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大阪弁護士会シンポで、可視化制度の見直しと弁護士立会いを議論 3年後検証はエビデンスを用いよ!


鼎談する周防正行氏(左)と小坂井久弁護士(右)(2022年6月18日、大阪弁護士会館)

 6月18日(土)、大阪弁護士会主催のシンポジウム「ガラパゴス取調べからの脱却〜全件可視化・弁護人立会いへ!〜」が、大阪弁護士会館で行われた。

 被疑者取調べの録音・録画(可視化)を義務付ける改正刑事訴訟法が施行されて3年が経過した。今年は、改正法の附則に基づいてその制度の検証と見直しの年である。本年5月31日、法務大臣は、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の立上げを発表したが、委員の構成や議論の在り方などを含め何をどう見直すかは、その会見では明らかになっていない(参照、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の立上げに関する日弁連会長談話2022年6月8日付)。

 取調べの可視化制度は、2010年の郵便不正・厚生労働省元局長事件及び大阪地検特捜部検察官による証拠改ざん事件を契機として設置された法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の取りまとめを受けて導入されたものである。可視化については、取調べの透明化を求める委員と事件の真相解明が困難になるとする検察・警察側委員との間で大きな対立があったが、裁判員裁判対象事件と検察庁の独自捜査事件で全過程での実施と一部の可視化に落ち着いた。2019年度では、裁判員裁判対象事件の内、警察庁で94.2%、検察庁で99.3%(2,707件の内2,688件)が録音・録画されている。

 このシンポジウムでは、可視化制度の経緯とその3年間の実績を明らかし、「全事件・全過程」可視化の実現と取調べの透明化をより徹底するために取調べへの弁護人立会い制度導入について議論した。

 第1部=基調鼎談「可視化法成立の経緯と現状の問題点」では、特別部会の委員であった周防正行氏(映画監督)とミスター可視化と呼ばれている小坂井久弁護士(大阪弁護士会)が、可視化制度実現の経過とその現状を語った。周防氏は、一部事件の可視化しか実現できなかったことについて、「えん罪事件支援者からお叱りを受けたが、不十分であっても実現することが大事、前向きな妥協であった」と率直に語った。そして、「治安が悪くなる、真相解明が出来なくなるというのが反対理由であったが、今では十分なデータがあるので、それに基づいて検証できるのではないか」と「全事件・全過程」可視化実現に意欲を見せた。

 続く第2部=事件報告「取調べで何が起こっているか」では、プレサンス元社長えん罪事件1)、泉大津コンビニ強盗事件2)、高知官製談合事件3)の3つのえん罪事件の取調べの実情について、当事者と弁護人から報告があった。プレサンス元社長えん罪事件は、検察独自捜査事件で録音・録画されていた。「それは延べ70時間に及んでおり反訳すると1,400頁から1,600頁に及んだ。これらを全部見たり読んだりして、検察官の尋問のどこに問題があるかを分析するのはたいへんであった」と、秋田弁護士は可視化制度下での弁護人の対応力の限界について語った。

 その後、江川紹子氏(ジャーナリスト)が、鼎談と事件報告を聞いてコメントした。「現在の一部可視化は、捜査の透明化の意味で、やはり中途半端である。可視化対象を①全罪名、②在宅事件、③参考人──へ拡大し、さらに④弁護人立会いに向かうべきである。また、3年後検証のために、録音・録画の実際を見る必要があるが、訴訟記録の目的外使用の禁止が立ちはだかっている。それをなんとかしないと十分な検証はできない」と問題提起した。

 第3部=パネルディスカッション「3年後検証への期待と弁護人立会いへ 」では、周防正行氏、江川紹子氏、秋田真志弁護士、市川耕士弁護士(高知弁護士会)がパネリストとして登壇し、今後の課題と方向性について話し合った。

 秋田真志弁護士は、「ひどい取調べが記録されているが、みなさんにお見せすることができないのが残念である」と述べたことから、話題は、訴訟記録の目的外使用禁止問題にも及んだ。周防氏は、「3年後検証の会議で、今日報告された録音・録画を見せる、それが目的外使用というなら弁護士さんが逮捕されてもいいというくらいの覚悟をもって欲しい」と弁護士へ奮起を促した。江川氏も「弁護士は、国民にも録音・録画媒体を見えるようギリギリの努力をして欲しい。情報を共有化して議論するのが民主主義の根本で、司法も例外ではない」と賛同した。

