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「乳幼児揺さぶられ症候群」で相次ぐ無罪判決、 適用見直しを / 冤罪被害者が体験語る、日弁連はセミナー開催


約170人が参加した日弁連のセミナー
約170人が参加した日弁連のセミナー=2020年2月14日、弁護士会館、撮影/小石勝朗

 乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)を根拠に起訴された事件で、無罪判決が相次いでいる。これを受けて日本弁護士連合会(日弁連)は2月14日、「虐待を防ぎ冤罪も防ぐために、いま知るべきこと」と題したセミナーを東京都内で開き、SBSにかかわってきた弁護士らがSBS理論の刑事事件への適用を見直すよう改めて主張した。開会前には、SBSで妻が冤罪被害に遭った男性が取材に応じ、体験を語った。

 SBSとは、頭にけがをした乳幼児に硬膜下血腫、網膜出血、脳浮腫の症状(3徴候)があれば、目立った外傷がなくても激しく揺さぶられたこと=虐待が原因とみる理論だ。2010年頃から事故当時に子どもと一緒にいた親らが傷害致死罪などで起訴される事案が増え、否認しても有罪になるケースも多かった。しかし、弁護士や研究者らの間でSBS理論の科学的根拠を疑問視する声が高まり、大阪高裁が昨年10月と今年2月に一審の有罪を覆して無罪判決を出すなど、無罪や不起訴が増えている。

◇やっていないのに、なぜ「嫌疑不十分」なのか

 取材に応じた菅家英昭さん(46歳)の息子は、生後7カ月だった2017年8月、つかまり立ちをしていて後ろに倒れて頭を打ち、救急搬送された。命はとりとめたが、一時、意識不明になった。

SBSによる冤罪被害の体験を語る菅家英昭さん
SBSによる冤罪被害の体験を語る菅家英昭さん(右)。笹倉香奈・甲南大教授 (左)と共に取材に応じた=2020年2月14日、撮影/小石勝朗

 病院で医師から「児童相談所に通告します」と告げられ、児相の聴取りや自宅訪問を受けた。11月に入って児相に呼び出され、「医師の鑑定の結果、事故の可能性が高く、虐待の可能性は低いとされた」と説明される。しかし、「虐待の可能性が残っている」と捉えられて、息子は退院後、一時保護に。「施設への入所に同意しないと子どもに会わせられない」と言われ、やむなく同意したが、面会は週1回・1時間に制限された。

 2018年9月、令状を持った警察官が自宅を訪れる。妻は任意同行に応じ、警察署で逮捕された。傷害容疑だった。警察が情報を流したため、自宅マンションを出る際には大勢のマスコミが待ち構えていた。

 取調べは「自白の誘導と人格の否定だった」という。刑事は妻がどんな言葉に反応するか様子を探り、「子ども」だと見るや「息子の頭はスカスカだ」「一生、障害児だ」などと暴言を浴びせた。「良い母親の仮面をかぶっている」とも言われたそうだ。

 事前に弁護士に相談して助言を受け、SBSの冤罪被害に遭った家族とも情報交換していたため、妻は黙秘を貫いた。検察の勾留請求はいったん認められたが、弁護士の準抗告で覆り、逮捕から4日目へ日付が変わる頃に釈放された。虐待を否定する脳神経外科医の意見書を自ら取っていたこともあり、逮捕の3カ月後、「嫌疑不十分」で不起訴になった。

 「そこまで長かった。やっていないのだから不起訴が当たり前なのに、なぜ『嫌疑不十分』なのか知りたい。逮捕にしても、刑事は『複数の医師に話を聞いて総合判断した』と言うが、捜査資料を見たいし、裁判官になぜ令状を出したか聞きたい」。

 乳児院に入れられていた息子は、2019年3月にようやく自宅へ帰ってきた。次第に元気を取り戻しているという。菅家さんは体験を振り返って、こう語った。

 「SBSを推進している医師からは『つかまり立ちで倒れても3つの症状はそろわない』と言われてしまっている。家中に監視カメラを付けるしかないのか。医学って何なのか。画像やカルテだけで何が判断できるのだろうか。これまでに有罪にされた人もおり、SBSは見直してほしい」。

◇警察、検察、裁判所を交えた「協議の場」を

 日弁連のセミナーには約170人が参加した。ライブ映像を別室で視聴する人や立ち見の人が出る盛況で、この問題への関心の高さをうかがわせた。

 冒頭、SBS検証プロジェクト共同代表の秋田真志弁護士(大阪弁護士会)は「冤罪は許されない。SBS理論の機械的、硬直的な適用に誤りがあった」と強調し、関係機関が対応を見直すよう求めた。

 SBS事件の弁護にあたってきた川上博之弁護士(大阪弁護士会)は、傷害致死罪などに問われた両親や祖母に対し大阪高裁や東京地裁立川支部が最近出した無罪判決を分析し、「病気や窒息、低い位置からの落下でも3徴候がそろう可能性があると認定した」と評価した。そのうえで「継続事件はまだたくさんある」として、SBS理論の刑事事件への適用を見直すため、弁護士や医師に警察、検察、裁判所まで交えた協議の場を設けるよう提案した。

 関西医科大の埜中正博・診療教授(小児脳神経外科)は「SBSは実在する」とする一方で、脳浮腫などは発生のメカニズムが未解明だと解説。「医学だけの判断では虐待かどうか分からない部分がある」として、1例ごとに小児疾患や親子関係、現場の状況といった情報を総合的に勘案すべきだと説いた。

 SBSの可能性が少しでもあると児童相談所が判定すれば、一律に子どもの一時保護や親子分離が行われることも問題視され、さらに親らが虐待を否認すると措置が長期化することへの批判も出た。児童虐待に詳しい岩佐嘉彦弁護士(大阪弁護士会)は「乳児は保護しないと死に直結するケースもある」と指摘しつつ、児相に専門的な対応ができる体制を整える必要性に言及した。

 SBS検証プロジェクト共同代表の笹倉香奈・甲南大教授(刑事訴訟法)は「『3徴候は虐待以外の原因でも起こり得る』と20年前から言われており、無罪判決は画期的というより、当然で常識的な判断。疑いをかけられた多くの家族が泣いており、SBSはゼロベースで見直すべきだ」とセミナーを総括した。

(ライター・小石勝朗)

(2020年02月28日公開) 


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