投票日直前緊急調査、刑事司法に関する各党の公約は?


 衆議院議員総選挙の投票日が10月31日(日)に迫ってきた。各党は選挙公約を選挙公示前後に一斉に発表し、有権者の獲得を目指している。今回の選挙では、コロナ対策、格差是正の経済政策などが主な争点とされている。マスメディアでも、その点を意識して各党の選挙公約を整理し報道している。

 編集部では、自民党、立憲民主党、公明党、共産党、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組、社民党、NHKと裁判している党弁護士法72条違反での9党について、選挙公約の中に刑事司法に関する項目がないかどうか緊急に各党のホームページを点検した。

 刑事司法の課題のなかで、現在、弁護士界や冤罪の救援市民団体などで喫緊の課題としている〈逮捕段階での被疑者国選弁護〉、〈取調べへの弁護人立会い〉、〈再審法改正〉の3点(「改革3課題」)について調べた。

 その結果、今回の選挙公約で刑事司法について触れているのは、共産党だけであることがわかった。そこで、さらに調査範囲を広げて党の政策の中に求めたところ、自民党、立憲民主党、社民党が取り上げていた。

 自民党は、その司法制度調査会が今年4月に発表した「司法制度調査会2021提言〜デジタル化及び国際化が進展する中での司法の在り方」で、刑事手続のIT化 について触れているだけで、以上の「改革3課題」については何も触れていない。

 立憲民主党は、立憲民主政策集2021で、「無実の人が罪を負わされる『えん罪』をなくすため、現在全体の約2〜3%程度の事件に限定されている『取り調べ等の録音・録画(可視化)制度』の対象事件をさらに拡大します。同時に、拡大した事件についても、公正な事後検証が裁判所でできるよう、取り調べ等の開始から終了までの録音・録画を実現します」と取調べの録音・録画の対象事件の拡大を求めている。

 また、再審については、「現在の再審請求手続は大変複雑で、再審事由が極めて限定されており、再審を受けるための壁となっています。この再審請求手続きを見直して再審への門戸を開き、真に『えん罪』のない社会を目指します」と、その見直しを迫っている。さらに「人質司法」に対しても「人権保障と真実発見の調整の観点から課題を整理し、対応を検討」するとしている。

 共産党は、「2021総選挙政策」の分野別政策「66、司法・警察」の中で、かなりの紙幅を使って刑事司法全体を詳しくまとめている。

 えん罪の原因について触れ「警察が逮捕した被疑者や被告人を四六時中支配できる警察留置場に拘束し、そこでウソの自白を強要して自白調書を作成し、それを受けた検察官が物証やアリバイより、自白調書を重要なよりどころとして起訴し、裁判官は公開の法廷で被告人が犯行を否認していることよりも、捜査官の面前での自白調書を偏重し、有罪としてきました。また、検察官が被告人の無罪を証明する証拠を裁判で隠し通して有罪としてきました」。「憲法では適正手続、黙秘権、弁護人の接見交通権など、第31条から40条までにわたって詳細に刑事上の人権がさだめられていますが、実際の運用では人権保障が不十分です」と、踏み込んだ分析をしている。

 また、代用監獄の廃止、保釈の改善、証拠の全面開示、再審決定に対する検察官の不服申し立ての禁止をあげるほか、死刑廃止を宣言している。

 さらに、裁判員制度については、第1回公判の審理開始前の公判廷と評議開始前において、裁判長が刑事裁判の原則を説明することを義務づけること、その説明の内容は「有罪であるとする検察官の立証をふまえて考えた場合、被告人について確信をもって有罪と思えなければ、『合理的な疑い』があるとして、無罪と判断すべきである」とし、強く刑事裁判の原則を確認している。

 社民党は、共謀罪の廃止を「基本政策」と「2021年重点政策」の中で掲げているが、特に「改革3課題」については触れていない。

 以上のように、「改革3課題」のすべてについて触れている政党は皆無である。共産党を除いて、司法問題、特に刑事司法に対する政党の関心は高いとはいえない。しかし、司法は合法的に市民の権利を制限したり奪ったりすることができる強力な力をもっているものである。それだけに、各政党の刑事司法に関する政策にも注目したい。

(刑事弁護オアシス編集部)

(2021年10月26日公開)


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