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湖東病院事件で、小冊子刊行/冤罪原因はどこにあったのか


中日新聞編集局編『殺ろしていません──無実の訴え12年 滋賀・呼吸器事件』(中日新聞社・2020年6月刊・A4判・74頁・定価800円+税。ISBN978-4-8062-0765-8 C0032)

 新聞紙上には、冤罪事件について、その原因を究明する記事がこれまでに多数掲載されている。そこでは、捜査や裁判過程での原因の指摘からはじまって当時の犯罪報道のあり方についても自戒を込めて書かれている。それらは後に単行本化されている。たとえば、免田事件の『完全版 検証・免田事件』や足利事件の『冤罪 足利事件──「らせんの真実」を追った400日』が知られている。

 この程、中日新聞社から、今年3月に無罪が確定した湖東病院事件について、その冤罪原因を追究した小冊子『殺ろしていません──無実の訴え12年 滋賀・呼吸器事件』が刊行された。

 中日新聞が2017年5月に連載を開始した「『調査報道『呼吸器事件』──司法の実態を告発し続ける連載『西山美香さんの手紙』」を中心にまとめたものである。この連載は、2019年、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞している。

 取材は、当時の大津支局の記者が、有罪が確定していた西山美香さんが獄中から両親にあてた無罪を訴える手紙を読んだことがきっかけで始まった。記者は、裁判記録から西山さんの不自然な「自白」に疑問をもった。

 しかし、記事にするまでに社内でたいへんな苦労があったことは想像にかたくない。

 担当記者は、その点について受賞時の記事の中でつぎのように触れている。「冤罪(えんざい)を強く疑っても、報道するには『確定判決』という高いハードルがある。……司法が有罪を維持する中で、中日新聞が『無実』を訴えるには、相応の根拠が必要となる」。

 取材に協力していた本社の編集委員が知り合いの精神科医に西山さんの手紙のコピーをみせたところ、その精神科医から「彼女はおそらく発達障害だが、それだけではない。軽度だが知的障害がある」との見解を得た。記者たちは、ここから「供述弱者が自白を誘導された冤罪の可能性」があるとの確信を強めた。

 以後取材を重ねて、連載は2019年2月まで40回にわたった。この小冊子は、事件関係者・元裁判官の証言や裁判記録に基づいて、西山さんはなぜ虚偽自白をしたのか、また裁判官はそれをなぜ見抜けなかったのか、湖東病院事件の全体像と冤罪原因を浮き彫りにする。

 冤罪事件はさまざまな顔をもっている。その一つひとつにあたって検討しなければ、冤罪原因を本当に究明したことにはならない。この小冊子は、「湖東病院事件」の冤罪原因を知るうえで貴重な文献となることは確実である。

(2020年07月16日公開) 


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