少年法改正案、衆院法務委員会で審議入り

新倉修 弁護士・青山学院大学名誉教授


衆議院法務委員会(2021年4月6日、衆議院インターネット中継・ビデオライブラリより)。

少年法改正国会を傍聴する(その1)
 衆議院法務委員会参考人質疑(2021年4月6日)

 少年法改正案が本年3月9日に閣議決定され、3月25日の衆院本会議で趣旨説明があった。上川陽子法相が京都コングレスの議長として「誰一人取り残さない」(No One Left Behind)という国連「持続開発目標2030」を強調した場面と重ねると、奇妙な印象を受けた。それとこの改正案はどう結びつくのか、いまだに解答が見つからない。

 4月2日・7日・9日の法務委員会(義家弘介委員長)でも繰り返された説明に曰く、選挙年齢、民法上の成人年齢の引下げで、18・19歳(「特定少年」と呼ぶ)は、責任と権利を与えられるが可塑性に富むので、少年法の適用を外さないものの、原則逆送範囲の罪名による拡大、刑事事件と保護事件の特例(資格制限や換刑処分の免除・ぐ犯・不定期刑の不適用、推知報道の解禁、「犯情の軽重」による保護処分適用の限定など)が必要だ、と。

 法案審議の冒頭4月6日に参考人質疑が設定された。賛成側が法制審専門部会に委員として参加した川出敏裕・東京大学教授と武るり子(少年犯罪被害当事者の会代表)さん、反対側が片山徒有(被害者と司法を考える会代表)さんと須藤明・駒沢女子大学教授であった。私は、共同研究者の鄭裕靜さんとともに片山さんの随行として傍聴したが、インターネット中継の録画で正面から参考人の発言を視聴すると、奇妙な印象は深まった。

 川出教授は、民法によって親権の監護が外れるので少年法の適用も外して、行為責任の範囲内で「新しい処分」を構想するのが論理的だが、18歳未満と同じく「可塑性」に富むので20歳以上の成人とは違う「中間層」として、少年法の適用を認めた上で、行為責任の範囲内で「保護処分」を課すのも、政策判断の問題だという「灰色賛成論」であった。

 武さんも、18歳以上への少年法適用除外の第一歩として、法制審での発言を繰り返し、非行少年は「少年法に守られている。刑務所にも行かず、実名報道もされない」ので、刑法による「抑止力」を発揮してほしいと「灰色賛成論」。

 全面賛成は、法務省にアイディアを売り込んだ上川陽子「与党・少年法検討PT」座長とその仲間たち(自民党の盛山正仁、宮崎政久と公明党の北側一雄、大口善徳の各議員)だけか。

 片山さんは、20年間、少年院や刑務所での講演や面接を通じて「被害者の視点」を伝えきた経験を話し、緊急出版を企画したと披露した。元家裁調査官の須藤教授は、法案の穴を指摘し(季刊刑事弁護106号)、年齢切迫や処分時18歳のケースで調査・鑑別の形骸化が発生し、保護手続全体に広がると警告した。

*なお、本日で審議を終え、明日には採決の予定であるという。インターネット中継を是非ご覧ください。

◎執筆者プロフィール
新倉修(にいくら・おさむ)
 1949年生まれ。早稲田大学法学部卒業。國學院大学教授を経て青山学院大学教授(2001年~2017年)。現在、弁護士(東京弁護士会所属)、青山学院大学名誉教授。主な著作に、『少年「犯罪」被害者と情報開示』(現代人文社、2001年)、『導入対話による刑法講義(総論)』(第2版、不磨書房、2003年)などがある。
*新倉先生の古稀を記念して論文集『国境を超える市民社会と刑事法』が編まれている。

(2021年04月14日公開)


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