〈プレサンス付審判事件第4回・第5回公判(10月6日・13日、大阪地裁)〉「検察なめんなよ」の田渕検事、無罪を訴える。「トカゲのしっぽ切り」と弁護側主張

粟野仁雄 ジャーナリスト


プレサンス付審判事件第4回・第5回公判があった大阪地裁東門(2026年10月6日、大阪市北区。撮影/粟野仁雄)

 プレサンス事件に関わる付審判事件の第4回目と5回目の公判が、それぞれ10月6日と13日に大阪地裁(大森直子裁判長)で開かれた。

 被告人は田渕大輔検事(54歳。現、東京高検)で、不動産大手プレサンスコーポレーション(大阪市・現株式会社プレサンス)の元社長・山岸忍氏が冤罪に巻き込まれた巨額横領事件。大阪地検特捜部時代の取調べが問題視され、特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)で付審判決定となり、起訴された。

 弁護側は、「刑法上の『陵虐』にはあたらない。(取り調べられた)元部長(以下K氏)も精神的苦痛を受けたという認識はなかった。連日弁護人と接見しても、苦情申立てをしていなかった」などとする冒頭陳述を読み上げ、田渕被告の無罪を訴えた。

 刑事裁判の起訴状にあたる付審判決定書では、田渕検事の取調べについてつぎのように記されている。田渕検事は、2019年12月8日と9日の大阪拘置所での取調べの際、プレサンスコーポレーションの業務上横領被疑事実に関する件で同社の部長だったK氏(有罪確定)に対し激しく机をたたき、「検察なめんなよ」「あなたはプレサンスの評判を貶めた大罪人。(損害賠償を求められたら)10億や20億で済まない」などと発言した。

 田渕検事は当時のプレサンスの山岸忍社長の業務上横領事件への関与を引き出そうとしていたが、2021年10月に無罪判決が言い渡された。特捜部に逮捕され長期勾留された山岸氏は田渕検事を逆に特別公務員暴行陵虐などの疑いで告発したが、大阪高検が不起訴にした。山岸氏は大阪地裁に刑事裁判を求める付審判を申し立て、大阪地裁は退けたが、2024年8月8日に大阪高裁が審判開始を決定した。

第4回公判の後に会見する森直也弁護士(右)(2026年10月6日、大阪市北区。撮影/粟野仁雄)

「陵辱にも加虐にも当たらない」と弁護側

 田渕検事がK氏を激しく取り調べる様子の録音・録画は、検事役の指定弁護士側が提出して証拠採用され、7月10日の初公判の法廷で流されていた。

 弁護側は第4回公判の冒頭陳述で「もし取調べを受けていたK氏が供述を無理強いされたと事後に供述を翻していれば、任意性が否定されたかもしれない」とし、それがなかったことを強調。「(過去に)田渕検事が作成した調書の任意性が問われたこともない」とした。

 また、K氏の言い分を聞いたり、身の上話をしたりする場面があったと説明、「検察なめんな」などと荒っぽい言い方になったのは、それまでの特捜部の家宅捜索で見つかった打合せメモの内容が、K氏の説明と矛盾しており、K氏が噓をついているに違いないと思って追及するためだったとした。「問われているのは刑法195条での陵辱もしくは加虐にあたるかの一点」であるとし、それが「一部の映像のインパクトのみから判断されるべきではなく、言動がどのような過程で出たのか。それをK氏がどう受け止めたかが判断されるべき」などとして無罪を訴えた。

 そして「被告人一人を有罪にしても検察の在り方は変わらない。被告人を有罪にして、すべて問題が解決するという考えは『トカゲのしっぽ切り』だ」とも主張した。

 田渕検事のK氏への取調べは全18日間、約70時間に及んだが、弁護側は「なめんなよ」などの激しい言動があった後は、紳士的で穏やかな取調べが続いていたことを立証する。

 これまでに供述調書が作成された日の12月10日までの録音・録画が証拠採用されたが、弁護側は11日以降の記録の証拠採用も求めている。

 指定弁護士は「関連性がない」と反対している。弁護側は、さらに「刑事罰の対象となる陵虐行為は威迫のレベルにとどまらず不必要に身体や精神を苦しめる行為。田渕被告の取調べは暴行陵虐に該当しない」などとする井田良・中央大学名誉教授の意見書を提出。概略が法廷で読まれた。また、特別公務員暴行陵虐罪成立の歴史や背景なども説明した。陵虐とは陵辱(はずかしめること)と精神的な虐待を合わせた言葉である。

