大川原化工機事件/遺族が、警察庁長官、警視総監、検事総長あてに、事件の検証と謝罪に関する要望書を提出


「大川原化工機」を巡る冤罪(えんざい)事件で、同席しなかった同社の元顧問相嶋静夫さんの遺族からの要望書を警視庁の鎌田徹郎副総監(中央)に手渡す代理人の髙田剛弁護士。左は東京地検の森博英公安部長=6月20日、横浜市都筑区(時事通信提供)。

 6月20日、大川原化工機事件で、警察と検察の捜査について違法性を認めた東京高裁の判決(5月28日)が確定したことを受け、警視庁の鎌田徹郎副総監と東京地検の森博英公安部長が、横浜市にある同社を訪れ、冤罪被害者である大川原正明社長や元取締役の島田順司さんに謝罪した。

 大川原社長らは、謝罪面談を終えたあと会見を開き、第三者を入れた事件の検証や取調べの改善を求めた。

 この事件では、大川原社長、島田さん、相嶋静夫(同社顧問)さんは約11カ月に及ぶ勾留を余儀なくされた(詳しくは、趙誠峰「大川原化工機事件・人質司法の記録」季刊刑事弁護116号〔2023年〕参照)。その一人で、勾留中にがんが見つかり72歳で亡くなった相嶋さんの遺族は、謝罪の場には出席しなかった。代理人を通じて、今の思いを明らかにした。「何が真実だったかの説明すらなされないまま、謝罪を受けることはできない」。そして、楠芳伸警察庁長官、迫田裕治警視総監、畝本直美検事総長あてに、「大川原化工機冤罪事件にかかる検証・謝罪に関する要望書」を提出した。

 要望書では、謝罪すべき時期は2021年7月に起訴を取消したときで、なぜこれまでの4年間謝罪がなかったのか、と疑問を投げかけている。

 国賠裁判では、起訴した塚部貴子検事が「間違ったと思っていないので謝罪はない」と発言。また、同裁判の二審で、相嶋さんの取調べを担当した松本警部補が、相嶋さんや遺族に対する謝罪はないのかの問いかけに対して「謝罪はない」と回答。さらに、警視庁は二審の最終準備書面で、大川原社長ら原告の主張を「(内部告発者である)一部の捜査員らの臆測や思い込みによる筋書きを借用したにすぎない」と表現。このような行為によって、警察と検察は繰り返し相嶋さんの尊厳を踏みにじってきた、と厳しく批判した。

 要望書はさらに、事件の検証チームに警察、検察関係者との利害関係をもたない第三者を入れ、以下の4点について検証を行い、その結果の報告を求めている。その上で、検証により明らかになる事実を説明し、謝罪は「心労、負担」に対してではなく、291回もの任意取調べや噴霧乾燥器の性能・機能の説明など捜査に協力したにも関わらず、さらには犯罪の構成要件を満たしていないことを知りながら相嶋さん、大川原社長、島田さんを身体拘束したことに対するものでなければならない、とした。

① 相嶋さんが噴霧乾燥器の最低温度箇所を指摘していたにも関わらず、なぜ再実験しなかったのか。そして、松本警部補がなぜ「亡相嶋静夫はそのような指摘をしていなかった」と虚偽と思われる証言を行ったのか。
② 相嶋さんが最低温度箇所を指摘したことについて報告を受けた宮園勇人第五係長が「被疑者の言い訳だ」と言って再実験を指示しなかったのは事実であるのか。
③ 相嶋さんが2020(令和2)年9月25日に重度の貧血となったにも関わらず、加藤和宏検事が保釈に反対したのはなぜか。そして罪証隠滅を行う相当な理由とは何であったのか。
④ 迫田警視総監は2020(令和2)年8月から2022(令和4)年8月まで警視庁公安部長、警察庁外事情報部長に在任したが、その間に実施された検証アンケートを廃棄した経緯、理由は何だったのか。

 要望書は最後に、検証において違法行為が確認された場合は、犯行を行った者に対して厳正な刑事処分を行うこと、検証チームによる検証報告後、相嶋さんに対する取調べを行った松本吉博警部補、友田綾子巡査部長および2020年3月11日に家宅捜索を行った5名の警察官は相嶋さんとその遺族に対して謝罪を行うことを、訴えている。

 国賠訴訟の代理人の髙田剛弁護士は、謝罪と要望書について、つぎのように語った。

「国賠訴訟の二審判決につき、東京都及び国は上告を断念し、謝罪の意を示しました。しかし、謝罪の対象は、原告側の『心労』や『負担』であり、客観的証拠により明らかになった数々の事実や、裁判所の認定した具体的な事実に対する謝罪ではありません。

 警視庁は事件の捏造を認めたわけではありませんし、東京地検は、塚部検事が相嶋さんの逮捕を半年も前から決めていた事実を認めた上でこれに対して謝罪をしたわけではないのです。

 相嶋さんの遺族は、警視庁及び最高検が、冤罪を惹き起こした具体的な事実を検証により詳らかにし、その事実について謝罪を求めています」。

 そして、第三者を入れた事件の検証の必要性について強調した。

 「警視庁や最高検は現時点で、それぞれ組織内部の職員により検証を行うものとしています。しかし、警視庁及び検察庁は、3年以上にわたる国賠訴訟において主張、立証を行う中で、関係書類の分析や関係者からの聴取により事実確認を行ってきたはずです。事実確認の上で違法な事実はないと主張し、警視庁に至っては内部告発者ともいうべき3人の警部補の証言を『壮大な虚構』と中傷したのです。このような組織が再び内部で行う検証に、公正さは担保されるのでしょうか。

 そのような組織が内部で行う検証に、職員が真実を語るでしょうか。

 私は、検証の結果への信頼を得るためにも、また、実効性のある検証を進めるためにも、第三者の主体的な関与は不可欠と考えます」。

(2025年06月26日公開)


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