韓国の現職裁判官、チョン・ジョンホ氏の『私が出会った少年について』が日本で翻訳出版


チョン・ジョンホ判事

「非行少年たちが置かれた状況と環境に関心を持ってください」

 このほど、現代人文社より、『私が出会った少年について──韓国の少年事件裁判官が語る、子どもたちとの歩み』が出版された。本書は韓国で、2021年に出版された、『私が出会った少年について』(내가 만난 소년에 대하여)の翻訳書である。著者は、釜山地方法院1)判事のチョン・ジョンホ氏である。本書は、チョン判事が非行に走る少年・少女たちとの出会いのなかでのエピソードを紹介し、少年法のあり方を考え、青少年の健全育成にいかに取り組むべきか、自身の考えを綴った。

 チョン判事は8年間、少年事件を担当され、12,000人以上の青少年たちと法廷で出会った。チョン判事は法廷で、少年・少女たちに自分たちの罪を認識させようと、大声で怒鳴ることから、「ホトン2)判事」や10種類ある少年保護処分のうち、最も重い2年以内の少年院送致処分である10号処分3)を頻繁に下すことから、「チョン10号(チョンシプホ)」というあだ名が付けられた。法廷においては非行少年たちへ厳しい態度で望む一方、彼/彼女らの更生を強く望んでいることから、自ら更生支援施設を開設するなど、多くの非行少年たちと寄り添い、更生へと導いている。少年事件の担当ではない現在でも、更生支援の活動を精力的に行っている。漫画『家栽の人』(魚戸おさむ画、毛利甚八作、小学館、1988~1996年)の主人公・桑田義雄判事を彷彿とさせる。

本書の原典(左)と『私が出会った少年について──韓国の少年事件裁判官が語る、子どもたちとの歩み』(右)

 このたび、本書の出版に際し、チョン判事に現在の近況や日本の読者へのメッセージなど、伺うことができた。

──現在の近況をお聞かせください。

 「2022年2月から2年間大邱(テグ)地方法院に勤務しましたが、先月(2024年2月19日)から釜山地方法院に勤務することになりました。 個人的には釜山家庭法院に配属されることを望んでいたので、残念な気持ちではありますが、それでも家族が暮らす釜山に戻ることができたので、感謝の気持ちでいっぱいです。
 現在は家庭法院を離れていますが、今でも非行少年たちの再非行防止と教化のために活動しています。 2024年2月5日から2月13日まで13人の非行少年たちと児童養護施設出身の子どもたちに夢を与えるため、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスへ『地球・星旅行学校4)』に行ってきました。 子どもたちにとって初めての海外旅行でしたので、とても上機嫌でした」。

──本書を含め、数多くの著書を出されていますが、初めて書籍を出版した時の周囲の反応(特に職場の上司や同僚)をお聞かせください。

 「私が本を書くようになったのは、皆さんに非行少年たちの実情をきちんと伝え、危機に立つ青少年に対して偏見と嫌悪を抱かせないようにするためでした。 私が初めて書いた本『いや、私たちが悪かった』が出版された時、当時の大法院院長5)が私の本を購入して裁判官たちに配って下さいましたが、裁判官と一般職員たちの関心はそれほど高くありませんでした」。

──京都で招へい外国人研究者として一年間過ごされたほか、プライベートでも訪日されていますが、日本で非行少年とお会いする機会はありましたか? もしお会いしてましたら、韓国の非行少年との違いについてお聞かせください。

 「2006年2月から2007年2月まで京都大学で招へい外国人研究者(行政法専攻)として1年間滞在し、また個人的にも日本を訪れる機会もありましたが、日本の非行少年たちに出会う機会はありませんでした。 ただ、日本の著者が書いた書物を通じてのみ、日本の非行少年たちについて学ぶことができました。そのような事情ですので、私は韓国の非行少年と日本の非行少年の違いについて言及することは難しいです。ご了承ください」。

──本書で「日本語版への序文」をいただいておりますが、改めて、日本の読者へ本書についてメッセージをお願いいたします。

 「非行少年たちの非行に対する責任は一次的には非行少年たちにありますが、詳しく探ってみると、崩壊した家庭や彼/彼女らの友人関係など、彼/彼女らを取り巻く環境に問題があることが分かりました。さらに前者より、後者(環境)が非行を触発する大きな原因として作用することが分かります。したがって、非行少年たちに責任を問うためには、彼らが犯した非行内容のみならず、彼/彼女らが置かれた状況と環境を詳しく探る必要があります。
 この本では韓国の非行少年たちの実情が少し紹介されています。私は日本の皆さんの非行少年たちに対する視線がどのようなものかは分かりませんが、もし非行少年たちが犯した非行内容にのみ関心を寄せているのであれば、この本をきっかけに日本の非行少年たちが置かれた状況と環境についても、少しでも関心を寄せてくださることを切に願います」。

 本書には、非行に走る少年・少女たちに我が子のように寄り添うチョン判事の愛情が込められている。

(り)

◎著者プロフィール
チョン・ジョンホ(千宗湖) 
 1965年韓国釜山で生まれ、釜山大学法学部を卒業後、1994年に司法試験に合格し、1997年に釜山地方法院判事に任官した。その後、釜山高等法院判事、昌原地方法院少年部部長判事、釜山家庭法院少年部部長判事、大邱地方法院部長判事を歴任。現在は釜山地方法院部長判事の職にある。著書に『いや、私たちが悪かった』(2013年)、『この子たちにも父親が必要です』(2015年)、『ホトン判事チョン・ジョンホの弁明』(2018年)、『チョン・ジョンホ判事の善、正義、法』(2020年)等がある。

注/用語解説   [ + ]

(2024年03月12日公開)


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