『裁判員裁判の量刑II』


直ちに応用可能な着眼点が示されている

1 量刑事件の弁護方針についての模索

 裁判員裁判の量刑事件における弁護方針の立て方や法廷活動について、法曹三者間で議論が交わされるようになって久しい。各地の弁護士会でも模擬評議などの企画が実施され、研鑽が重ねられている。

 他方、量刑事件における評議の在り方や、量刑グラフの使用方法などについては、最近も重要な最高裁判決が出されている。裁判員裁判の量刑事件における弁護活動の在り方については、今後も活発な議論が交わされるであろうし、弁護人も、真に説得的な量刑事件の弁護方針とはどのようなものか、模索していかなければならない。

2 基礎と応用可能な着眼点の理解

 本書には、量刑事件における弁護活動の在り方をぐる議論の基礎を理解するために役立つだけでなく、個々の具体的な事件の弁護活動を検討するうえで、直ちに応用可能な着眼点が示されている。量刑事件に関する、最良にして最強の入門書である。

3 掲載論文の内容紹介

 第1章は3つの論文からなる。菅野亮弁護士、前田領弁護士、久保有希子弁護士らによる「司法研究に示された考え方」は、平成24年の司法研究「裁判員裁判における量刑評議の在り方について」において述べられている見解を紹介し、具体的な弁護活動においてどのような点に留意すべきかについて掘り下げて解説している。司法研究に示された見解は、実際の量刑評議でも前提とされており、裁判所の事実上の「公式見解」として機能している。読者は本論文を読むだけで、司法研究の骨子を理解し、量刑評議の進み方や、個々の量刑事情の扱われ方について、具体的なイメージができるだろう。

 宮村啓太弁護士の論文は、量刑事件に関する最重要判例のひとつである、最高裁平成26年7月24日判決を分析し、同判決を踏まえた弁護活動の課題を解説するものである。弁護方針を立てる際に必要な検討事項を、プロセスごとに解説しており、若手弁護士にもわかりやすい。

 坂根真也弁護士による「量刑事件における争点整理の在り方」は、これまであまり議論がなされてこなかった、量刑事件における公判前整理手続に関する論考であり、どのように争点を設定・整理し、かつどの程度まで公判前整理手続で整理しておくべきかについて有益な視点を提供するものである。

 とくに、量刑事件における公判審理・評議の特質に関する指摘は、著者の実務経験に裏打ちされた実践的なものであり、個々の事件で弁護方針を組み立て、予定主張記載書を作成する際にも応用がきく。

 これら3つの論文は、初めて裁判員裁判で量刑事件に取り組む読者にとっては必読である。

4 裁判員裁判対象罪名ごとの分析検討

 第2章は、殺人、強盗致傷、現住建造物等放火など、裁判員裁判対象罪名ごとに分析検討を加えたものである。検討対象となった罪名は7つであるが、多数の判決を引用しており、相当のボリュームがある。

 なお付属のDVDには、さらに豊富な判決文のデータが収録されており、罪名別に、量刑事情や実際の量刑が一覧表でまとめられている。

 本文では各罪名ごとに、社会的類型を分ける事情は何か、社会的類型の中で刑の幅を決めるにあたり重視される量刑事情はどのようなものか、一般情状の中ではどのような事情が重視されているかについて、実際の判決を言及し、詳細な検討を加えている。通読しても得るものは大きいが、実際に担当している事件の罪名に該当する部分を熟読するだけでも参考になるだろう。「このような事情で刑が軽くなることもあるのか」というような素朴な驚きとともに読み進めることができる。また大まかな量刑傾向や、相場観をつかむのにも有効である。

5 緊張感があり、読み応えのある座談会録

 第3章には現役裁判官、検察官、弁護士による座談会が収録されている。出席した弁護士は神山啓史弁護士である。本書で触れられた量刑評議の在り方やケースセオリーの在り方、公判前整理手続の在り方など、多くの話題について裁判官、検察官の本音が伺える。とくに冒頭陳述や被告人質問、弁論の在り方に関する議論は必読である。

 また、個々の訴訟活動の在り方について、法曹三者の意識は大筋において一致するものの、弁護人の思考と裁判官・検察官の対立点が所々に垣間見えるのが興味深い。緊張感があり、読み応えのある座談会録である。

赤木竜太郎(あかぎ・りゅうたろう/東京弁護士会)

〔季刊刑事弁護99号153頁より転載〕

(2019年11月19日公開) 


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