参議院:「てんこ盛りの附帯決議」で糊塗して、少年法改正案を短期審議で可決

新倉修 弁護士・青山学院大学名誉教授


少年法改正案を可決した参議院本会議(2021年5月21日、参議院インターネット中継・ビデオライブラリより)

少年法改正国会を傍聴する(その5)
 参議院法務委員会(2021年5月11・13・18・20日)・参議院本会議(5月21日)

 参議院(山東昭子議長)でも、とうとう実質わずか10時間程度の委員会審議の末に、少年法改正案が起立採決された。反対の討論に立った山添拓議員(共産)は、川村百合弁護士(法務委員会参考人、連載第4回)の発言に触れ、さらに元少年院長・八田次郎氏と5月6日に亡くなった元家裁調査官・伊藤由紀夫氏の言葉を引用した。これは、いずれも『18・19歳非行少年は、厳罰化で立ち直るのか』(現代人文社)に発表された抗議の声であった。私は、親しい友人を亡くした喪失感とともに、『東京少年友の会会報』に掲げられたモットー「家庭に平和を、少年に希望を」までも失われることがあってはならないと思った。

 法務委員会(山本香苗委員長)での審議は、5月6日の参考人質疑に続いて、5月11・13・18・20日の4日間約12時間にわたったが、そのかなりの部分が、入菅法案に関連して名古屋入管でのスリランカ女性の死亡事件をめぐる質疑に費やされた。もちろん、これ自体重要案件であるから、別途日程を組む価値はある。ところが、国会の力関係のせいで変則的な運営が黙認され、少年法改正案の問題点を追及する勢いが分散されてしまった。

 見どころとして挙げておきたいことは、森まさこ議員(自民)の剛柔取り混ぜた質問、伊藤孝江議員(公明)の法案の問題点ごとの丁寧なフォローアップ質問、清水貴之議員(維新)の法制審議会の公平公正さをめぐる追及、山添拓議員(共産)と髙良鉄美議員(沖縄)のポイントをそらさせない追及、嘉田由紀子議員(碧水)の(滋賀県知事の経験を踏まえた)しなやかな反対論である。

参議院法務委員会で、挙手多数と認められ可決された少年法改正案(2021年5月20日、参議院インターネット中継・ビデオライブラリより)

 まず、森議員(前法務大臣)は、日産の役員報酬をめぐる報告書不記載容疑に関して逮捕勾留されたカルロス・ゴーン側が、日本の刑事司法に対して批判をし、これに反論した自らの経験を引いて、取調べに弁護人の立会いがない点は批判をかわし切れないと判断。このため法務・検察行政刷新会議を立ち上げたことを披露した上で、刑事局長答弁の問題点を追及した(勇気ある決断!)。さらに少年法改正案との関係では、特定少年に対する刑事処分が増えれば、当然、取調べに当たって弁護人の付添(立会い)が重要になると、鋭く指摘した。

 清水議員は、法制審議会令(昭和24年政令134号)を引いて、委員は「学識経験のある者」(有識者)から法務大臣が任命するとあるのに、「一定のポストにある官僚」が有識者に含まれるのかと問い詰める。少年法・刑事法部会では委員・幹事の半数が府省庁の官僚であるのは、審議内容の公正さにも影を落とすと批判する。これに呼応して、嘉田議員も、法制審議会の家族法制部会(第1回2021年3月30日)にも言及し、議論を盛り上げた。仮に政府の役職者(官僚)が委員としての「学識経験」にかなうとしても、立法政策には関与しないと公言する最高裁家庭局長にその資格や役割を期待できるかは大いに疑問がある。

 真山勇一議員(立憲)は、資格制限の対象範囲や内容への質問に対し、刑事局長が「対象範囲が広い」として答弁しなかった点をなじり、資格制限一覧表の提出を求めた。これをフォローするかのように、伊藤孝江議員(公明)は、今後、資格制限の検討が府省庁関係会議で検討される場合にも、犯罪対策閣僚会議の「再犯防止推進計画」(2017年12月15日閣議決定)に基づいて進められることを確認した上で、協力雇用主の把握などの現状を問いただした。河合孝典議員(国民)も共通の関心を示した。これは附帯決議への布石であろう。

