「和歌山毒物カレー事件」のウェブサイトが始動/3D画像で現場を再現、目撃証言を検証

小石勝朗 ライター


サイトでは和歌山毒物カレー事件が発生した当日の動きを画像でたどる(ⓒ98 Retrial)

 和歌山毒物カレー事件(1998年)について多角的な情報提供を目指すウェブサイトが始動した。この事件で殺人罪などに問われ死刑が確定した林眞須美氏(64歳)は無実を訴え再審(裁判のやり直し)を請求しており、死刑判決の拠り所となった証拠には疑問が浮上している。サイトでは当時なかった技術を駆使して現場の様子を3D画像で立体的に再現し、目撃証言を改めて検証した。今後、内容を充実させて再審請求審の証拠にすることも視野に入れている。

クラウドファンディングで目標を超える支援

 1998年7月、和歌山市園部地区の夏祭りで提供されたカレーを食べた住民ら67人が急性ヒ素中毒になり、うち4人が死亡した。カレーを調理していた鍋にヒ素を入れたなどとして林氏が殺人と殺人未遂、詐欺罪に問われ、2009年に最高裁で死刑判決が確定した。

 しかし、死刑判決の根拠とされた目撃証言が曖昧なことやヒ素の科学鑑定の信頼性が大きく揺らいでいることが取り沙汰されており((河合潤『和歌山カレーヒ素事件 判決に見る裁判官の不正』〔現代人文社、2024年)参照)、林氏の再審請求審(第3次)が和歌山地裁で続いている。

 ウェブサイトの開設は、林氏の長男と、この事件をテーマにしたドキュメンタリー映画『マミー』を2024年夏に公開した二村真弘監督が計画した。林氏の「悪人イメージ」を増幅させた当時の偏向報道の影響が今も残る中、事実に基づく情報を継続的に共有する場にしたいと、昨年6~8月にクラウドファンディングを実施。290人から当初の目標(350万円)を超える454万5,000円の支援を得て制作を進めていた。「98 Retrial(リトライアル)」と名づけた団体を結成し運営に当たっている。

レーザー光で現地を測量、独自コンテンツに

 ウェブサイトは「1998、夏の記憶 和歌山毒物カレー事件・事実再検証プロジェクト」をうたう。

 「あの夏、本当は何が起きていたのか。残された記録や記憶、新たに見えてきた断片を手がかりに、私たちは、事件の輪郭をもう一度たどる」。冒頭にこう記し、「判決文、公開資料、そして取材によって得た情報をもとに事件全体を多角的に検証すること」を目的に掲げた。

 メーンは、コンピューターグラフィックス(CG)を活用して事件現場を再現した独自コンテンツだ。特に、カレー鍋が調理されていたガレージの向かいの家の2階から「林氏が鍋のふたを開けるのを見た」と証言した住民の目撃の検証に注力した。

 レーザー光を使って距離や角度を測り、対象物や空間の形状を立体的に描き出す「3Dレーザースキャン」の技術を使い、新たに現地で測量した。そのデータをもとにサイトにアップした現場の画像は、360度あらゆる角度から確認でき、特定の箇所を拡大したり全体を俯瞰したりすることも可能だ。

取材で判明した関係者の新証言も

 サイトでは、事件当日の朝からの林氏や家族、カレーの調理にかかわった住民らの動きが分かるように、時系列に画像を構成した。それぞれの場面について、判決で認定された関係者の証言などを文章でリンクさせ、現場の状況を浮き彫りにしている。二村氏らの取材で判明した関係者の新証言も採り入れた。

 焦点になっている目撃証言の検証は、その中に盛り込んだ。3Dレーザースキャンによる測量データに当時の図面や映像、写真を組み合わせて現場にあった樹木の再現を試み、2階の部屋からカレー鍋がどう見えたかを画像で示している。問題点を解説する動画も添えた。

向かいの家の2階からカレー鍋の目撃が可能かどうか検証した(ⓒ98 Retrial)

 さらに、林氏に死刑を言い渡した1審・和歌山地裁の判決文(2002年)のうち、サイトの内容と密接にかかわる部分を匿名化して掲載した。

最新技術で他の証拠の検証も計画

 今後は、1審・判決文の全文をアップする予定だ。AI(人工知能)を活用し、膨大な裁判記録から必要な箇所を迅速に検索・抽出できるような仕組みの整備を検討している。

 また、林氏が事件当日、ヒ素を入れてカレー鍋へ運んだとされる「紙コップ」についても、最新のテクノロジーを使って実像を検証するコンテンツを計画しているという。サイトを通じて、事件当時の情報も求めていく。

 二村氏はサイト開設にあたり「裁判記録や取材した内容を踏まえて、いかに『情報の整理と可視化』をするかに最も苦労した。一方的に情報を提示する場ではなく、サイト内のコンテンツに触れて検証を『体験』していただき、関心を持つ方々に事件をより多角的に理解してもらいたい。コンテンツを充実させることで、社会的な認知が広がっていくよう期待している」とコメントした。

 ウェブサイト https://98retrial.com/

◎著者プロフィール
小石勝朗(こいし・かつろう) 
 朝日新聞などの記者として24年間、各地で勤務した後、2011年からフリーライター。冤罪、憲法、原発、地域発電、子育て支援、地方自治などの社会問題を中心に幅広く取材し、雑誌やウェブに執筆している 。主な著作に『袴田事件 これでも死刑なのか』(現代人文社、2018年)、『地域エネルギー発電所──事業化の最前線』(共著、現代人文社、2013年)などがある。


【編集部からのお知らせ】

 本サイトで連載している小石勝朗さんが、2024年10月20日に、『袴田事件 死刑から無罪へ——58年の苦闘に決着をつけた再審』(現代人文社)を出版した。9月26日の再審無罪判決まで審理を丁寧に追って、袴田再審の争点と結論が完全収録されている。

(2026年01月13日公開)


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