ニュースレター台湾刑事法の動き(第1回)

台湾刑訴法「再審編」2019年改正/再審段階の弁護士の役割、記録閲覧規定等の新設


台湾の立法院

 台湾の刑事訴訟法(以下「刑訴法」)は1945年台湾で施行されてから2014年まで、「再審編」に実質的な改正がなされたことはなかった。2014年12月に改正され、2015年2月公布された刑訴法420条の法改正は、いわゆる再審請求理由の改正である1)

 当時、再審請求理由に関する刑訴法420条の改正がなされたが、刑訴法の再審編には具体的な手続規定は存在していないという問題点は、依然として残っている。例えば、実務上、再審請求するときの弁護士の役割、確定判決の記録に付される録音録画の閲覧の可否、判決確定後DNA鑑定の手続2)等の問題がある。

 2019年12月刑訴法再審編の改正では、以下の事項について、改正または新設された。上述した弁護士の役割や、記録閲覧規定の不備を補うものである。本文では、以下のように、新設または改正されたものを事項ごとに紹介する。また、改正条文の文言については、後掲する《補充資料》において訳文を参照できる。

1 再審段階の弁護士代理人選任権

 刑訴法において、再審段階、弁護人選任権について規定されていなかった。その結果として、弁護士は弁護人であるか、代理人であるかという議論が生じえた。

 今回の法改正において、草案段階から弁護士を代理人とするって提案がなされた。新設理由には、今まで再審手続に関与する弁護士の地位が定められなかったことにより、再審請求の書状における「当事者」の記載が、一見すると請求人本人なのか、弁護士なのか不明であったことが挙げられている。

 このような点を改めようとするほか、弁護士はその専門知識により、当事者(再審請求権者)の再審請求に協力することができるため、弁護士を代理人として選任することができるようになった。

2 再審請求段階の記録情報獲得の権利

 刑事事件では、起訴後、判決確定前の記録情報獲得権3)は、刑訴法33条によって認められている。しかし、判決確定後、再審請求のために、記録はどのように取得するのかについては、規定されていない。弁護士である場合、「検察機関弁護士記録閲覧要点」(原文「檢察機關律師閱卷要點」)という命令に基づき、検察庁に閲覧を請求することができる。その他、再審請求権者が裁判所に求めたり、行政訴訟を起こしたりする事例もある。

 しかし、このように、記録を獲得するための法的根拠は定まっておらず、再審請求権者は記録を獲得することは権利なのかどうかが不明であり、事案により記録を獲得できるか否かについての格差も生じうる。今回の法改正では、刑訴法429条の1第3項を新設し、刑訴法33条を準用するということで、判決確定後、再審請求権者とその弁護士は記録を入手することができるようになった。

3 再審請求審は原則的に開廷すること

 再審請求審において、公判廷を開くかどうかについて定められておらず、書面による審理はほとんどである。今回の法改正では、刑訴法429条の2を新設した。同条に基づき、原則的に、請求人およびその代理人に対して、裁判所に出頭するよう通知しなければならず、検察官および判決を受けた者の意見も聞かなければならないことになる。したがって、再審請求審は原則的に公判廷を開くことになる。これにより、これから再審請求審は口頭主義が及ぶことになるであろう。

4 再審請求審の証拠調べについて

 再審請求審における証拠調べについて、今まで刑訴法には規定されていなかった。今回の法改正では、開廷するとともに、証拠調べについても刑訴法429条の3として規定が新設された。同条に基づき、請求人または弁護士代理人の請求により、裁判所が必要と認めたとき、あるいは裁判所の職権により、証拠調べできるようになった。

5 裁判所に対する判決謄本調達の請求

 再審請求する際、管轄裁判所に提出するものとして、刑訴法429条が、再審請求理由書に、判決謄本及び証拠を付さなければならないと定めている。しかし、再審請求人は、判決の謄本を手許に保管しておらず、それを提出できない場合もある。そのため、今回の法改正では、同法429条を改め、判決謄本を提出できない正当な理由がある場合、裁判所に釈明し、調達するよう請求することができることになった。