 ほかにも、伊藤議員は、原則逆送事件での家裁調査官の調査や鑑別所の心身鑑別の丁寧な実施を求めた。また、保護処分の決定に当たって犯情の軽重を考慮する場合、その期間をどう定めるのかと家庭局長にただしたが、明確な回答は相変わらずなかった。おそらく少年院収容が3年を条件とするのは、少年院法の収容者の年齢制限に合わせたのであろうが、どんなに犯情が重くても3年が上限であるなら、法定刑との関係が問われることになろう。

 少数会派は本会議で発言の機会がない。そこで、法務委員会で髙良鉄美議員(沖縄)は、伊藤由紀夫氏のインタビュー記事(朝日新聞・大久保真紀編集委員)や清永聡『家庭裁判所物語』(日本評論社、2018年)にある宇田川潤四郎初代家庭局長の発言を引用して、家裁の役割をただした。また、川村百合参考人や大山一誠参考人の発言を引いて、内省を深める少年院での矯正教育のメリットを挙げ、保護処分の決定に当たって犯情の軽重を持ち込むことの非を唱えた。憲法25条(生存権)・26条(教育を受ける権利)に関わる少年法の理念は、憲法31条以下に規律する刑事保障の原理とは異なると指摘し、保護主義の形骸化・変質を警告した。また、推知報道禁止の問題は、少年やその家族のプライバシーの保護とメディアの報道の自由との関係であって、国家による人権制約の問題とは異次元であり、人権相互間の調整として考えるべきだと指摘した。嘉田議員(碧水)も、立法事実が脆弱であること、社会的課題として少年の立直り・育ち直しへの国家の支援を損なうこと、推知報道の解禁が少年の更生に不当な妨げとなることをあげて、反対の討論をした。

 5月20日、法務委員会では挙手採決で多数と認められた。その後、真山議員は、自民・立憲・公明・国民・碧水の共同提案による「附帯決議案」を読み上げ、多数をもって採択された(画面では委員長および清水議員を除く出席議員全員と確認できた)。

 参議院本会議(山東昭子議長)は、5月21日(金)午前10時1分から開会され、正午過ぎから少年法改正案について審議採決が行われた。まず、山本香苗法務委員長の審議報告につづいて、野党3党からそれぞれ反対討論があった。全体で30分程度の審議であった。

参議院法務委員会で、附帯決議を提案する真山勇一議員(2021年5月20日、参議院インターネット中継・ビデオライブラリより)

 真山勇一議員(立憲)は、①立法事実はないこと、②弊害があることを理由にあげて反対した。まず①について、犯罪の実情をみれば、少年法が有効に機能していることは法務大臣も認めている。可塑性を認め、脳科学の知見を尊重する立場から少年であるとして全件家裁送致としたことは評価できるが、他方、成人と同じように処罰するのは、保護司を10数年続けてきた経験からすると、馬鹿にされている気がする。また、飲酒・たばこ・ギャンブルについては自律性を否定して禁止するのにも関わらず、犯罪については自律性を強調することの整合性が問題であるとし、成人年齢の引下げなどの社会状況の変化と少年法改正との関係が不明であると批判した。

 つぎに②弊害として、原則逆送を大幅に拡大すること、保護処分の決定に当たって「犯情の軽重」を考慮することが求められ、要保護性に応じたきめ細かな処置ができなくなり、保護主義を後退させ、その根幹を台無しにすると指摘する。さらに、推知報道の一部解禁には、合理的な理由が不明であり、むしろ被害者側の報道の抑制や救済を検討するべきという。また、ぐ犯の場合に少年院収容はセイフティネットの役割があるという主張に耳を傾けてほしいと要望し、具体的な代替策がないのは、乱暴で無慈悲だと決めつけた。同時に、不定期刑が除外されるので、年長少年も30年の長期刑を科せられる可能性があり、これによって社会復帰が困難になるという懸念を示した。さらに、資格制限の特例が適用されないと、将来の選択肢が狭められること、資格制度のケースについて厳密な検討がないのは、怠慢と厳しく指摘した。これらが、(上川法相が揚言する)「誰一人取り残さない」という姿勢を傷つけ、犯罪少年の立直りや更生を大きく後退させると懸念を述べた。

 清水貴之議員(維新)は、「特定少年」を少年法の適用対象とするのは、いびつでゆがんだ規定であると指摘し、大人としての責任を問う明確なメッセージが欠けているとする。さらに武るり子(衆議院法務委員会)参考人の発言を引用し、被害者の視点が欠けていると指摘した上で、この法案では、18・19歳の「少年」が自分の責任を自覚し、罪に向き合うことが欠けていることを改めて問題視した。

