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4月23日、少年法改正改正案、参議院本会議で趣旨説明

新倉修 弁護士・青山学院大学名誉教授


各議員からの質問に答える菅義偉首相(4月23日、参議院本会議。参議院インターネット中継・ビデオライブラリより)

少年法改正国会を傍聴する(その3)
 参議院本会議(2021年4月23日)

 少年法改正案は、衆議院本会議(大島理森議長)で、4月20日に法務委員会の義家弘介委員長の委員会審議報告を受けて、ただちに採決に移り、起立多数で可決された。付帯決議では推知報道や資格制限の問題点を共有したはずだが、その内容は報告されず、原案通りの採決を求めるとの委員長の意見に従った。上川陽子法相が掲げた「誰一人取り残さない(No One Left Behind)」という薫り高い理念は、言及もされず、だまし絵のように闇に消えた。

 参議院本会議(山東昭子議長)では、4月23日に上川法相が趣旨説明を行い、磯﨑仁彦(自民)、真山勇一(立憲)、伊藤孝江(公明)、清水貴之(維新)、川合孝典(国民)、山添拓(共産)の各議員が質疑をした。

 4月16日にワシントンでジョー・バイデン米大統領との首脳会談をこなした菅義偉首相が、本会議に出席したので、少年法改正にも首相に質問が飛ぶことがあった。質問者はいずれも法務委員会の理事・委員であるが(以下では、理事に◎印、委員に〇印をそれぞれ付す)、法務委員会に参加している少数派(沖縄の風、碧水)に質問の割当てはなく、法務委員会に委員を出していない会派(希望の党、社会民主党、NHK受信料を支払わない方法を教える党、れいわ新選組)も発言の機会はない。

 法相の答弁は衆院法務委員会での質問を受けて補充されていた。他方、この問題で首相は初登場だが、同音異語を区別するための役所読みで「18・19歳の者」の「者」を「しゃ」と読む。「国民に 役所言葉(ふちょう)で話す 少年法」 ― 分かりやすさより「(役所的な)正確さ」重視なのか。

少年法改正案に趣旨説明があった参議院本会議(4月23日、衆議院インターネット中継・ビデオライブラリより)

 各議員の質問とそれに対する菅首相と上川法相の答弁は以下のとおりである。

 磯崎議員(◎)は、争点を進んで取り上げて、たくみに答弁を引き出した。首相には、少年法の位置付け、少年の在り方、資格制限の見直し、保護司制度の強化という「骨太な話題」を振り、法相には、原則逆送事件での家裁調査官の調査、18歳以上の少年の犯罪対策、推知報道の問題を振り分けた。

 真山議員(◎)は、提出理由と現行少年法の問題点の有無について確認する質問を首相に向け、人権にかかわる重大な課題であって国民の人生や生命にどう向き合うのかが問われていると締めくくった。首相は、民法の改正などの社会情勢の変化を上げ、18・19歳の者(しゃ)が発達途上であって、家裁の機能を全面的に活用する必要があるとし、現行法に問題があるから改正するわけではないと明言した。

 伊藤議員(◎)は、全件家裁送致原則の維持を評価する立場から首相の所信をただし、家裁の機能を最大限活用するためであって、少年の健全育成・非行防止に官民一体となった取組みを充実強化するという答弁を引き出した。また、就労促進は重要であり、府省庁を超えた総合的で福祉的な支援を充実し、資格制限問題処理のために調整するという言質をとった。また、法相からは、原則逆送事件における要保護性の調査・鑑別が重要という答弁を得たが、保護処分を検討する場合に考慮する「犯情の軽重」には、犯行の態様や被害の重大性のほかに、要保護性の程度も含まれるかとただしたのに対しては、消極的な回答でかわされた。

 清水議員(〇)は、少年法の適用年齢引下げ賛成の立場から、神戸児童殺傷事件の被害者遺族の土師守さんの言葉を引用して「18歳は大人として扱う」べきだと論難し、法案の資格制限や推知報道は弥縫的な措置にすぎないとし、犯罪抑止効果が少ないと切り込んだのに対して、首相は、改正法案は選挙権・民法の成年年齢とは趣旨が違い、民法の取扱いに応じた措置も講じているので齟齬はないとかわした。18歳以上を少年とするのは世界でも1割程度という指摘にも、各国の実情に合わせた固有の制度であって、比較は適当でないとし、また、犯罪被害者や遺族・家族の思いも真摯に受け止め、意見を取り入れたと答弁した。さらに、犯罪抑止効果も比較研究などの実証は困難だが、動向には注視するとした。

 川合議員(〇)は、改正法案が適用年齢引下げを回避したものの、「特定少年」に対して特例を設けることで法体系上の不整合・法運用上の混乱を引き起こすとして、主要な論点について趣旨をただし、かつ、外国では18歳以上の若年犯罪者にも矯正教育を実施する例があるとして、法相に再考を求めたが、首相への質問は特になかった。

 山添議員(〇)は、安倍首相時代に改憲を狙う思惑で少年法の年齢引下げを取り上げたと指摘したが、首相は、改憲との関係はないとして、にべもなく否定した。さらに、推知報道の一部解除に関連して、片山徒有さん(被害者と司法を考える会・代表)の声明を引用して迫ったが、法相からこれまで以上の回答はなかった。ほかにも、榛名女子学園の視察を披露したり、ベストセラーの宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)を引用したりして、特定少年にも「ぐ犯」規定やセイフティネットの必要を訴えたが、踏み込んだ答弁はなかった。

*5月6日から、参議院法務委員会で審議が始まった。

◎執筆者プロフィール
新倉修(にいくら・おさむ)
 1949年生まれ。早稲田大学法学部卒業。國學院大学教授を経て青山学院大学教授(2001年~2017年)。現在、弁護士(東京弁護士会所属)、青山学院大学名誉教授。主な著作に、『少年「犯罪」被害者と情報開示』(現代人文社、2001年)、『導入対話による刑法講義(総論)』(第2版、不磨書房、2003年)などがある。
*新倉先生の古稀を記念して論文集『国境を超える市民社会と刑事法』が編まれている。

(2021年05月06日公開) 


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