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13(2016年)

[最優秀賞]

被告人と向き合い突破口を見出した無罪事件 ──初めての刑事事件の報告

伊藤英範いとう・ひでのり熊本県弁護士会・65期

傷害被告事件

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[優秀賞]

出口効果に期待できない高齢者の入口支援

池田征弘いけだ・ゆきひろ鳥取県弁護士会・66期

窃盗被疑事件

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[優秀賞]

共に歩み、闘った2年

山田恵太やまだ・けいた東京弁護士会・65期

詐欺被告事件

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[特別賞]

9日間の闘い ──「被告人を信じる」ということ

工藤ゆかりくどう・ゆかり香川県弁護士会・65期

保釈取消決定に対する抗告申立事件

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[論評]

 本年の季刊刑事弁護新人賞には、17名の新進気鋭の弁護士から応募があった。選考委員である研究者と実務家が精読と議論を尽くした結果、伊藤英範さんが最優秀賞、池田征弘さんと山田恵太さんが優秀賞、そして工藤ゆかりさんが特別賞に選定された。他にも優れたレポートが複数あり、とても悩ましい選考であった。

 伊藤さんは、傷害被告事件を受任して、まずは直ちに依頼者と打合せをし、現場に行き、目撃者からの聴取りをし、文献を調査し、医師の見解を聴取したという。一連の弁護活動は、自らの足で事実と証拠を収集すべき弁護の基本に忠実なものといえよう。選考委員の議論では、公判廷での訴訟活動に関しては、被害者の供述調書に同意することや、目撃証人に対して意見を求める質問をすることについて、証拠の内容次第では疑問もありうるとの指摘もあった。他方、伊藤さんがこだわった「現場感覚」は、若手弁護士の皆さんに何よりも大切にしていただきたいものである。中堅やベテランの弁護士も、忙しさを理由に現場に足を運ぶことを怠っていないか、わが身を省みる必要があるだろう。現場感覚にこだわって事実と証拠を収集し、その結果として無罪判決という素晴らしい成果を得られた点が高く評価され、伊藤さんが最優秀賞に選定された。

 池田さんは、依頼者が執行猶予期間中に万引の再犯を犯した事件の起訴前弁護を受任して、直ちに「不起訴に向けたケースセオリー」を立てたという。そして、まずは勾留の裁判に対する準抗告を申し立て、裁判官面接を「核心」と位置付けて勾留決定を取り消させ、そして依頼者が釈放された後は、担当医からの情報収集、地域生活定着支援センターとの連携、保護観察所への相談と、「一般情状を作る」活動を徹底的に行ったという。「白表紙の弁論要旨記載例の一行情状を羅列することは厳に避けなければならない」、そして「質のある情状をどこまで作ることができるかにこそ弁護人の力量が問われる」との池田さんの指摘を、情状弁護に臨むにあたってあらためて心に銘記する必要があるだろう。

 山田さんは、オレオレ詐欺に関与した少年の被疑者国選弁護人に選任されて以降、依頼者が成人する前後にまたがる2年以上にわたって依頼者に寄り添い続けた。途中、依頼者が「自分はもう終わりだ」と言ったときも、いったんは社会復帰したのにまた逮捕されて依頼者が落ち込んだときも、可能な限り身体拘束を争う手段を講じ、依頼者を励まし、そして最終的には執行猶予判決を得た。一般的に量刑判断が厳しいとされるオレオレ詐欺事犯で執行猶予が得られたのは、弁護人の丁寧な主張立証の成果であるだろう。

 工藤さんは、保釈が取り消されるという珍しいケースにおいて、抗告審で保釈取消決定を取り消させる成果をあげられた。拘置所と掛け合って時間外接見を認めさせて事情聴取をし、短期間のうちに証拠資料を収集しきった活動は充実した素晴らしいものである。途中、裁判官からの電話に対して臆することなく自らの考えを述べた対応も素晴らしい。ポイントになった活動の期間は短いものの、先例が乏しい局面で充実した弁護活動を遂げた点が高く評価され、特別賞を贈ることになった。

 読者の中には、新人賞のレポートを読むと初心にかえるという方も少なくないであろう。あらためて「現場感覚」を大事にされ、そして成果を挙げられたら、ぜひ本誌刑事弁護レポートへの寄稿をお申出いただきたい。