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19(2022年)

[最優秀賞]

依頼者を信じ、動き、考え、 勝ち取った涙の逆転無罪判決

下村悠介しもむら・ゆうすけ第二東京弁護士会・72期

窃盗被告事件

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[優秀賞]

被疑者は病気なのか、そうでないのか──精神病状が寛解した事例の難しさ

志塚永しづか・ひさし第一東京弁護士会・72期

現住建造物等放火未遂被疑事件

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[優秀賞]

最低限の職責を果たすことができた事件

田中晴登たなか・はると大阪弁護士会・69期

準強制わいせつ、出入国管理及び難民認定法違反被告事件

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[論評]

 第19回季刊刑事弁護新人賞は、14件の応募があり、2021年10月4日に選考委員会が開かれました。今回は、応募件数も多く、内容も否認事件、情状弁護、少年事件と多彩でした。いずれの事件も、若手らしい大きな熱量に富んでおり、選考に悩みましたが、選考に当たっては、刑事弁護の質はもとより、若手らしい熱意を感じるかを考慮しました。なお、応募原稿に頁数がない方、余白が狭すぎるなど読みにくい原稿も複数ありました。応募原稿だけではなく、日頃作成する書面においても、常に読み手を意識した読みやすいものを作るということを体裁面も含めて考えていただきたいと思います。

 今回は、最優秀賞に、第二東京弁護士会の下村悠介さん、優秀賞に第一東京弁護士会の志塚永さんおよび大阪弁護士会の田中晴登さんが選出されました。いずれも甲乙つけがたい優秀な刑事弁護でした。

 まず、最優秀賞の下村さんの事件を紹介します。事案は、原審において懲役1年の実刑判決が下された窃盗事件の控訴審で、逆転無罪となったものでした。被告人は、新潟市内の漫画喫茶のトイレで置き忘れられた財布を盗んだとされたが、原審から否認していました。下村さんは、東京高検や新潟地検から多数の証拠開示を受け、さらに新潟の現場にバイクに乗って赴き、現場と証拠との整合性を検討する等されました。しかも2回も新潟に赴かれています。さらに、先輩弁護士からのアドバイスをえて、控訴趣意書を書き直し、控訴審で入手した防犯カメラ映像を証拠化するなど、多角的かつ充実した弁護活動を展開されています。その結果、逆転無罪判決を得られました。若手ならではの熱量に圧倒されつつ、レベルの高い弁護活動に、選考委員会でも満場一致で最優秀賞に決定されました。

 次に、優秀賞を紹介します。まず、志塚さんの事件は、介護疲れなどから自宅に火をつけてしまった現住建造物等放火未遂事件です。この件では、被疑者段階で不起訴、医療観察法段階において不処遇決定を得ておられます。志塚さんは、依頼者が単に介護疲れで放火をしたのではなく、統合失調症の影響を明らかにしつつ、外部専門家とともに帰住先を調整し不起訴処分を勝ち取り、さらに医療観察法段階においては、社会復帰調整官と協議しつつ通院先を確保するなどし、不処遇決定を得ておられます。特に、支援計画を依頼者に押しつけるのではなく依頼者と協議をしながら進めており、依頼者に寄り添った弁護活動だったことも評価されました。

 最後に、田中さんの事例を紹介します。田中さんは、当番弁護士として、マッサージ店でマッサージ師として施術中にわいせつ行為を行ったとされる準強制わいせつと出入国管理法違反の強制退去事案を受任され、準強制わいせつ事件について無罪を勝ち取っておられます。田中さんは、痴漢事件における被害者心理に関する論文などにあたりケースセオリーを構築し、公判前整理手続を要求し、緻密に被害者証言を弾劾しておられました。弁護技術として、若手とは思えない高度なものと評価されました。

 選考委員自身も、若手の方の熱意があり高度な弁護活動に刺激を受けました。この新人賞が、刑事弁護の向上につながればよいと祈念しております。

* 今回の選考委員は次のとおり。石田倫識(愛知学院大学教授)、高平奇恵(弁護士・第二東京弁護士会、東京経済大学准教授)、津金貴康(弁護士・兵庫県弁護士会)、土橋央征(弁護士・大阪弁護士会)、山本衛(弁護士・東京弁護士会)、児玉晃一(弁護士・東京弁護士会)、北井大輔(本誌編集長)。

* 本賞は、株式会社TKCにご協賛いただいております。