『教室から学ぶ法教育2——学校で求められる法的思考』


法教育に関する一歩進化した教本

1 はじめに

 法教育は、前世紀半ば頃からアメリカで実践され始められた。司法制度改革が本格化してきた1990年代に、わが国において、その必要性がさけばれ、今世紀早々に法務省や法曹界、教育界などが中心となって研究会が設けられた。それに伴って、法教育に関する書籍が多数出版された。2001年出版の『テキストブックわたしたちと法』は、その嚆矢といえる。

 本書は、このアメリカ版の法教育という形にとらわれることなく、わが国の普段の学校生活における出来事を素材にこれを実践するべく編まれた『教室から学ぶ法教育』(2010年、以下「前作」)の続編ともいうべきものである。

2  学校生活の事例から法的解決を導き出す

 本書の基本は、前作同様、学校生活の場面場面で遭遇する法的問題点を提示して、それに対する検討(必ずしも専門家的なものではない)を披露して、具体的な法的解決を導き出すプロセスや解決策を示すものである。

 前作でも、校庭使用や掃除当番の決め方から喧嘩両成敗、器物損壊といった、共生と自由を担うべき市民に必要な法的思考の事例が示されていたが、本書でも、校則や多数決、いじめの問題からLTGB、障害児問題さらには子どもの貧困といった、より今日的な事例を提示して、その法的核心を示すように作られている。

 内容的には、前作同様、場面に関連した登場人物同士の会話を基調として、それぞれの考え方の中にある教育的、法的要素を項目別に示しながら、最終的に「解説」としてより詳しい処理案や法的思考が示されている。

 とくに、「解説」部分は、前作より法的説明が詳しくなっていて(これは筆者だけの主観かもしれないが)、リーディングケース(判例)も紹介されるなどして、けっして専門知識を学ぶためではなく、本書を利用して法教育に当たる方々にとって有用、有益になっている。

3  教師の「人権」や「働き方」にまで踏み込む

 さらに、本書は、教師が生徒と立ち向かう現場だけでなく、その背後に有る、否、その本質部分にある問題である「教師の人権」や教師の「働き方様式」にまで踏み込んで作られている。

 筆者も20年余前に某学校のカリキュラム編成に携わったことがあるが、学期末には週100時間残業は当たり前、切り替え直前は学校泊り込みも厭わずといった生活を送った経験があるので、この部分は、これでも足りないという思いが強いが、法教育を担う現場の教員の方々が主体的にこうした問題に取り組むことの有意義さを、新たに示している。

4  格段に高まる法教育の必要性

 成人年齢の引下げ、選挙年齢の引下げ(これにともなって裁判員になる資格も18歳以上となる)と大転換を迎えつつあるわが国において、一般市民の司法制度や法的思考に対する理解はますます不可欠なもとなり、これに貢献すべく導入された法教育の必要性は格段に高まるであろう。こうした時機において、学校現場だけでなく社会全般に及ぶ問題を提起している本書は、法教育に関して一歩進化した教本であるといえよう。願わくば、前作と併せて活用してもらいたいものである。

(ま)

(2021年11月06日公開) 


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