犯罪学研究センターは、研究会「ヘイトクライムとは?——京都における事案から考える」を開催


 2月4日(金)、 龍谷大学犯罪学研究センター(CrimRC)は、公開研究会「ヘイトクライムとは?——京都における事案から考える」を、オンラインで開催する。

 昨年8月、京都府宇治市のウトロ地区で、住宅や倉庫など計7棟が焼け、地域の歴史を伝える資料が焼失した放火事件があった。当初、建物の老朽化などが原因での失火と見られていたが、12月6日、京都府警は、非現住建造物等放火(刑法109条)の疑いで被疑者を逮捕した。同人は、同年7月、名古屋市の韓国民団(在日本大韓民国民団)愛知県本部と隣の名古屋韓国学校の排水管に火をつけて壊し、器物損壊(刑法261条)の疑いで、すでに10月に逮捕・起訴されていた。

 ウトロ地区では、2022年4月には地域の歴史を伝える平和祈念館が開館する予定。その際に展示が計画され倉庫に保管されていた資料などおよそ40点がこの火事で焼けた。

 ウトロ地区は、第二次世界大戦中、日本軍の戦争遂行のために朝鮮半島から渡ってきた人々が戦後同地に住み続け、差別されながら幾多の困難を抱えて生き続けた。またその子孫が生活しており、地域そのものが日本の戦争と朝鮮植民地の歴史を今も示し、語り続けている場である。ウトロでの放火では、単に家屋や物が焼失しただけでなく、戦前・戦後のウトロ地域と人々の歴史を証明するかけがえのないものが失われた。

 被疑者は、民族団体やウトロ地域など、朝鮮・韓国という特定の民族集団を狙って、放火行為などに及んだとされている。これが本当であれば、被疑者のしたことは、ヘイトクライムである。京都では、2009年にも京都朝鮮第一初級学校への「在特会」による襲撃事件が起きた。

 研究会の報告者のひとりである金尚均龍谷大学教授は、ヘイトクライムについて、次のように語った。

——ヘイトクライムとはどんな犯罪でしょうか。

 「ヘイトクライムとは、皮膚の色、言語、宗教または信念、国籍または民族的または種族的出身、世系、年齢、障害、性別、ジェンダー、ジェンダーアイデンティティおよび性的指向等の属性を理由として、その集団又はその構成員に対して行われる犯罪である。記憶に新しいところでは、相模原市の障害者施設で起こった施設に入所していた人たちに対する差別動機に基づく殺傷事件(2016年)や、Black lives mattersという呼びかけで知られるアメリカでの黒人の方に対する差別的動機に基づく警察の対応によるジョージ・フロイドさんの死亡事件等が知られているところです(2020年)。しかしそれは氷山の一角でしかなく、在日朝鮮人への差別動機に基づく不当な取り扱いや犯罪はかつてからあり、その中には、司法の場で対応されなかったものも多数ある。近年では、ヘイトスピーチが蔓延し、社会問題となりました」。

——日本におけるヘイトクライムの特徴にはどんなことがあるでしょうか。

 「ヘイトクライムは、動機や背景のない個人的な犯罪ではない。今日でも朝鮮に対する植民地支配に由来する朝鮮の人々への偏見、見下し、蔑みなど差別意識とそれに基づく不当な扱いが社会に根づき、ヘイトスピーチが社会問題化するに至っています。ヘイトスピーチは単に『不快』レベルの問題ではなく、将来における暴力と社会的排除を喚起し、実際に引き起こすのです。ヘイトスピーチによって醸成された差別意識により、朝鮮人の人々に対する敵視、偏見そして憎悪を増長させる中で、同じ人間であることを否定して、罪の意識なく犯罪が行われてしまうのです」。

——ヘイトクライムは、私たちの社会の基盤である民主主義を壊すものであるといわれますね。

 「そうです。ヘイトクライムは、個人の法益を侵害・危険にさらすだけでなく、日本で生活する朝鮮人の人々の生存権の否定、つまり対等な人間として生きる権利を否定します。ヘイトクライムを許容する社会では、特定の属性を持つ人びとが、生きながらにして人格権・生存権を否定されながら生き続けざるを得ない状況に置かれることになります。ヘイトクライムによる攻撃は継続するのです。しかも、ヘイトクライムは、在日の人々の排除を求めることから、私たちの社会の民主主義を否定することにもなります。ヘイトクライムは、民主主義社会における根本基盤である対等で平等に生きることを否定するのです。それゆえ、ヘイトクライムは、個人にとってだけでなく、社会にとって危険な犯罪なのです」。

 私たちは、ヘイトクライムにどのように対処しうるのか。研究会では、京都におけるヘイトクライムの事案から考える。

○第31回CrimRC公開研究会「ヘイトクライムとは?——京都における事案から考える」

​​○日時:2022年2月4日(金)18:00〜20:00

○開催形式:オンライン(ZoomまたはYouTubeを予定)

○報告者:
 山本崇記(静岡大学人文社会科学部准教授)
 金 尚均(龍谷大学法学部教授)

○参加費:無料 

○定員:100名

○申込み方法:以下のフォームから申し込む。申込期限は2月4日(金)17:00まで
 https://forms.gle/7X2pbcz6fuERASAKA

○主催:龍谷大学犯罪学研究センター(CrimRC)

(2022年01月31日公開)


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