 弁護士立会いに関しては、長時間の取調べを前提とする現在の捜査実務に弁護士は十分対応できるのか、証拠開示を受けていない段階で被疑者に何をアドバイスできるのか、立会いの上で取られた調書の証拠上の取扱いなど課題は山積している。

 周防氏は、「証拠が明らかでない段階で、被疑者にしゃべるよう助言するのかしないのかの対応は、たいへん難しい問題だ」と弁護士の覚悟とスキルが要求されることを指摘し、最後に、「取調べの問題は弁護人の立会いだけで解決されるとは思わないので、この3年間で集められたデータや、今日のシンポで明らかになったことを参考に、十分検討して欲しい」と締めくくった。

 シンポジウムは、「可視化法制3年後検証において、全事件・全過程の可視化を実現すると共に、取調べへの弁護人立会いの制度化を求めるアピール」を参加者全員で確認・採択して終了した。


「可視化法制3年後検証において、全事件・全過程の可視化を実現すると共に、取調べへの弁護人立会いの制度化を求めるアピール」

 2016年成立の改正刑事訴訟法により新設され、2019年6月1日に施行された、取調べ全過程の録音・録画制度(刑事訴訟法301条の2)は、施行後3年経過時に制度の在り方を検討し、必要に応じて所要の措置を講ずるとされた(同改正法附則9条1項)。施行後3年が経過し、本年(2022年)見直しの年を迎えた可視化法制の今後を考えると共に、取調べへの弁護人立会いの実現を検討すべく、本日(2022年6月18日)、大阪弁護士会館において、「ガラパゴス取調べからの脱却〜全件可視化・弁護人立会いへ!〜」と題したシンポジウムが開催された。

 シンポジウムでは、可視化法制が議論された法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の委員を務められた周防正行氏、同部会幹事を務めた小坂井久弁護士による鼎談において、可視化法制に至る道のりを振り返ると共に、この度の3年後見直しにおいて、徹底的な検証を経て改めて可視化の範囲を全事件・全過程に拡大する方向で法改正されるべきことが確認された。

 また、シンポジウムでは、近時発生したえん罪事件の被害者・弁護人による報告がなされた。プレサンス元社長事件のえん罪被害者である山岸忍氏は、自身の取調べにおいて大阪地検特捜部検事から自白を求められた過程を語ると共に、同事件弁護人である秋田真志弁護士からは、同氏と共謀したとされる関係者の被疑者取調べにおいて、大阪地検特捜検事による違法・不当な取調べがなされたことが可視化記録媒体から明らかとなったことから、同氏に無罪判決が言い渡された経過が報告された。泉大津コンビニ強盗事件のえん罪被害者SUN-DYU氏は、自身の受けた密室での取調べの実態を語った。また、高知官製談合事件弁護人である市川耕士弁護士からは、取調べにおいてどのように自白強要がなされたかの報告がなされた。

 泉大津コンビニ強盗事件及び高知官製談合事件は、いずれも現在の可視化法制化下においては録音・録画の対象外の事件である。これらのえん罪事件の報告から、可視化の対象が全事件・全過程に拡大されるべき必要性が明らかとなった。またプレサンス元社長えん罪事件においては、可視化だけでは違法・不当な取調べが完全には除去できないことが明らかとなり、取調べへの弁護人立会いが急務であることが確認された。

 さらに、パネルディスカッションにおいては、取調べへの過度な依存の見直しという改正刑訴法の目的を実現するためには、在宅被疑者や参考人の取調べを含めて、全ての事件の取調べ全過程について、録音・録画が義務づけられなければならないことが確認された。また今回の3年後見直しを契機として、取調べへの弁護人立会いの制度化に向けての議論も加速すべきことが確認された。

 本年5月31日、法務大臣は、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の立上げを発表したが、委員の選任や議論の在り方を含め何をどう見直すかは、現段階では、明らかになっていない。我々本シンポジウム参加者一同は、特に可視化法制について、3年後見直しが早急かつ具体的に行われるべきこと、また同見直しにおいて、全事件・全過程の可視化が実現されるべきこと、さらには取調べへの弁護人立会いの制度化に向けての議論も併せて行われるべきことを、国に対して求めると共に、今後えん罪の防止のための刑事司法改革に一層取り組む決意を表明する。

2022年(令和4年)6月18日

シンポジウム「ガラパゴス取調べからの脱却〜全件可視化・弁護人立会いへ!〜」参加者一同

注/用語解説   [ + ]

(2022年06月28日公開) 


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