長々と身の上話、「なめんなよ」と同一人物と思えない様子

 法廷の壁のスクリーン映像は10月6日の公判の途中から消えて音声だけとなった。田渕検事の弁護人の森直也弁護士によると、裁判官の判断材料としてK氏の表情が大事なので顔にモザイクをかけないで証拠提出したが、プライバシー上、法廷でそのまま流すのは難しかった。裁判官席や当事者席などの机上のモニター画面はそのままで、傍聴者が見る法廷のスクリーン画面にはモザイクをかけるなどの対処は技術的に不可能で、やむを得ず傍聴者向けは音声だけにしたとのこと。

 「検察なめんなよ」の発言者と同一人物とは思えないような田渕検事の紳士的で穏やかな取調べぶりが法廷に流れた。「18億の借り入れがポイントですね」などと質問していった田渕検事は足や歯などK氏の体調がよくないことを盛んに気遣ったり、時に「私より弁護士さんの方が信用できると思いますよ」「検事がかまかけて言ってるんだ、くらいに思ってもらえればいいですよ」などと、少し自虐的な発言も交えていた。

 10月13日の法廷に流れた音声では、田渕検事は「あなたを縛り付けているのは鉄の鎖なの」などとこれまでの供述が噓であることを認めることを迫った。また「こちらは多くの証拠があるが、捜査段階で証拠を見ることは弁護人にはできない。あなたが包み隠さず話すことです。私が弁護人なら後になってあれは噓でしたなんて言われたら匙投げますよ」などと話し、すべて正直に話すことが弁護人の信用を得ることでもあることと説得した。

 弁護人の話題になると、田渕検事は「自分は検事になりたかったのではない。弁護士になろうかとも迷った。埼玉県出身で、中央大学で学び、2回失敗して司法試験に合格した。当時、合格者の平均年齢は29歳から30歳で合格者としては若い方だったが、職業を変えて合格した人など凄い人もいて、とても勝てないと思った」などと身の上話を長々と話した。家族、とりわけ父親についての思いをお互いが語り合う場面もあった。

 「お金の流れは周囲から聞いていたが、横領の認識はない」と話したK氏に対して「横領に当てはまらないと思っていたというのはおっしゃるとおりかもしれない」とも同意し、「プレサンス社が、責任をKさんだけにかぶせようとしていることに憤りを感じます」とも話していた。

不起訴裁定書などを非伝聞証拠で採用

 10月6日の法廷では、弁護側が提出していた、プレサンスの山岸忍元社長に特別公務員暴行陵虐などで告発された際の大阪高検の不起訴裁定書について、指定弁護士の髙山巌弁護士が「そんなものを見るのはおかしい。裁判官は検察が起訴したときの検察内部の決裁書を見たりしないはず」と強調し、証拠採用にあたって不同意の意見を述べた。閉廷後の会見で指定弁護士の山口昌之弁護士は「不起訴裁定書は不起訴になった事実のみを立証するための非伝聞証拠として(裁判所が)採用した。時系列でも田渕検事が不起訴になったことは明らかで重複です。非伝聞証拠で採用したとしても、内容を見るなら裁判所の判断をゆがめる恐れがあるので反対しました」と説明した。

 指定弁護士が不同意にしたもう一つは「不起訴相当」と判断した経緯が書かれた検察審査会の議決書(2022年9月29日付)。

 不起訴裁定書と同じ理由で、指定弁護士が「裁判所が見るべきではない」と主張したが、大森裁判長は採用した。

 さらに、大森裁判長は、大阪地検の総括審査検察官から田渕検事の取調べの報告を受けながら問題視しなかった最終決裁会議に出席していた当時の山下裕之特捜部長、田辺泰弘検事正、山本真千子次席検事からの聞取り結果の報告書などを証拠採用している。この報告書は指定弁護士が聴取したもので、弁護人が証拠請求していた。

