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『ルース・ベイダー・ギンズバーグ アメリカを変えた女性』


「誰一人として憲法の保障から漏らさない」とする信念を貫いた女性裁判官

 ルース・ベイダー・ギンズバーグ(Ruth Bader Ginsberg)、愛称 RBG。アメリカにおける差別撤廃にその生涯を捧げた女性、法曹人、そして教育者。アメリカ連邦最高裁史上2人目の女性裁判官で、1993年から2020年まで務める。度重なる膵臓癌との闘いの下、その死の間際まで正義を求めその精神は安まることはなかった。本書は、二人の共著ということになっているが、RBGに強く感化され共に歩んできたアマンダ・L・タイラー(カリフォルニア大学バークレー校ロースクール教授。RGBのロークラークを務める)らがまとめた、彼女の思想や法曹人として獲得しようとした「憲法が目指す“より完全な国家”」についての総集編ともいうべきものである。

 本書の構成は、4つの講演録(第1、4章)、控訴趣意書1通、口頭弁論録2通(第2章)、連邦最高裁判所判事指名に関する証言録および最高裁判所判事としてRBGが執筆したとされる法廷意見1通、反対意見3通(第4章)を軸にして、彼女の人柄や思想に関する9つのコラムが合間に挿入され、そして本文の前後に彼女を称え、惜しむ謝辞やコメントが本書全体を包み込むように添えられている。

 生涯を女性の自由、権利の獲得のために闘い続けたという印象をもたれているRBGである。本書を通して痛感させられることは、女性差別撤廃の闘士であることは勿論であるが、その目的達成のための方法論としての卓越性であり、法律論を駆使したその緻密さである。一見女性の権利を認めたような法令も「女性を永久に憲法上の個人に満たない存在として取り扱う」ものは許容されないが、女性と同じ境遇になった男性(寡夫)を女性と同様に扱わないことも不当としてこれを保護する。「誰一人として憲法の保障から漏らさない」とする信念が、法曹人としてのRBGの中に通奏低音のように流れ、連邦憲法がしっかり「我が国民」の憲法となるように奮闘した。

 法解釈においは、「極めて説得的な正当化根拠」を証明できない限り、政府や法令上の「区別は本質的に疑わしい」とした。すなわち、女性の職業選択や労働条件などに関する特段の規定は、ただちに正当化されるものではないと指摘し続けた。

 リベラル派の判事であると評される一方、その在任期間中は幸せだったとはいえなかったと言われる。何せ女性最高裁判事など考えられなかった時代、女性だけでなく同性愛者や社会的弱者の権利保護や信教の自由や宗教などが絡む「文化戦争」への対応等々、上記のような理念や信念を少しずつでも実現するために行なったさまざまな立論、説得は、必ずしも直ぐには実を結ばなかった。しかし、それが後年になって、裁判所の判断の主要な変更を生むということもあった。「幸せ」をどう捉えるかは人それぞれであろうが、RBG自身が大きな功績を残したことは、他言を要しないであろう。

 このブックレビュー執筆に着手した日、アメリカ連邦最高裁の女性の中絶選択権に関する判例が変更されるニュースが飛び込んできた。保守派(というより福音派)判事が増えた当然の帰結でもあろうが、その報道されている変更理由がお粗末極まりない。ほぼ半世紀前、憲法に明文規定がないことを承知で、法解釈によって、放置され緊急を要した女性の保護を成し遂げ、その保護を定着させ続けてきた根拠を、「憲法に明文規定がない」「ひどい結果をもたらした」としてこれを葬り去ったのである。RBGも、1973年の女性の中絶選択権を認める最高裁判決に対しては法律論としては完全に賛同できるとは考えていなかったようだが、異議を唱えることはなかった。果たして、現況を天国からどう見ているのであろうか。最後に、彼女の座右の銘で締めくくる。

 「裁判官よ、汝正義を追求すべし」!

(ま)

(2022年07月19日公開) 


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