 また法案の作成過程のうち、法制審議会の審議過程についても取り上げ、平成11(1999)年の閣議決定にもかかわらず、法制審議会や少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会では府省庁の関係者が委員・幹事となり、構成が偏っていて、民意を反映しているのか、疑問があると指摘した。なお推知報道の解禁については、条文の規定ぶりが昭和23年制定当時のままで、新聞や出版など限られたメディア環境を前提としているので、インターネット規制や罰則など、時代に即した検討が必要であることを求めた。

 山添拓議員(共産)は、「特定少年」の刑罰化は、少年法の適用を実質的に排除するとして、現行少年法が有効に機能していることは法相も認めていると述べ、立法事実のないことを問題視する。その根拠として、橋爪隆参考人の発言を引き、法案が理論的な整合性よりも政策判断によることが問題だと指摘した。とりわけ、発達障害や虐待経験をもつ犯罪少年が数多くいるという実態を無視していることをあげて、改正の正当性を論難した。

 また、改正案には数々の歪みがあると指摘した。原則逆送対象事件を大幅に拡大したが、法定刑の重さを基準に一律に処分を決めるのは少年法の基本原則に反する。川村百合参考人が指摘するように、保護処分の決定でも「犯情の軽重」という刑事処分の考え方が取り入れられ、家裁調査官による要保護性の調査や鑑別所での心身鑑別が形骸化する。また、元小田原少年院長の八田次郎氏が指摘するように、ぐ犯はセイフティネットの役割があり、矯正教育が法的な拘束力を背景にするので効果があり、改正案は立直りを求める少年に対して冷たいとする。そもそも本改正案は被害者の権利保護を強めるものでもない。大山一誠参考人の育ち直りの経験談を引用し、改正案は、成長発達の場を奪い、健全育成を大きくゆがめると論難した。5月6日に亡くなった元家裁調査官の伊藤由紀夫氏は、刑事処分優先・保護処分の可能性を狭めているとして、保護処分の実態を見ていないことや健全育成を考えていないことを悲しむと指摘している。むしろ、家裁調査官の増員で社会調査を充実させるなど、体制整備が求められていると結んだ。

 起立採決で法案は採択されたが、残された宿題は大きく、重い。少年法「改正」に反対する市民の会は、本会議の採決直前に、呼掛け人25名、賛同者341名をもって〈「少年法等の一部を改正する法律案」可決・成立に抗議する緊急声明〉を発表した。今後は、施行の延期を求めるとか、施行に際して検討されるはずの「少年審判規則」の見直しについて最高裁判所に要望ないしは請願を行うとか、衆参両院の法務委員会でそれぞれ採択された附帯決議のうち、良質な部分の履行を監視・促進するとか、さまざまな活動を展開することが想定しうる。

 いずれにしても、問題のある改正法の運用をチェックし、幅広いネットワークをつくる必要があろう。とりわけ、推知報道の一部解除の問題については、関係機関における事件広報は注意するが、メディアによる事件報道は報道の自由の問題としてメディアの自主的な判断に委ねられるという二重基準が半ば公然と語られる。そういう中で、SNSによる誹謗や中傷を防止し、少年法の本来の趣旨に合致する「プライバシーの保護」や「忘れられる権利の承認」に向けて取り組む必要がある。これは被害・加害の関係を超えて、少年事件被害者やその関係者にも及ぶ問題であり、いわば「共益的正義(Communal Justice for Mutual Prosperity)」に関わる共通の利害問題と言わなければならない。言い換えれば、少年法の問題は、「修復的正義(Restorative Justice)」に広く深く関わるのである。ここに、上川陽子法務大臣が京都コングレスで強調した「誰一人取り残さない(No One Left Behind)」理念の実現が強く期待されることは、言うまでもない。

*本連載は、今回をもって終了します。

◎執筆者プロフィール
新倉修(にいくら・おさむ)
 1949年生まれ。早稲田大学法学部卒業。國學院大学教授を経て青山学院大学教授(2001年~2017年)。現在、弁護士(東京弁護士会所属)、青山学院大学名誉教授。主な著作に、『少年「犯罪」被害者と情報開示』(現代人文社、2001年)、『導入対話による刑法講義(総論)』(第2版、不磨書房、2003年)などがある。
*新倉先生の古稀を記念して論文集『国境を超える市民社会と刑事法』が編まれている。

(2021年05月28日公開)


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