大藪大麻裁判第6回公判/大藪さんが被告人質問で、検察官の不誠実と大麻取締法の憲法違反を意見表明


「報告書の証拠採用にはびっくりした。被告人質問でもいいたいことが言えた。公判の大きな山場を無事終えることができ、ほっとしている」と語る大藪龍二郎さん(2023年1月24日、群馬県庁32階展望ホールのカフェにて)。

 1月24日(火)、大藪大麻裁判の第6回公判が前橋地方裁判所(橋本健裁判長)で行われた。前回同様、丸井英弘、石塚伸一両弁護士、被告人の大藪龍二郎さん、および黒澤検察官が出席した。

 この裁判では、大藪さんは、大麻取締法の憲法違反を争って、大麻所持の無罪を求めている。

 事件の発端はつぎのようである。陶芸家の大藪さんは、2021年8月8日午前5時55分頃、陶芸イベントの帰り道で急に眠気を覚え、群馬県内の道路の路肩に駐車して、仮眠をとっていた。そこに、「不審車両」があると近隣者からの通報を受けた警察官らが駆けつけ職務質問を行った。そのとき、車両の中から「植物片」(3.149グラム)を見つけ、大藪さんを大麻所持の現行犯で逮捕したものである。

 公判はこれまでに、職務質問を行った群馬県警のT警察官、大麻所持の疑いで現行犯逮捕したK警察官、車内にあった「植物片」が大麻であると鑑定した同県警科学捜査研究所(科捜研)の鑑定人の証拠調べが行われている。

 今回は、弁護人が請求した大藪さんの被告人質問、弁護人から現行犯逮捕の違法性と「植物片」を大麻とした鑑定の問題点、および大麻取締法の制定過程から見たその違憲性の指摘など意見陳述が行われた。

 被告人質問に立った大藪さんは、冒頭、これまでの丁寧な審理を行ってきた裁判所関係者に感謝の意を表明した。

 そして、第1回から第5回までの審理で感じたこととこれからの審理に対する要望を述べた。

 第1回公判で、大藪さんは罪状認否を保留した。これは起訴状記載の公訴事実に不明瞭な点が多々あったため、検察側に対して釈明を要求したからである。

 その要点は以下のとおりである。

 (1)公訴事実では「みだりに」「大麻を含有する『植物片』を所持」と記載されているが具体的にいかなる事実を指すのか。

 (2)公訴事実では「大麻を含有する植物片3.149グラム」と記載されているが、客体があきらかでないとして、以下5項目の釈明を求めた。

  ① 「大麻」とは何か?
  ② 「植物片」とは何か
  ③ 「大麻を含有」とはいかなる意味か?
  ④ 上記を踏まえた上で「大麻を含有する植物片」とは何か?
  ⑤ 「大麻」とは何グラムか?

 以上の点について、第6回公判の時点で検察側からは何ら明瞭な回答を得られていない。

 このため、大藪さんは、「大麻取締法のどの項目に違反しどれほどの罪を犯したのか? 23日間の勾留を受けた上にさらに刑罰を受けるほどの罪を犯したのであれば、せめてその罪を具体的に説明してほしい」と、早急な返答を改めて検察側に求めた。

 第3回・第4回公判では、逮捕時の事実関係について2名の警察官の証人尋問があった。T警察官は「国道146号線の登坂車線の真ん中に、運転席のドアを全開にして止まっていた」「車は駐車の方法が明らかに異常であった」と証言し、車に細かい傷があったので、交通事故を起こした可能性があり確認する必要があったという趣旨の発言をした。

 この点について、大藪さんは「現場は登り坂で、遅い車が走る左側の登坂車線と右側の追い越し車線の2車線があり、私の車は一番左側の登坂車線の側道に寄せて停止していました」「運転席の窓は開いていましたが、ドアは開いていなかった」ときっぱりと否定した。職務質問の際に警察官から「車線の真ん中」「ドアが全開」「車体のキズ」などという言葉は一言も聞いていないという。