6 手続違反の補正機会

 刑訴法433条によれば、再審請求の手続が規定に違反すると認められた時、決定で棄却される。今回の法改正では、その手続の違反が補正できるものである場合、裁判所は棄却する前に、期間を定め、補正させるよう命ずるものとすることになった。

7 再審請求事件の抗告期間の明文化

 刑訴法再審編自体に、再審棄却決定に対する抗告手続およびその期間等は規定されていなかった。そのため、再審請求棄却決定に対し、抗告するとき、一般的な抗告規定(刑訴法406条)により、決定が送達されてから5日間とされていた。今回の法改正で、434条の再審棄却規定に第2項を新設し、再審請求棄却決定に対する抗告をすることができる期間として、10日間を設定した。

◎執筆者プロフィール
李 怡修(リー・イシュウ)
一橋大学特任講師(ジュニアフェロー)。2019年3月一橋大学博士(法学)取得。
研究テーマは訴訟構造論、再審制度、証拠開示と保管制度。
主な著作に、『誰都可以,就是想殺人』台湾語版訳者(台湾時報出版、2017年)(原著『誰でもいいから殺したかった!』ベスト新書、2008年)、「NHK・BS1 ドキュメンタリーWAVE 2017年3月19日放送 密着! 台湾えん罪救済プロジェクト」番組翻訳などがある。

—————————————————————————————————————————-

《補充資料》

台湾 刑事訴訟法再審編改正・新設条文
(2019年12月10日立法院第三読会通過、2020年1月8日公布、同月10日施行)
翻訳:李怡修
(改正は下線部)

◎改正:

第429条(判決謄本調達請求権)
再審請求する際、再審書状に理由を記載し、原判決の謄本及び証拠とともに、管轄裁判所に提出しなければならない。ただし、原判決の謄本を提出できない正当な理由があると釈明したとき、裁判所に対し、それを調達するよう求めることができる。

第433条(補正できる手続違反についての補正)
裁判所は、再審請求に法令上の方式違反があると認めたとき、決定で棄却するものとする。ただし、それが補正できるものである場合、先に期間を定めた上で補正するよう命ずるものとする。

第434条(再審請求決定に対する不服申立期間の明文化)
裁判所は、再審の請求が理由のないと認めるとき、決定でこれを棄却しなければならない。
請求人又は決定を受ける者が決定に不服がある場合、決定が送達されてから10日以内に抗告することができる。
前項の決定がなされた後、同一の理由によって再審の請求をすることができない。
(訳者注:第三項の「前項」は、「第一項」に改正すべきである。)

◎新設:

429条の1(弁護士代理人委任権、記録情報獲得権)
再審請求をする際、弁護士を代理人として委任することができる。
前項の委任は、委任状を裁判所に提出することによってこれをしなければならない。本法第28条及び第32条の規定を準用する。
(訳者注:第28条は、被告人が弁護人は3人を超えてはならない規定であり、第32条は、被告人の弁護人は複数いる場合、文書の送達は其々に送付するとの規定である。)
第33条の規定は、再審請求する場合、準用する。
(訳者注:第33条の規定は、通常三審の被告人と弁護人の記録閲覧権についてであり、原則的に、被告人と弁護人は其々の要件の下、捜査段階から確定判決まであらゆる記録の副本または記録原本にアクセス権限を有することになる。)

第429条の2(原則的に開廷すること)
再審請求事件は、明らかに必要でない者を除き、請求人及びその代理人を裁判所に出頭するよう通知しなければならない。また、検察官及び判決を受けた者の意見を聞かなければならない。ただし、正当な理由がなく裁判所に出頭せず、若しくは裁判所に出頭しないと主張した場合は、この限りでない。

第429条の3(請求又は職権による証拠調べ)
再審請求をする際、その理由を釈明し、証拠調べ請求することができる。裁判所は必要と認めたとき、それを調べなければならない。
裁判所は再審請求理由の有無を明らかにするために、職権で証拠を取り調べることができる。

以上

——————————————————————————–


注/用語解説   [ + ]

(2020年03月04日公開)


こちらの記事もおすすめ