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ニュースレター台湾刑事法の動き(第8回)

台湾司法IT化の現状(上)


1 はじめに

 近年、情報・通信技術が日進月歩で発展し、それにより、人々の生活スタイル及び社会の態様に革命的というべき変化がもたらされてきた。政府機関は、その内部での業務管理の手順や、外向けに提供するサービスについても、このパラダイム転換の波に乗ってデジタルへ移行し(Digital Transformation)、コンピューターやインターネット通信技術を駆使したIT(Information Technology)化を通じて、業務の質と効率を高めなければならなくなっている。また、社会態様の変化と国民の権利意識の高まりにより、司法業務が日に日に増大することが避けられなくなっている。

 このような状況を鑑み、司法院(中華民国の最高司法機関)は、1987年に情報テクノロジーを用いて裁判の効率と質の向上、並びに職員の業務の負担の軽減を図るために、「司法業務コンピューター化推進ワークチーム」を立ち上げた。そして、1990年にプロジェクトグループ方式の「情報委員会」を立ち上げた。情報委員会が、要となる情報システムを開発し、司法業務IT化の礎を築いた。その後、司法院は、常設組織ではない情報委員会に評価・賞罰や昇進などの制度がないことを考慮して、1996年に「情報管理処」を設立し、全国の司法IT業務全体の計画、研究、監督、評価、支援、調整などの事項をその所掌とした。更に、所掌している業務内容をより相応しいものにするべく、司法院は2015年にそれを「情報処」に改め、法廷IT化などのデジタル関連政策の推進を委ねた。以下、司法院による司法業務IT化の内容について、「情報委員会」・「情報管理処」・「情報処」という3つの時期に分けて、その概略を紹介する。

サーバー設備の部屋(2022年9月。写真撮影:筆者)

2  「情報委員会」期

 司法院は、1990年10月に「司法院業務コンピューター化第1期6年計画」を発表して、膨大な資金と人的資源を投入し、人的作業の大部分をコンピューター化した。1994年6月までに、以下のシステムの開発を完了し、逐次司法院の所属機関に配置した。

(1) 裁判情報システム:最高裁判所、行政裁判所、公務員懲戒委員会、第一・第二審の民事・刑事裁判を行う裁判所に配置し、以下の機能を提供した。事件の受付と振り分け、書記官業務、裁判官・裁判長業務、裁判所長による監督業務、統計、ドキュメント管理など。
(2) 事務情報システム:以下のサブシステムを事務関連情報システムに含めた。公文書管理システム、総務管理システム、人事管理システム、給料管理システム、統計管理システム、供託登記管理システム、保証金及び保管品管理システム、弁護士登録及び懲戒管理システム、図書管理システム、参事室管理システム、市民からの問い合わせへの対応システム、など。
(3) 法学データ検索システム:裁判官や裁判所職員に対して、法律条文、判例、法学論文の検索機能を提供した。
(4) 前科・手配の指名及び取消システム:裁判官及び裁判所職員に対し、刑事被告人の前科・指名手配記録、異名、刑務所又は拘置所の入所記録を検索できるデータベースを提供し、検索結果の表作成機能も備えた。

 上記システムの開発・配置のほか、司法院は1995年6月に全国司法通信ネットワーク、サーバールーム及びローカルエリアネットワークを完成し、情報人材の育成にも力を入れ、司法業務IT化の堅固な基礎を作り上げた。

法廷音声デジタル録音作業の様子(2022年9月。写真撮影:筆者)

3  「情報管理処」期

 司法院は、「情報管理処」を設立したのち、1996年から「第2期3年計画」を策定し推進した。それにより、以下の目標を達成した。

(1) 簡易裁判所のコンピューター化:簡易裁判所のニーズに特化した裁判情報システムを開発した。
(2) 第一・二審裁判情報システムの統合再建:異なる商社が開発したアプリのインターフェースを統一し、オペレーティングシステムをDOSからWindowsに変更した。新世代裁判情報システムの枠組みと働きについて、そのチューニングとデザインを行った。
(3) 法学データ検索システムの公開:一般市民に対して、インターネット上に法学文献データ検索システムを公開した。
(4) 公文書デジタル送受信システム:司法院と所属機関との間の行政的文書のデジタル送受信を可能にし、送受信の高速化と紙利用の削減目標を達成した。
(5) 光ディスクによる文書管理システムの開発:紙ベースの書類をスキャンして画像ファイルにしたことにより、公文書管理システムと統合運用でき、ファイリングや迅速な検索に寄与した。

リモート方式による尋問の様子(2021年5月。写真撮影:司法院情報処)

 第1期と第2期計画を推進・実施したことにより、司法IT化が軌道に乗った。その後、司法院は、各システムのメンテナンスと更新、所属機関の情報トラブルシューティングへの協力、IT教育訓練の計画のほか、裁判情報システムの強化、法廷IT化の推進、裁判官の情報環境の充実、市民の利用しやすいネットサービスの実現などのIT化目標についても力を入れた。以下、その要点について説明する。

