「第18回季刊刑事弁護新人賞」の受賞者決まる


 第18回季刊刑事弁護新人賞(主催:現代人文社、協賛:株式会社TKC)の受賞者が決まった。昨年10月に選考委員会が開かれ、6名の応募者の中から、優秀賞として飯田貴大、ベロスルドヴァ・オリガの各弁護士が選ばれた。残念ながら、今回は、最優秀賞の該当者はなかった。受賞作品は、季刊刑事弁護105号に掲載される。授賞式は、2021年2月23日(火・祭日)、株式会社TKC東京本社法廷教室において、開催される。

○優秀賞

飯田貴大
いいだ・たかひろ
71期・千葉県弁護士会

「常習傷害の一部訴因について犯罪の証明がないとされた事例」(暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件/千葉地判令2・1・20LEX/DB25566856)

選評:多数の暴行・傷害行為について暴力行為等処罰に関する法律違反で起訴された事件について、その一部の訴因について実質的に一部無罪の判断を勝ち取った事例。量刑事件と否認事件が混在する事件で、方針決定などに悩みながらも弁護人にできる最善を模索した様子が語られています。捜査段階での活動、起訴後の証拠開示により浮かんでくる疑問点、現場検証によって浮かび上がってきた違和感、こうした公判までの綿密な準備をもとにした公判での弁護活動が結果につながったケースだといえます。依頼者が否認しているのは多数ある事件のうちの一つだからと妥協せず、弁護人としてやるべきことを怠らず、あるべき判決を勝ち取ったこの報告内容は、同世代の弁護士にとって大変勇気づけられるものだと思います。

ベロスルドヴァ・オリガ
Olga Belosludova
72期・第二東京弁護士会

「諦めない弁護活動の先に」(覚醒剤取締法違反被告事件/東京地判令2・7・10 LEX/DB25566854)

選評:初めて担当した国選事件である覚醒剤自己使用のケースにおいて、社会福祉士やダルクなどと連携して熱心な弁護活動を行った事例。同種前科での服役からの出所2日後の再犯であったにもかかわらず、一部執行猶予判決を獲得するという成果をあげているケースです。社会福祉士と連携しながら、刑務所でのCAPAS診断結果の照会、過去の措置入院をしていた病院の発見とカルテ照会などを行い、具体的な更生支援計画を作成していく過程が報告されています。諦めずに熱心な弁護活動を行うことによって、裁判官からは適切な判断を引き出し、これまで再犯を繰り返してきた依頼者からも信頼を勝ち得ている点に感銘を受けました。

※     ※     ※

 今回の選考委員は、つぎのとおりである。石田倫識(愛知学院大学教授)、坂根真也(弁護士・東京弁護士会)、佐藤正子(弁護士・滋賀弁護士会)、高橋宗吾(弁護士・第二東京弁護士会)、児玉晃一(弁護士・東京弁護士会)、北井大輔(季刊刑事弁護編集長)  なお、これまでの受賞者は季刊刑事弁護新人賞受賞者一覧でみることができる。

◎季刊刑事弁護新人賞の沿革

 1997年4月、伯母(うば)治之・児玉晃一両弁護士が、詐欺被疑事件において接見妨害を行った検察官と違法な接見指定を看過して準抗告を棄却した裁判官の責任を追及すべく国家賠償訴訟を、東京地方裁判所に提起した(詳しくは、児玉氏のレポート・季刊刑事弁護11号105頁参照)。

 この訴訟で、2000年12月、東京地方裁判所は国に対して、伯母弁護士への慰謝料として10万円の支払いを命じたが、児玉弁護士の請求を棄却した。続く控訴審では2002年3月、伯母弁護士への慰謝料を増額し25万円の支払いを国に対して命じたが、児玉弁護士の請求はまたも棄却された。

 これに対して、両弁護士は、児玉弁護士の請求は棄却されたものの判決内容を考慮して、上告せず、判決が確定することになった。

 その後、同弁護団と両弁護士は、賠償金25万と全国の弁護士からのカンパの残余金を、全国の新人弁護士の励みにして欲しいという願いから、新人賞の賞金として現代人文社に託した。これを基金にして、2003年に「季刊刑事弁護新人賞」が創設された。

 なお、第10回(2012年)から株式会社TKCが協賛している。

(2021年01月06日公開)


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