力が難しいと言われても粘り強く交渉を重ねた点など、弁護活動のあるべき姿と思われる。まめに足を運び、事実を調査することの大切さは頭ではわかっていても、ついつい忙しさにかまけて怠ってしまうこともあると思うが、染川さんのように一つ一つの行動が人の心を動かすことを忘れてはならないと感じさせた。また、被告人の話を聞こうとしない裁判官に対して、「あなたの態度は大変に問題がある」、「忌避しますよ」と詰め寄れる感性は、弁護人として大事なスピリットだと思う。裁判所や検察官にいい顔をしたいと思う弁護士は少なくないが、問題ある実務家や実務慣行に対しては、染川さんのように正論で破壊してほしい。

 もう1件の優秀賞となった芝﨑さんの事件は、普通の刑事事件として処理されれば前科等もあり実刑が予想される事件である。福祉や医療の専門職と協力しつつ、実刑を回避するための他の専門職との連携のあり方や具体的な弁護活動は参考になる。刑事事件だけであれば、判決が出て終わりというものであるが、その後の依頼者の人生のことも考慮すれば、弁護人の活動はそれだけに尽きるものではない。そして、芝﨑さんの事件処理が素晴らしいのは、訴訟能力や責任能力といった刑事裁判との関係でも、きちんと事案を分析して、争うべきところは争っている点である。福祉との連携が問題になる事件では、とかく刑事事件として問題にすべき点も多数あるように思われ、そのような視点でもきちんと事案が検討できている点が、芝﨑さんの事件処理の秀逸さであった。

 私個人は、司法研修所で刑事弁護を教える立場であるが、新人賞応募の各レポートを読み、あらためて刑事弁護のやりがいと若手弁護士の無限の可能性を感じさせてもらった。