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10(2013年)

[最優秀賞]

該当者なし

[優秀賞]

それでも被告人はやってない

辻亮つじ・りょう大阪弁護士会・62期

迷惑防止条例違反被告事件

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[優秀賞]

私の国選第1号事件

馬場俊光ばば・としみつ東京弁護士会・64期

詐欺被告事件

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[特別賞]

「孤独」という絶望に寄り添う

吉田督よしだ・とく和歌山弁護士会・63期

窃盗被告事件

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[論評]

 第10回目を迎えた季刊刑事弁護新人賞ですが、今回の応募は9名(札幌3名、東京2名、埼玉1名、愛知1名、大阪1名、和歌山1名)にとどまりました。前回は24名だったので、寂しい感じがしました。と同時に、地域的な偏りもみられました。なお、法テラスのスタッフ弁護士からは2名、都市型パブリック法律事務所から1名の他は、普通の事務所の弁護士からの応募でした。もっとも、応募作品はいずれも劣らぬ質が高いものでした。

 2012年10月27日に選考委員会を開催し、厳正な審査の結果、標記のとおりの受賞者を選ばせていただきました。今回も、選考委員がすべての応募作品に目を通しましたが、数は少なかったものの、本当に甲乙をつけがたいものばかりでした。

 その中でも、特別賞の吉田さんは、身寄りのない密入国者であった在日韓国人について、強制送還を阻止し、在留特別許可を獲得した活動は、被告人の更生に資する弁護活動を体現したものと高く評価され、最優秀賞として推す声もありました。もっとも、第8回の田中広太郎さんの被疑者補償制度に取り組まれた事案と同様に、純粋な刑事弁護活動という側面よりも、刑事事件終了後の在留特別許可手続に活動の中心が置かれていたことから、特別賞が適切であろうということになりました。しかし、貧困が原因で財産犯罪を犯した被疑者・被告人に対して、たとえば第8回の最優秀賞の高橋千恵さんの「情状弁護としての福祉的支援の必要性」の論考のなかで紹介されたような、生活保護の受給などの生活環境整備にむけた弁護人の活動が、被告人等の更生にむけた活動としての重きをなしてきているように思います。

 優秀賞の馬場さんは、懲役6年の求刑がなされ、前科の関係でも保釈は絶望的と思われるオレオレ詐欺等の事案について、保釈を獲得し、その保釈中に母親との関係修復を図ろうとし、それは実現しなかったものの、そのやりとりの中で、被告人も更生の決意をより固めていき、それが懲役3年10月の宣告刑に反映されました。しかも、母親との関係修復についても、被告人まかせにせず、弁護人が積極的に関与するなど、情状弁護活動における弁護人の関与のあり方について示唆に富む内容となっています。

 同じく優秀賞の辻さんは、結果としては有罪判決でしたが、そのなかで行われた弁護活動は、その着眼点も鋭く、現場に足を運ぶなど、まさに「現場に神が宿る」という格言を実践されました。また「百聞は一見に如かず」との諺のとおり、盗撮に用いられたという携帯電話の同機種を購入して、それを実際に操作することによってさまざまな事実を得て、それを反対尋問に生かすなど、証拠収集活動や反対尋問の仕方にも創意工夫がみられました。このような弁護活動は、おおいに参考となります。

 今回は、残念ながら、最優秀賞の該当者は出ませんでした。また、応募者も少なかったことから、応募作品以外にも優れた弁護活動をされた事例があるのではないかと思います。次回は、有益な弁護活動を広く知っていただくために、ぜひ多数の応募をいただけるようにお願いを申し上げ、選考のご報告の結びとさせていただきます。