20(2023年)

[最優秀賞]

怖さを抱え、「入院」という偏見と闘い抜いて

平岡百合ひらおか・ゆり東京弁護士会・73期

傷害致死被疑事件

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[優秀賞]

情状弁護はヒューマニズムであるか

進藤一樹しんどう・かずき愛知県弁護士会・72期

窃盗被告事件

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[論評]

 第20回季刊刑事弁護新人賞は、全国各地から9件の応募がありました。応募総数自体は多くはありませんでしたが、すべてのレポートから熱意をもった弁護活動をされていることが感じられました。

 2022年10月7日に、研究者および実務家6名からなる選考委員会を開催しました。選考にあたっては、若手らしい悩みを持ちながら、それでも困難に立ち向かうためにあらゆる工夫を行い、我々若手とは言えなくなってしまった弁護士達の背筋を正してくれるような弁護活動に高い評価を与えるようにしました。このような観点からの厳正なる選考の結果、最優秀賞1名、優秀賞1名を選考しました。

 最優秀賞の平岡百合さんは、傷害致死罪の医療観察申立事件において、一見捜査機関の見立てが合理的かのように思える被害者に残る傷について、鑑定書を含む記録と丹念に向き合い、別の原因によって発生した合理的な疑いの存在を明らかにすることによって最終的に対象行為なし申立却下決定を獲得されました。医療観察という手続の中でも丹念に対象行為の検討をしたことのみならず、依頼者に寄り添いながら、早く事件を進行したがる裁判官の心をも動かして依頼者にとって最良の結果を獲得したことが高く評価され、全員一致で最優秀賞に選考致しました。

 優秀賞の進藤一樹さんは、窃盗事件について、執行猶予付きの判決が見込まれる中であっても福祉支援者を巻き込んで支援体制を構築し、それらの職員の尋問を実施するだけではなく自身もよりそい弁護士として活動を行うことを立証するなど、一回結審事件ながらも手厚い弁護活動をされました。不起訴に向けた活動にさらなる工夫の余地もあったと思われることから惜しくも最優秀賞には届きませんでしたが、まさに自分の足で駆けずり回って支援体制を構築したことが高く評価され、優秀賞に選考致しました。

 この新人賞が日本の刑事弁護活動の向上に寄与することを祈念しつつ、来年度も多くの若手弁護士の素晴らしい弁護活動が報告されることを期待しています。

* 今回の選考委員は次のとおり。石野百合子(弁護士・神奈川県弁護士会)、竹中らく(弁護士・兵庫県弁護士会)、中原潤一(弁護士・神奈川県弁護士会)、南川学(弁護士・千葉県弁護士会)、緑大輔(一橋大学教授)、北井大輔(本誌編集長)。

* 本賞は、株式会社TKCにご協賛いただいております。