大藪大麻裁判第9回公判/大藪さんは被告人質問で、「検察は大麻の有害性を立証すべき」「裁判所は『有害性は公知の事実』とする最高裁決定を検証してほしい」と発言


第9回公判が開かれた前橋地方裁判所(2023年10月12日)

 10月12日(木)、午後1時30分から、大麻所持の無罪を求めている大藪大麻裁判の第9回公判が、前橋地方裁判所(橋本健裁判長)で開かれた。この日は、被告人の大藪龍二郎さんに対する被告人質問があり、裁判もいよいよ大詰めを迎えた。

大麻使用と創作活動

 最初に弁護人の石塚伸一弁護士から、大麻所持に関する逮捕手続の経緯とその必要性・違法性に関連する質問をした。

 ついで、個人使用のための大麻所持に違法性がないことに関連する質問に移った。

 ここでは、大藪さんが自身のパニック障害について語った。医師から処方された医薬品を服用したが、それが強すぎたため、いろいろと試したが、自然由来の大麻を治療薬として使用したところ、たいへん有効であったことや自己の創作活動における大麻の重要性を丁寧に説明した。

 「あなたの陶芸という創作活動をする時に大麻を使用することで、どのような影響があると思いますか」との石塚弁護士の質問に対して、つぎのように答えた。

 「何かアイデアを整理したり何か体を使って表現するときに、まず重要なことは、できるだけ直感的というか本能的に思考を働かせて、余計な理屈だったり、つまらない常識みたいなものを一旦忘れて、できるだけ自由な発想のもとで、心を躍らせて表現するのが一番大切なんじゃないかと思うんです。でも、いきなりそこへは行けない。僕らは日常の社会生活の中で、本能的な感情を抑えて固く固く生きています。つい『僕らは』と言ってしまったのですが、少なくとも僕はそうなんです。そんなとき大麻を使うとどうなるか? 見えないものが見えたり、聞こえない音が聞こえてくる?と思う人がいるのではないかと思うのですが、決してそんなことはありません。また、突然、超絶なテクニックが身につくわけでもありません。

 僕の場合、大麻の効果を一言で言えば、『無垢な、本当の自分に会える』つまり、もっと本能的で自由だった、毎日が楽しくて愉しくてたまらない幼い頃の自分、何の鎧も被っていない本当の自分に戻れる感覚です。だから心からなんでも楽しめる。悩んでいることまで楽しめるんです。毎日歩いているはずの道で今まで気づかなかったことに感動したり、聞き慣れた音楽に涙する。何も負荷のかかっていない本能的で解放された心が、今まで培ってきた全能力を遺憾なく発揮できる。意識しなくても一瞬にして無数にある記憶の引き出しの中から必要な引き出しだけを的確に集めてきてくれて、それが形や線となりイメージ通りの作品が出来上がっていく。それらの引き出しは全て自分が過去に経験したことや修練した技術がベストマッチされて指先から出力される感覚です。でも全部これは自分の内側で起こるのです。決して外から特別な能力が降ってくるわけじゃないんですよ。

 ともかく、そんな自由な発想の自分が、心躍らせて作った線や形の積み重ねが作品となるからこそ、『面白いとか美しい。なんかいいなぁ、これ欲しいな』と、人の心に響く作品になるんだと思います。このように僕にとって大麻と創作活動の関係にはそんな素晴らしい影響があるのだと感じています」。

罪状認否の保留の意味

 大藪さんは、第1回公判で、起訴状記載の公訴事実に不明瞭な点が多々あったため、検察側に対して釈明を要求し、罪状認否を保留していた。この釈明要求に対して、検察官からはいまだ一片の回答もない。

 主任弁護人の丸井英弘弁護士は、大藪さんが検察官の公訴事実について罪状認否を保留している点について質問した。

 「私としては、22日間牢屋に入れられ社会的制裁を受けたと感じています。でも検察のみなさんはさらに重い刑罰を課せられるほどの重罪を僕が犯したと主張されます。しかし、僕はその法律に書かれている意味がいくつかわからないから、どれほどの罪を犯したのかわからない。もう少しわかりやすく説明してほしいと言っているだけです。検察としてはこう考えているから、これだけの重罪なのだ、と。ただ検察としての見解を聞きたいだけなんですけど、ある意味それが聞きたくてこのような裁判を争っているのに、検察あるいは国としてはこう考えているって、そんな基本的なことをなぜ答えられないのかなと思います。その主張を聞いて裁判所が最終的に判断するわけですよね。ごく普通の素朴な疑問だと思います」。

日本文化と大麻との関係

 続いて、大藪さんは日本のやきもの文化を研究している陶芸作家であることから、日本文化における大麻栽培とそれが戦後GHQにより禁止されたことについて聞いた。

 「大麻草は種まきから3か月くらいで、衣服、弓、釣り糸、魚網など、人が生きていくために必要なさまざまな原料になります。また、7〜8か月もあれば食料や燃料にもなる。そんな驚異的な植物であることから、縄文時代の人々はその恩恵に感謝し、およそ1万2,000年前からその神聖な植物で作られた道具を欠かせないものとして利用し崇めて来たのです。その精神は受け継がれ、天皇が即位後に行う祭祀である大嘗祭は、麁服(あらたえ)と呼ばれる麻の繊維がなければ行えないと言われるほど重要なものであった。このように、大麻は神が宿る神聖な植物、繊維であり神の身印として今も丁寧に扱われています。つまり大麻はこの国の人びとのアイデンティティーの象徴です。その日本国民の象徴を奪い骨抜きにすること、これが明治以降に欧米列強が考えた侵略目標であったと思います。そして戦後、GHQは化石燃料とそれをもとにした化学繊維などを普及させたかった。それには、依然として日本人の生活にさまざま場面で重要な役割を果たし、日本の伝統文化と深く結びついていた大麻製品が邪魔だったわけです。これを焼き払い日本人の精神性を弱体化させれば、同時に経済的に従属させることができる。ですからGHQは終戦直後、真っ先に大麻を全面的に禁止したと思います」。

