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「自白はすべて虚偽だった」/12年前に贈賄罪で罰金刑、88歳の元市長が再審請求


再審請求後に記者会見に臨む中谷良作・元天竜市長(2020年10月16日、静岡県浜松市、撮影/寺澤暢紘)

 2008年に贈賄罪で罰金70万円が確定した静岡県天竜市(現在は浜松市天竜区)の元市長、中谷良作氏(88歳)が10月16日、浜松簡裁に再審を請求した。孫の調査書を改ざんしてもらった見返りに高校の校長へ現金を渡した、との自白が唯一の証拠とされたが、「すべて虚偽だった」と主張している。

 中谷氏は、孫の大学への推薦入学にあたり便宜を図るよう県立天竜林業高(当時)の校長だった北川好伸氏(72歳)に依頼し、調査書の成績をかさ上げしてもらった謝礼として、市長退任後の2006年と2007年の2回、同高の校長室で10万円ずつ、計20万円を贈ったとされた。中谷氏は2008年9月に逮捕されたが、それ以前の任意の聴取と合わせ、略式起訴されるまで55日間にわたってほぼ連日の取調べを受けた。

逮捕後も否認と自白を何度も行き来していた

 再審請求にあたって新証拠の柱としたのは、取調べ状況を記載した8通の県警の捜査報告書と、それに基づく浜田寿美男・奈良女子大名誉教授(心理学)による供述の鑑定意見書だ。

 捜査報告書は、2015年に北川元校長の再審請求審で証拠開示された。それまで中谷氏が逮捕時に容疑を否認したことは弁解録取書で分かっていたが、調書は自白した内容だけで否認のものはなかった。しかし捜査報告書には、中谷氏が逮捕後も否認と自白とを何度も行き来しながら、追い詰められていく様子がつづられていた。

 浜田氏は鑑定意見書で「取調官によって供述証拠が取捨選択され、有罪方向への『編集』がなされた」「取調官がこうした『証拠なき確信』をもって容疑者に迫った時には、無実の容疑者が無実を繰り返し主張しても取調官は聞く耳を持たない」と指摘。中谷氏の自白は「『体験の記憶』とは言い難い内容に満ちて」いると断じたうえで、「(長期間の調べによる)取調官との人間関係に抱き込まれながら、何とか否認を貫こうとして、しかし最終的には略式起訴による罰金を選ぶ方向に落ちていった形跡がはっきり残されている」と分析し、「虚偽の自白と考えるのが妥当」と結論づけた。

 再審請求後の記者会見で中谷氏の弁護人の杉尾健太郎弁護士は、警察が自白だけを調書にして否認の事実を隠していたと批判し、「取調官が自白を誘導していたことが捜査報告書で分かる」と強調した。中谷氏は「汚名は消して人生を終わりたい。再審請求をぜひ成し遂げたい」と語った。

 一方の北川元校長は一貫して無罪を主張し、最高裁まで争った。しかし、中谷氏が一審の公判で「現金を渡した」と証言。調査書改ざんは校長の指示だったとする教員の証言もあり、2010年に加重収賄と虚偽有印公文書作成・同行使の罪で懲役2年6月執行猶予4年が確定した。

4年間も放置されたままの元校長の再審請求

 北川元校長は冤罪を訴えて2014年に再審請求。中谷氏は翌年、証人尋問に応じ、自身の自白や一審での証言が虚偽だったと新たに証言したが、静岡地裁浜松支部は「証言に一貫性がない」と判断して信用性を認めず、2016年に再審請求を棄却した。北川元校長は東京高裁に即時抗告したものの、4年経っても検察は意見書さえ出しておらず、裁判所も検察、弁護団との三者協議を開かずに審理は進んでいない。

 今回、中谷氏も再審請求したことで、贈収賄については当事者双方が改めて明確に事実関係を否定したことになる。中谷氏の主張が認められれば事件の構図が覆り、北川元校長の再審請求にも影響しそうだ。

(ライター・小石勝朗)

(2020年11月06日公開) 


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