23(2026年)

[最優秀賞]

第一の情状証人は弁護人である

鈴木雄希すずき・ゆうき千葉県弁護士会・76期

窃盗被告事件

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[優秀賞]

研修での学びを実践する弁護活動

田中祥之たなか・よしゆき第二東京弁護士会・74期

大麻取締法違反被告事件

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[優秀賞]

それでもボクはやってない!——電車内痴漢事件で無罪となった事例

深谷直史ふかや・なおふみ埼玉弁護士会・74期

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件

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[論評]

 接戦だった。受賞作3本は、ほとんど同着でゴールラインを越えた競走馬のようだった。さながら写真判定で鼻差を見極めるような選考会議だった。

 最優秀賞を受賞した鈴木雄希さんのレポートは、万引き事件での弁護活動を素材としたものである。依頼者には同種の前科が多数存在し、今回の事件は執行猶予期間中の再犯だったという。それでも鈴木さんは見事に再度の執行猶予判決を得た。選考会議では、その成果はもちろんのこと、初回接見の直後からケースセオリーの立案と実践との往復を繰り返したプロセスが高く評価された。依頼者は、刑務所に入りたくないとは言うものの、これまでもギャンブルと万引きをやめることができず、再犯を重ねてきた。高齢、かつ、支援者もいない。弁護人として、実刑になっても仕方ないと諦める理由はたくさんあったはずである。鈴木さんは、そうした不利な情状を前提としながら、余罪を含む示談の成立、要介護認定の獲得、釈放後の入所施設の確保と課題を一つひとつクリアしていった。障害を持つ被疑者・被告人の弁護活動に関する知見が広く共有されている現下の状況では、個別の活動自体は目新しいものではないが、身体拘束が続く中で全てを実践することはなお困難である。諦めない丁寧な弁護活動は特別な煌めきを宿している。

 優秀賞を受賞した田中祥之さんのレポートは、大麻所持事件での弁護活動を素材としたものである。こちらは無罪判決を得ている。依頼者の自動車から発見された大麻について、起訴前、依頼者は自分の物である旨の自白をしていた。しかし、起訴後、大麻は、同自動車で運搬していた荷物の所有者であった友人の物であると述べ始め、一転、公訴事実を争うに至った。田中さんは、状況の変化に柔軟に対応し、証拠開示制度を活用して入手した証拠を検討したうえで、依頼者の言い分に沿ったケースセオリーに基づく弁護活動が可能であるとの確信を得て、検察側証人となった友人の反対尋問および被告人質問などに臨んだ。その結果、自白調書が存在したにもかかわらず、友人が依頼者の自動車内に大麻を持ち込んだ疑いを払拭できないと判決で認めさせることに成功している。田中さんは、謙虚にも研修や研究会で学んだ知識・技術を活用しただけの独創性のない弁護だと述べているが、知識・技術を具体的なケースに応用するところにこそ難しさがあり、その実践は刑事弁護の鑑である。

 優秀賞を受賞した深谷直史さんのレポートは、痴漢事件での弁護活動を素材としたものである。証拠を丹念に検討したうえで構築されたケースセオリーとそれに沿った立証活動とが無罪判決として実を結んだ。良い意味で教科書のような刑事弁護である。深谷さんは、依頼者および被害申告者の供述録取書、被害再現写真、防犯カメラ映像等を仔細に検討した結果、依頼者が意図せず被害申告者の身体に触れたことが痴漢と誤解されたというケースセオリーを構築するに至った。電車の揺れに合わせて動いた身体が被害申告者の胸に当たってしまった可能性および依頼者がスマートフォンをポケットから取り出す際の動きが被害申告者に陰部を触ったと誤解された可能性をそれぞれ窺わせる証言を被害申告者から獲得できたことが弁護側立証の白眉である。不安がる依頼者家族の気持ちを酌んで、先約を放り出し、初回接見に駆け出した深谷さんの熱意・やさしさにも注目されたい。

 今回の受賞作では、拙い知識・技術を爆発的な熱量とフットワークの軽さで補って成果を出すというよりも、丁寧な調査・証拠検討を経て立証計画を立てたうえで、法廷技術に裏打ちされた立証活動によりその計画を実現に移すという新人らしからぬ輝きを放つ弁護実践が報告された。近時の若駒は駿馬揃いである。刑事弁護の水準は確実に高まっている。

*今回の選考委員は次のとおり(五十音順)。芝﨑勇介(弁護士・東京弁護士会)、城使洸司(弁護士・大阪弁護士会)、末永貴寛(弁護士・大阪弁護士会)、高橋宏典(弁護士・愛媛弁護士会)、武内謙治(九州大学大学院教授)、馬淵未来(弁護士・東京弁護士会)。

*本賞は、第23回より刑事弁護フォーラムと現代人文社の共催となっております。また、株式会社TKCと刑事弁護OASISに協賛をいただいております。