 つぎに、第5回公判での科捜研の鑑定人が、押収した「植物片」を大麻草と鑑定したが、その鑑定方法について疑問を投げかけた。

 さらに、大麻の精神作用について触れた。「大麻には精神作用があり意識変容する。つまりトリップするから危険だとよく言われます。しかしながら私の経験上、大麻を多量に摂取しても、アルコールでよくみられる記憶を完全になくしたり暴力や暴言で人を傷つけるような酩酊状態を経験したことはありません。私の場合、むしろ視覚、臭覚、味覚、聴覚、触覚、が研ぎ澄まされ、潜在意識によって狭められていた領域が拡張し、本来備わっている自分の能力が呼び覚まされる感覚である。これらを駆使して仕事を行う芸術家にとって自身の感覚の維持向上は至上命題であり、職業上許されるべき自由である」と、芸術家として意識変容することの自由を改めて強く主張した。

 最後に、大麻取締法がGHQによって占領された3か月後に制定されたことに触れた。これによって日本の大麻産業は壊滅的打撃を受けた。大麻取締法は憲法に保障された自由と権利を無視する「悪法」であると断じ、その違憲性を述べて、被告人質問を締めくくった。

 このあと、検察官から反対尋問があった。しかし、大麻所持の認識があったかどうか、常習的に使用していたかどうかなどを確認するもので、大藪さんが求めている点とは噛み合わないものであった。

 その後、弁護側から、補充の意見陳述が行われた。丸井弁護士は、大麻取締法の制定過程とその違憲性、大麻政策に関する最近の世界的動向などについて丁寧に意見表明した。

 続いて、石塚弁護士から、「違法な職務質問とそれに引き続く違法な現行犯逮捕によって収集された証拠は、本法廷における証拠から排除されるべきである」と違法収集証拠を排除し、速やかな無罪判決を求めた。その理由について以下の4点を挙げた。

  ① 道交法違反から大麻取締法違反への嫌疑の切り替えは違法である。
  ② 大麻取締法違反の職務質問は、偏見に基づく不平等な職務行為である(レイシャル・プロファイリングに基づく差別的法執行)。
  ③ 現行犯逮捕は必要性のない違法な逮捕である。
  ④ 「大麻草のような物」の押収には重大な違法がある。

 予備的主張1として、「群馬県警科学捜査研究所による大麻草識別鑑定は、科学的根拠を欠く不正な鑑定であり、証拠としての信用性を欠くことから、本件の押収物が『大麻草』であることの証明は不可能であるので、無罪の判決を言い渡すべきである」とした。

 最後に、予備的主張2として、裁判を継続する場合は、科学鑑定に関する更なる証拠開示と鑑定人の再尋問を求めた。

 公判の最後に、橋本裁判長は、大藪さんの「被告人作成の裁判官宛報告書」を証拠採用することを決定した。このあと、これまで提出された証拠の採否を次回公判で決める旨表明し、閉廷した。

 この報告書は、2021年10月に、水上周裁判長(当時、その後転勤によって現在の橋本裁判長に交代)宛に提出されたものである。内容は、大藪さんの芸術活動の主題が縄文と大麻草および狼との関係性であるとし、縄文時代の道具や焼成方法などから得た「やきもの」の制作活動を、作品の写真などで紹介するものである。

 閉廷後の集会で、大藪さんは「報告書の証拠採用にはびっくりした。被告人質問でもいいたいことが言えた。公判の大きな山場を無事終えることができ、ほっとしている。歴史的判決になるかもと期待する」と語った。

 次回公判で、現行犯逮捕を違法と認定し、押収した「植物片」が違法収集証拠となれば、「無罪」となることは確実である。

 次回は、3月22日(水)午後1時30分より3時30分まで、前橋地方裁判所で行われる。傍聴希望者が多数になる場合は抽選となり、傍聴整理券が、当日12時30分から50分まで配布される。

(2023年01月31日公開)


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