薬物問題に関する国連人権高等弁務官事務所の声明と大藪裁判

 前回の公判から今回の公判までの間に、マスメディアではまったく報道されなかったが、薬物問題に関して国際社会で大きな動きがあった。6月23日、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、国際社会に対して、同月26日の「国際薬物乱用・不正取引防止デー」に先駆け、声明(International Day Against Drug Abuse and Illicit Trafficking 23 June 2023)を発表している。

 この声明は、「国際社会に対し、個人のための薬物使用と所持は緊急に非犯罪化されるべきであるとし、違法薬物犯罪の取り扱いについて処罰を支援に置き換え、人権尊重・保護する政策を推進すること」を求めている。

 丸井弁護士は、昨年10月にアメリカ合衆国のバイデン大統領が発表した「大麻草の単純所持に対する非犯罪化など改革案」について質問した後、国連人権高等弁務官事務所の声明についても大藪さんに感想を求めた。

 「私は今年の春以降、個人使用のための少量所持を重罪とする政策は国際的な人権侵害である旨の投稿をツイッター等SNSに投稿し続けてきました。今回の国連の声明は国際社会において私の主張が決しておかしなことでないことが証明されたと感じています。このような世界情勢の中、日本は今もなお、38年前の最高裁で下した『大麻の有害性は「公知の事実」であるとする』判例を根拠に『大麻の使用が人の心身に有害な薬理作用があることは明らかであるから、国民の保健衛生上の危害防止のために規制し、刑罰を与えることは問題ない』などとする判決が続いています。しかし、その後、科学の発展はめざましく、大麻の成分や大麻が人体に作用するメカニズムがつぎつぎと明らかになっています。最高裁の決定があった1985年当時とは、大麻の有害性に関する『公知の事実』は大きく変化しているはずです。

 私はこの裁判で、大麻の有害性について検察が主張するのであれば、それをあらためて立証する必要があり、裁判所も最高裁の決定について検証する余地が大いにあると私はもう一度強く主張したいと思います」。

 このあと検察官から反対尋問があった。検察官がどのような質問をするのか注目したが、その内容は、裁判官から被告人と議論するのではなく事実について質問してくださいとたしなめられるほど不適切で不明瞭なものであった。しかし、大麻所持の裁判で検察がかならず聞く一点だけは忘れなかった。使用した大麻はどこから入手したかを質問したのである。これに対して、大藪さんはきっぱり答える必要ありませんと回答した。

 検察官の反対尋問後、丸井弁護士は、「本件公訴取り消しに向けての検討の申し入れ」をした。内容は、①検察官に対しては、本件の公訴取り消しに向けての国際的な情報活動とその総合的な検討を開始すること、②裁判官に対しては、弁護人の上記要望を尊重する旨の検察官に対する勧告、の2点である。

 最後に、裁判官は今後の審理の予定について決定した。次回は来年1月30日とし、弁護側から提出されている前記の国連人権高等弁務官事務所の声明など証拠と再度請求した園田寿甲南大学名誉教授など証人の採否を判断し、不採用の場合は直ちに検察の論告求刑に移るとした。

被告人質問を無事終えほっとした表情の大藪龍二郎さん(中央)と公判の内容などを語る石塚伸一(左端)、丸井英弘(右端)両弁護士(2023年10月12日、群馬県庁のカフェテラスにて)。

橋本裁判長の英断に期待

 公判のあと、近くの群馬県庁にあるカフェテラスで、報告集会がもたれた。

 冒頭、石塚弁護士は、「十分に大藪さんの主張は法廷に出すことができた」と、被告人質問の意図や内容などを詳しく解説した。

 丸井弁護士は「国連人権高等弁務官事務所の声明は、非常に重要です。日本は国連加盟国であるので、それを遵守する義務があります。裁判所がそれを証拠採用することを強く期待しています。次回の公判が1月末とだいぶ先になったのは歓迎する。かなり時間があるので、その間にあらたな証拠調べ請求と証人を検討したい」と、次回公判への取組みを語った。

 大藪さんは、「今日が僕にとって最大の山場だと思って、昨日まで力が入っていましたが、この裁判で何が言いたいのか整理し、そのことを法廷の場で言えたことは本当によかった。そして、国連の勧告が出ましたが、これはまさに自分のことではないかと思いました。橋下裁判長も、そうしたことも含めて真剣に聞いてくれたのでないのか。最後は英断を下していただくことを信じています」とほっとした表情で話した。

 前日の11日に、厚生労働省は、大麻草由来の成分を使った医薬品を解禁すると同時に大麻の不正な使用・所持の罰則を「7年以下の懲役」とする使用罪を創設する改正法案の概要を、自民党厚生労働部会に示したとの報道がなされた。改正案は20日からの臨時国会に提出される予定である(大麻使用罪の創設に関しては、『大麻使用は犯罪か?』が詳しい)。

 最後に、支援者の長吉秀夫さんは、「大麻使用罪を懲役7年とする改正法案が、今度の臨時国会に提出される。大藪裁判はまさにその大麻使用が問われているものです。法案反対の署名活動も行われているので、法案の行方も含め、この裁判を今後も注目していきたい」と結んだ。

*次回公判は、2024年1月30日(火)午後1時30分から前橋地裁で行われる。当日12時30分より12時50分まで傍聴希望者に傍聴整理券が配布される。

(2023年10月18日公開)


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