
大麻取締法違反の無罪が争われている柴﨑大麻裁判は、2025年5月13日、さいたま地方裁判所熊谷支部第401号法廷にて、第3回公判(裁判長:菱田泰信)を迎えた。今回は、被告人である柴﨑和哉さんの被告人質問が行われた。
例外的に認められた意見書の朗読
弁護人である丸井英弘弁護士は、第3回公判に向けて、大麻によって奪われるあるいはもたらされる「健康」の意味を問う書籍などを、新たに証拠調べ請求していた。加えて、今回の公判の冒頭でも、情状証拠の取調べ請求を行った。柴﨑さんが経営する店の、スタッフによる意見書等である。
しかしながら、検察官はいずれも不同意、意見書等については形式的な不備も指摘した。裁判官の判断も、前回に引き続いていずれの証拠も請求却下であった。弁護側請求証拠はないため、被告人質問で、柴﨑さん自身がすべての主張を行わなければならなくなった。
続いて始まった被告人質問にて、丸井弁護士は、柴﨑さんの人柄を示そうと試みた。柴﨑さんは、自身が経営する店で、飲食物の提供や物販を行っている。地元の食材を用いたり、顔の見える友人や知人が手作りした物を販売するなど、これまでの縁や信頼関係を大切にした店舗運営をしているという。
そのほかに、柴﨑さんが様々なかたちで大麻と関わってきたことも明らかにした。店舗が神社の付近にあることから、柴﨑さんは神道にも関連するイベントを定期的に開催している。
また、大麻の種から採取した油を燃料として活用したヘンプカーで、日本を縦断した経験もあるようだ。加えて、大麻を「生命の木」「聖なる植物」と捉える、ラスタファリなどのジャマイカの文化に親しんだこともあるという(ジャマイカの大麻規制については園田寿名誉教授による記事に詳しい)。
最後に、丸井弁護士が柴﨑さんの店の様子を写した写真の提出を訴えたところ、裁判官の許可を得ることができた。そして、これを機に柴﨑さんは、一度は請求却下された証拠(スタッフの意見書等)を、形式を整えたうえでもう一度証拠調べ請求したいと主張した。
これをうけて裁判官は、当該意見書等を証拠としては認めないものの、被告人による朗読と公判調書への添付は認める、という例外的な判断を下したのである。柴﨑さんは、当該意見書等を力強く朗読した。親しみやすく思いやりのある人柄や、スタッフらから慕われていることが伝わってきた。
さらに特筆すべきは、次回公判の日程調整の際、裁判官が被告・弁護側に、情状証拠の追加についてしきりに尋ねてきたことである。写真の提出を契機とした情状証拠の朗読が、すべての弁護側請求証拠を却下していた裁判官の態度を変化させたのかもしれない。
葛藤する被告人
他方で検察官からも、鋭い質問が行われた。まず、検察側が「大麻」であると主張する葉片を手に入れた時期や相手、管理方法、使用場所や使用量などが詳細に問われた。そして、法廷での証言と供述調書の整合性を追及する質問が続いた。
さらに、前回の裁判と今回の裁判での、柴﨑さんの態度の変化に注目した質問がなされた。
柴﨑さんは冒頭意見陳述にて「前回の裁判(大麻取締法違反、有罪・懲役8月執行猶予3年)では、本心ではないところもあった」と述べた。前回は「大麻やその他の薬物に手を出さない」と誓ったが、今回の事件に関する弁護相談をするなかで大麻について勉強し、考えが変化したのだという(変化後の考えについては、第1回公判の冒頭意見陳述を参照)。
これに対して検察官は、実刑判決になってしまうと考えたことはなかったか、前回の誓い(今後大麻に手を出さない)を破ったが今回はどうか、と問うた。柴﨑さんは、前者について考えたことはあると答え、後者についても、手を出さない誓いを破らない旨を述べた。
柴﨑さんにとって、このような証言は苦渋の決断であろう。自らの体験や学びをふまえた大麻取締りへの疑念と、目の前に迫る重大な不利益(実刑判決)との間で葛藤する被告人の姿であった。大麻裁判(取締りの根拠法そのものに疑問を持つこと、さらにはそれを自らの裁判で主張し続けること)の険しさが表れていたと思う。
大麻事件の各法廷で積極的に争ってほしい

今回の公判を振り返って、柴﨑さんは「(弁護側請求)証拠はすべて却下だったが、裁判官が私の思いを汲み取ってくれて、店舗スタッフの言葉(意見書等)を読めたので良かった」と述べた。加えて、「大麻が良い悪いというより、どのような関わり方をするかが大事である」と主張した。
丸井弁護士も、「裁判官の異例の対応で、公判調書には意見書等を添付すると言っていたので、実質的に情状証拠の提出は成功」とした。そして、「各弁護士が行動を起こすことで、大麻の取締りやその裁判の運用は変化していくので、国選事件も含め、大麻事件の各法廷で大麻取締りの違憲性を積極的に争ってほしい」と、展望を述べた。
今回の公判では、柴﨑さんの人柄やこれまでの活動が、具体的事項を伴って明らかにされた。スタッフに慕われながら飲食店経営やイベント開催をする被告人が、休息のために大麻を所持し使っていたとして、一体どのような「被害」が生じたのであろうか。
柴﨑大麻裁判の今後の予定は以下のとおり。2025年6月10日(火)13:30〜14:30論告、9月9日(火)13:30〜15:00弁論。いずれもさいたま地裁熊谷支部にて行われる。
大麻草については、長吉秀夫『あたらしい大麻入門』(幻冬舎、2025年)が詳しい。大麻政策については、石塚伸一ほか編『大麻使用は犯罪か?——大麻政策とダイバーシティ』(現代人文社、2022年)、大麻規制の歴史については連載・大麻使用を新たに罰する改正法の仕組みと問題点(全3回)が参考になる。
(2025年06月03日公開)