
刑事法研究者が4月6日、再審法改正をめぐり、「迅速・確実な無辜の救済のための再審法改正を求める刑事法学者の緊急声明」を公表し、記者会見した。
今年2月12日に法制審議会は、再審法改正に関する「諮問第129号に対する答申」を法務大臣に提出した。声明は、この答申に対して、その問題点を指摘し、「再審法改正に求められているのは、迅速・確実に誤判を発見・是正し、無辜を救済するという目的のために再審を十全に機能させることである。……要綱(骨子)は、本来の目的を見失い、再審の機能を低下させる危険さえはらんでいる」と厳しく批判する。
同声明は、指宿信(成城大学教授)、葛野尋之(青山学院大学教授)、新屋達之(元福岡大学教授)、松宮孝明(立命館大学特任教授)らが呼びかけ人となって、4月6日までに142人の刑事法研究者から賛同をえている。
声明では、特に以下の3点について、法制審議会―刑事法(再審関係)部会での審議内容と答申の要綱(骨子)を分析し、その問題点を指摘して、あるべき再審法改正の方向を示す。①調査手続、②証拠の提出命令、③提案されなかった再審開始決定に対する検察官不服申立ての禁止。
調査手続
調査手続は、再審請求の審理を開始するかどうかを審理の前段階で振り分けるものである。声明は、要綱(骨子)が「裁判所が『再審の請求の理由がないことが明らかであると認めるとき』は、請求棄却の決定をしなければならない」としているが、どのような場合を示しているのか明らかでないと指摘する。そして、棄却される請求の中に、「裁判所が再審請求の理由の有無を判断するために審理を尽くしたならば、再審開始の決定に至るような事案も含まれる」おそれがあるので、同手続を新設すべきでないとする。
証拠開示(証拠の提出命令)
証拠の提出命令は、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が策定し昨年提出した議連案(衆第61号)でも再審法改正の重要な柱とされている。
声明は、袴田事件など再審開始・再審無罪が確定した多くの事件において、「裁判所の命令・勧告に応じて検察官が開示した証拠が決定的な役割を果たしてきた。他方、裁判所のなかには、請求人・弁護人が強く求めたときでも、開示の命令・勧告に消極的な姿勢をとり続けてきたものもあった」と、これまでの証拠開示の経緯を明らかにする。
要綱(骨子)は、再審の請求審理手続に入った後、裁判所が、検察官の意見を聴いたうえで、「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠について、その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるとき」に、裁判所が請求人・弁護人の請求または職権で、検察官に証拠の提出を命じなければならないとしている。この点については、現在の実務を進展させるとの見方もあるが、つぎのように、証拠開示の範囲を狭めたり、十分に機能しない重大な問題があると指摘している。
① 請求人・弁護人に対する直接開示でなく、裁判所への「提出」としたこと。
② 提出命令の対象を「再審の請求の理由に関連する」証拠に限定したこと。
③ 裁判所は、証拠提出命令決定の判断のために、検察官に証拠または一覧表の提示を命じることができるが、提示された証拠・一覧表を弁護人に閲覧・謄写さないこと。
④ 提出された証拠の目的外使用を一律に禁止し、その違反に対して刑罰を科すこと。
そして、声明は以下の点を強く提案する。①開示の必要性は、請求人が新規性・明白性のある証拠をあらためて提出し、再審請求の理由を修正・追加するために開示を受ける必要性という視点から判断されるべきであること、②裁判所が審理の過程で、再審請求の理由の有無を判断するために必要と認めた証拠の提出ないし開示を命じる手続も設けるべきであること。
さらに、声明は、証拠の目的外使用の一律禁止は、研究、報道などに支障を生じさせるだけでなく、過去の再審無罪事件で支援者の協力が大きな役割を果たしたことから迅速・確実な無辜の救済が遠のくおそれがあると警鐘を鳴らす。
検察官の不服申立ての禁止
再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止についても、議連案だけでなく市民団体や弁護士会が強く要求してきたものである。しかし、要綱(骨子)では、検察官の不服申立ての禁止は提案されなかった。「答申」の「附帯事項」で、「再審開始決定に対する不服申立については、検察官において、もとより結論ありきではなく、慎重かつ十分な検討を確実に行った上で適切な対応がなされることが望まれる」とするにとどまっている。
声明は、再審開始決定の性格は終局判断でなく再審公判を開始するという中間的決定であり、開始決定確定後の再審公判で、開始決定に誤りがあったとしても、検察官はその是正を求めることが可能であり、開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止しても、刑事司法に対する信頼が損なわれることはないと、法制審部会での議論を批判する。
さらに、過去の実例では、再審開始決定の確定が検察官の不服申立てによって大幅に遅延し、迅速な無辜の救済が実現しなかったとして、再審開始決定に対する検察官の不服申立ては禁止すべきである、と提案する。
声明は、最後に「誤判はたんに観念的な可能性としではなく、現実的な実体として存在する。それは、雪冤を果たした過去の誤判事件の数々が示すところであり、これらの事件にみられた誤判原因は、いまも残存している。誤判は、最大の人権侵害のひとつであり、このうえない不正義である。誤判を完全に回避することができない以上、迅速・確実に誤判を発見・是正し、無辜を救済するために、再審が十全に機能するようにしなければならない。このときにこそ、刑事司法は健全性を保持し、真の信頼を獲得することができる。再審法改正は、そのためにこそある」と結んでいる。
自民党内で事前審査されていた法務省の再審法改正原案に対しては、不十分な証拠開示や再審開始決定に対する検察官の抗告禁止条項がないため冤罪救済が早期に実現しないと危惧する多数の意見が寄せられた。そのため、現在、法務省内で再検討の段階にあるという。
刑事法研究者の意見書が尊重されるかどうか注目したい。
なお、季刊刑事弁護126号(4月20日発売)で、葛野尋之青山学院大学教授と法制審議会―刑事法(再審関係)部会委員を務めた鴨志田祐美弁護士による「これでいいのか再審法『改正』」が組まれている。
(2026年04月10日公開)