第4回公判の後に会見する山口昌之弁護士(2026年10月6日、大阪市北区。撮影/粟野仁雄)

 記者会見で指定弁護士の山口昌之弁護士は「弁護人は、田渕検事には暴行陵虐の意図がないということを言っていましたが、意図がなければ犯罪が成立しないのなら、どんな酷い刺し方でも殺人罪は成立しないがそうではない。意図があった、なかったは犯罪の成立には関係がないと思います」と話した。「取調べを受けた人の心情は罪の構成要件に該当しないのか」について、山口氏は「調べられた側が真に畏怖していたかどうかが構成要件該当性にどこまで当たるかについては、指定弁護士と弁護人の見解は違うし学説もいろいろある。それでも基本的には国家的法益に対する罪ですから、田渕検事が外形的にどういう取調べを行ったのかが第一義に重要。Kさんがそれをどう考えたかは極めて補助的でしかない」と話した。

 田渕検事の弁護人の森直也氏は「(取調べの)インパクトの強い一場面を切り取るのでは明らかにならない。刑法195条1項の暴行陵虐については、陵虐の意味を吟味して明らかにしなくてはいけない」と訴えた。そして「指定弁護士の言う『取調べの在り方を変えるきっかけ』というのは同意できるが、田渕検事を有罪にしなければ検察は変わらない、というわけではない。検察庁の問題なら、取調べの在り方、特捜を含めて制度的に変えるべきであり、田渕検事を有罪にするというのはトカゲのしっぽ切りでしかない」と強調した。

 さらに、森弁護士は「検面調書は怒鳴ったりしたときに作成したものではなく、その後にクールダウンがあって冷静な取調べになってから後日に作成されていることも大事な要素です」とも付け加えた。

 検察官が暴行や陵虐を認定されたケースは国賠訴訟ではあるが、特別公務員暴行陵虐罪が認定された刑事裁判はない。暴行を伴わないのに検事が特別公務員暴行陵虐罪に問われた裁判は初めてだ。弁護側はこの歴史からも「陵虐にあたるか、厳格に判断されるべきだ」と訴えている。

 今回は検事だが、同罪で警察官が問われた代表例として、2003年の統一地方選で鹿児島県警が選挙違反を捏造した志布志事件で起きた「踏み字事件」がある。県警の浜田隆広警部補が椅子に座らせた川畑幸夫さんの両足をつかんで孫らの名を書いた紙を無理やり踏ませるなどして虚偽供述を取ろうとした。浜田警部補の違法な取調べは「踏み字」にとどまらない。同警部補は、県警が「買収会合場所」とでっちあげた藤元いち子さんの自宅で、現場検証のため勝手に作った「再現場面」を、藤元さんを怒鳴りつけながら何度も練習させている。同警部補は2008年、特別公務員暴行陵虐罪で懲役10か月、執行猶予3年が確定した。

 森直也弁護士は「田渕さんの行為は志布志事件とはまったく違うもの」と話した。

 2007年に筆者は浜田警部補を鹿児島地裁の法廷で取材している。当選した中山信一県議や住民15人が逮捕・長期勾留された捏造事件は浜田警部補だけが刑事罰に処されたが、指揮した黒健治志布志署長と県警本部の磯部一信警部は何の刑事罰にも問われず退職した。警視庁公安部が捏造した大川原化工機事件も同じだが、本件においても、田渕検事一人を単に有罪にしても、検察の上層部の責任が問われなければ、冤罪は絶対になくならない(詳細は、拙著『警察の犯罪』〔WAC、2008年〕を参照)。

◎著者プロフィール
粟野仁雄(あわの・まさお) 
 1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部卒。共同通信記者を経て現職。著書に『サハリンに残されて』(三一書房)、『瓦礫の中の群像 阪神大震災』(東京経済)、『アスベスト禍』(集英社新書)、『「この人、痴漢!」と言われたら』(中公新書ラクレ)、『検察に殺される』(ベスト新書)、『ルポ 原発難民』(潮出版社)など多数。近著に『袴田巖と世界一の姉——冤罪・袴田事件をめぐる人びとの願い』(花伝社)、『狙われたトップメーカー——冤罪・大川原化工機事件の傷跡』(同社)。神戸市在住。

(2026年10月26日公開)


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