① 司法情報システムの強化

 a.督促手続の自動化システムの開発は2006年に完了し、金融業者及び各事業者に対して、オンライン訴状提出とオンライン費用納付による裁判所への支払督促の申立方法を提供した。

 b.2007年にマルチ方式による費用納付システムを開発し、裁判所への手数料の追納付について、金融機関店頭での振込み、ATM振込み、インターネットバンキング、コンビニ決済、クレジットカード決済などの納付方法を逐次整えて一般市民に提供した。

 c.知的財産裁判所(2008年7月)、地方裁判所行政訴訟専門法廷(2011年9月)などの専門裁判所や専門法廷の設置に対応し、知的財産裁判所裁判情報システム、地方裁判所行政訴訟専門法廷裁判情報システムを開発・配置した。

 d.情報システムの開発に対する年度ごとの審査・評価制度を確立させるため、2012年に「司法e化推進委員会」を設立し、同年12月12日に第1回の司法e化会議を開いた(註:「e化」は電子化又はデジタル化を意味している)。

② 法廷IT化の推進:

 a.法廷記録のコンピューター化:従来、法廷記録は書記官により手書きで作成されてきたが、その迅速性と正確性を高めるために、1996年10月より法廷記録のコンピューター化に着手し、2000年の年末に、記録の全面コンピューター化という目標を達成した。

 b.法廷音声デジタル録音作業:2002年7月に法廷音声デジタル録音システムの設置を完了し、法廷活動での音声の保存機能のほか、事件番号や開廷時間帯で検索・再生する機能を書記官に提供した。記録の正確性に関する争いの回避に貢献している。

 c.リモート方式による尋問:ビデオリンク設備の配置により、2003年8月以降、遠隔地に在住している証人や鑑定人は、担当裁判官に対し、最寄りの裁判所に出向きリモート方式による出廷を申請することができるようになった。リモート方式による尋問が成立することで、証人の出廷意欲を高めることができたのみならず、裁判所はリモート方式で刑務所・拘置所に身柄拘束されている受刑者・被疑者・被告人を尋問することができるようになった。その結果、受刑者・被疑者・被告人の身柄を移送させる際のリスクも低減している。

 d.電子化訴訟記録の閲覧:2002年より、事件に関する電子化訴訟記録の閲覧機能を提供している。司法院に「電子化閲覧認証」を申請して審査に通った申請者は、それを用いて記録閲覧システムにログインし、電子化した事件に関連する記録を閲覧することができるようになった。

③ 裁判官の情報環境の充実:

 a.裁判官情報サービスサイト:1999年より、裁判官情報サービスサイトを新設し、法学データ検索システム、最新の法規改正情報、司法院ネット図書館、海外法学データベース(Westlaw、TKC Law Library、beck-onlineなど)へのアクセス環境を提供しているほか、外部機関のシステム(戸籍兵役情報システム、出入国情報システム、自動車両資料システムなど)への連携アクセスも可能であり、裁判に必要な情報を迅速に裁判官に提供することが出来ている。

 b.量刑情報システム:犯情の類似した事件の量刑の齟齬を回避し、量刑の合理性・公平性を図るために、刑事裁判官、統計・情報専門技術者、エンコード技術者を集結させ、各罪種の判決書から量刑への影響要素を抽出し量刑情報システムを作成した。2011年7月より、各種犯罪の量刑情報を順次裁判官に公開している。

④ 市民が利用しやすいネットサービスの実現

 1996年12月に司法院ウェブサイトを開設し、司法機関業務の紹介、訴訟手続における注意事項の広報、司法統計資料の公開、法規・大法官解釈と最高裁判所及び各審級裁判所の裁判例など法学情報の検索、といった内容を提供・公開している。また、開廷期日情報や事件進捗状況の照会機能、訴状等裁判書類の参考例の公開、判決主文公示、建築物競売公示、公示送達などの情報提供サービスも順次公開した。これにより、法の支配の概念を深化させ、リソースの共有を実現させている。

量刑情報システムの画面(2022年9月。画面ショット作成:筆者)

(林祐宸著・呉柏蒼訳)

◎執筆者プロフィール
林 祐宸(リン・ユウシン)
司法院情報処判事(裁判官として司法院に出向)
台湾台北地方裁判所判事(行政訴訟専門裁判官証明書が授与されている)
国立台湾大学法学部、法学研究科修士課程(公法学専攻)修了
2009年、台湾専門職業及び技術人員高等試験弁護士試験(弁護士資格試験)合格
2010年、台湾公務員高等三級試験法制類合格
2011年、台湾公務員特種試験裁判官試験合格
 主な著作に、「農場動物福利之實然與應然──以我國法制之檢討分析為中心(和訳:畜産動物の福祉の実態とあり方──我が国の法制度に対する検討を中心に)」(修士論文)2013年、「文資法上古蹟指定之實然與應然──以樂生療養院拆遷事件為中心(和訳:文化資産保存法における文化財の指定の実態とあり方──楽生療養院の移築を巡る争いを中心に)」全国律師第17巻第8期(2013年8月)がある。

◎訳者プロフィール
呉 柏蒼(ゴ・ハクソウ)
 信州大学経法学部講師、台湾法務部司法官学院非常勤研究委員。慶應義塾大学博士(法学)取得。
 主な著作に、『平成27 年版検察講義案』中国語版監訳(2020年)、「日本近年関於自由刑制度改革之議論:以自由刑單一化與法制審議會之議論為中心」(中国語)刑事政策與犯罪防治第23期(2019年)、「日本『刑之一部緩刑』制度之再確認」(中国語)刑事政策與犯罪研究論文集第24期(2021年)、「犯罪被害者の損害賠償請求の実現に対する支援」被害者学研究第31号(2022年)、「台湾における仮釈放の制度構造と判断基準について」信州大学経法論集第13号(2022年)などがある。

(2023年01月05日公開) 


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