8(2011年)

[最優秀賞]

情状弁護としての福祉的支援の必要性

高橋千恵たかはし・ちえ埼玉弁護士会・62期

占有離脱物横領被告事件

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[優秀賞]

離島で限られた資源を活用して得た釈放

寺田明弘てらだ・あきひろ沖縄弁護士会・60期

現住建造物等放火未遂被疑事件

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[優秀賞]

責任能力が問題となる要通訳事件の難しさ

大坂恭子おおさか・きょうこ愛知県弁護士会・60期

暴行被告事件

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[特別賞]

名誉回復手段としての被疑者補償制度の活用

田中広太郎たなか・こうたろう横浜弁護士会・62期

窃盗被疑事件

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[論評]

 第8回目を迎えた季刊刑事弁護新人賞に、今回も11名の応募がありました。内訳は、応募時の地域別で、東京2名、埼玉2名、札幌1名、福島1名、千葉1名、愛知1名、横浜1名、香川1名、沖縄(宮古)1名でした。前々回は9地域18名、前回は10地域20名でしたので、人数的には少し寂しい感じがしましたが、北は沖縄から南は北海道までという地域的な広がりは保つことができました。また、法テラスのスタッフ弁護士から1名、ひまわり型法律事務所から1名と、スタッフ・ひまわり型弁護士はわずか2名で、いわゆる普通の事務所の弁護士からの応募がほとんどでした。

 2010年10月24日に選考委員会を開催し、厳正な審査の結果、標記のとおりの受賞者を選ばせていただきました。今年度も、選考委員がすべての応募作品に目を通しましたが、数は11通だったものの、いずれのレベルも高く、本当に甲乙つけがたいものばかりでした。

 そのなかで、最優秀賞の高橋さんは、被告人の更生をめざす弁護ともいうべき情状活動を実践されたうえに、検察官との交渉にも怯まず、その熱意が罰金求刑・判決に結びついたのではないでしょうか。今までの「被告人は反省しているので、寛大なご処分を」式の謝罪型ではなく、被告人の更生に向けた環境整備をととのえるという意味での創造型弁護といえます。ことに、勾留中の生活保護申請やそれに伴う判決宣告後のアフターケア、更生緊急保護の申請、知的障がい者に対する障害者生活支援センターや、アルコール依存症の治療のための「こころの健康センター」からの支援要請など、大いに参考となる取組みがなされています。

 優秀賞の寺田さんは、聴覚障がいをもつ男性の捜査弁護につき、地理的悪条件をも克服され、被疑者の受入れ体制を家族とともに構築されただけではなく、家族にも手話通訳の習得を勧めるなど、被疑者と家族とのコミュニケーションを築き上げることによって、被疑者の更生を図り、それが起訴猶予処分につながったといえるでしょう。とくに、被疑者のアルコール依存症の治療に関して、主治医との連携を図ったり、福祉関係機関から被疑者に対する支援の上申書を出してもらうなど、被疑者の更生・治療に向けた環境整備の手法は、とても参考になりました。

 優秀賞に選ばれた大坂さんは、通訳事件にもかかわらず、被告人に精神疾患があることを疑い、その後も精神鑑定のフルコースともいうべき弁護活動を着実に行われ、その努力が無罪判決につながったといえるでしょう。とくに、通訳の場合には、通訳人が「意味の通る」ように整然とした内容へと被告人の供述内容をまとめてしまい、被告人の精神的疾患や異常な発言がネグレクトされてしまうことに注意を喚起する意味でも、この実践例は参考になります。

 特別賞に選ばれた田中さんの事案は、通常の刑事事件ではなく、被疑者補償制度に取り組んだというものでした。また、田中さんの特技であるスペイン語を駆使して、被疑者との意思疎通を図るなど、多種多様な経験を有した弁護士が多く輩出されなければならないという司法改革の成果を垣間見たような活動でした。そのため、最優秀賞候補にも挙げられましたが、その事案の性質から特別賞がふさわしいということになりました。

 今回の応募作品はいずれも質が高く、選考委員のなかには「全員入賞とするしかない」という評価をされた人もいたほどで、本当に選考には悩みました。これからも質の高い熱心弁護がよりいっそう展開され、さらに広範囲な地域や層から数多くの応募があることを祈念しています。