大藪大麻裁判の第3回公判、大麻所持で現行犯逮捕した警察官の証人尋問


 大麻所持違反の無罪を主張している大藪大麻裁判の第3回公判が、5月11日(水)午後1時30分、前橋地方裁判所で開かれた。今回も前回同様、傍聴席は一杯となった。裁判長は、春の人事移動で交替した橋本健裁判官で、奇しくも丸井英弘主任弁護人が10年前に担当した大麻裁判のときと同じ裁判官である。

前橋地方裁判所(2022年3月25日撮影)

 簡単に事の発端を振り返ってみよう。

 やきもの作家の大藪龍二郎さんは、2021年8月8日午前5時55分頃、陶芸イベントの帰り道で急に眠気を覚え、群馬県吾妻郡長野原町内の道路の路肩に駐車して、仮眠をとっていた。そこに、「不審車両」があると近隣者からの通報を受けた警察官2名が駆けつけ、職務質問を行った。そのとき、車両の中に「植物片」を見つけ、大藪さんを大麻所持の現行犯で逮捕した。23日間勾留された後、大麻取締法24条の2第1項違反(大麻所持)で起訴された。

 起訴状には、「みだりに、令和3(2021)年8月8日、群馬県吾妻郡長野原町……の路上に駐車中の自動車内において、大麻を含有する植物片約3.149グラムを所持した」と記されている。

 弁護側の主張は、①職務質問から現行犯逮捕までの一連の手続は違法である、②大麻取締法自体が憲法違反である、というものである。

 今回は予定通り、検察官請求の証人である警察官に対する主尋問からはじまった。通報で現場に駆けつけた警察官2名のうちの一人で、大麻所持の現行犯逮捕手続をとった警察官である。

 検察官は、道交法違反の疑いによる職務質問から大麻所持の現行犯逮捕までの一連の手続の流れにしたがって、警察官に尋問した。

 警察官は、①登坂車線の中央に駐車し、運転席のドアが開いていること、②車にキズがみられたこと、③被告人の目がとろ〜んとしていたこと、から職務質問を行ったと証言した。そして、車の中を調べたところ、運転席の脇にあったバックの中に「パケ2つと巻紙」を発見し、それが「大麻」であると疑い、別の警察官に応援を求めた。駆けつけた警察官が予試験をしたところ、「大麻」であるTHCが検出されたので、大麻所持で現行犯逮捕したと、よどみなく答えた。そして、一連の手続に違法はない旨を証言した。

 警察官の証言内容には、公判後の報告集会で大藪さんが指摘しているように大きく異なった内容が含まれており、検察官は被告人について悪印象を裁判官に与えようと意図したようだ。

 反対尋問で、弁護側はなぜ「大麻」所持の疑いをもったかの点について質問した。主尋問で警察官は、警察情報システムによる照会で被告人に大麻所持の「前歴」があったことから、職務質問を続行した旨証言していたが、その「前歴」の内容について弁護側は問い質した。しかし、警察官は「前歴」というだけでその内容を答えようとしなかった。また、大麻取締法では所持罪は「みだりに所持した者」と規定しているが、その「みだり」の意味を逮捕の必要性と関連づけて、どのように判断したかを聞いた。しかし、これに対しても、予試験で「大麻」の反応があったからという回答のみだった。

 この一連の手続が裁判所によって違法と認定されれば、押収した「植物片」の証拠能力がなくなり、無罪判決の可能性も出てくる。

 こうして、弁護側は、大麻取締法が憲法に違反しているかどうかを争う前の第1段階の法廷活動をはじめた。

 その後、裁判官が交替したため、更新手続が30分行われた。その中で、弁護側は、公訴事実に関して、つぎの3点について、裁判長に対して求釈明を求めた。

 ① 起訴状記載の公訴事実では、「みだりに」と記載されているが、具体的にいかなる事実を指すのかが明らかではなく、被告人の防御に支障をきたすので、公訴事実に対する認否の前提として、「みだりに」の意義を明らかにされたい。

 ② 公訴事実では、「大麻を含有する植物片約3.149グラム」と記載されているが、ここからは客体が明らかではなく、被告人の防御の対象が不明確であるので、公訴事実に対する認否の前提として、「大麻」とは何か、「植物片」とは何か、「大麻を含有」とはいかなる意味か、上記を踏まえた上で「大麻を含有する植物片」とは何か、「大麻」は何グラムか、を明らかにされたい。

 ③ 本件公訴事実は大麻草の所持罪であるが、法律上の意見を主張する前提として、この大麻草の所持行為によって大麻取締法の保護法益とされる「国民の保健衛生の保護」を何故侵害するのか、明らかにされたい。

 この求釈明に対して、裁判長は検察官に意見を求めたが、「必要なし」との回答があった。そこで、弁護側は、さらに裁判長に対して、検察官に回答するよう促して欲しい旨要求したが、検察官が「必要性なし」というので、裁判所としてはとくに求めないと決定した。

報告集会で報告する大藪龍二郎(中央)さん、丸井英弘弁護士(右端)、支援者の長吉秀夫さん(2022年5月11日、群馬会館にて)。

 公判が終了した後、前回同様、裁判所の前にある群馬会館で、報告集会が行われた。その中で大藪さんは、車は登坂車線の端に止めて、運転席のドアは開けていなかったと、駐車の状態についての警察官の証言と大きく事実が異なっている旨述べた。これに対して、丸井弁護士は、大藪さんの反論の機会をもつよう裁判所に働きかけたいと方針を明らかにした。

 石塚伸一弁護士は、警察官が証言した「前歴」の点に触れた。「警察官がいう『前歴』の内容は、大麻の種を所持していただけで起訴猶予になったもので、あきらかにこの警察官は大藪さんに対して偏見をもって職務質問をしていたため、『前歴』の内容についての弁護側の尋問に対して最後まで回答できなかった」と、職務質問には違法があるとの見解を示した。

 最後に、大藪さんは、この裁判への期待を込めてつぎのように語った。「今度の裁判長は10年前も大麻裁判を担当していたと聞いている。大麻に対する社会の意識、国連の考え方など社会情勢が大きく変化してきた今日、いまどう判断するか見守りたい。そのために、(大麻草は自分の芸術活動に不可欠なものであることを)きちんと意思表示をしたい」。

 第4回公判は、6月29日(水)午後1時30から2時30分で、車にあった植物片を予試験した警察官に対する証人尋問の予定である。

*大麻に関する基礎知識や世界の大麻政策については、『大麻使用は犯罪か?──大麻政策とダイバーシティ』が詳しい。

(2022年06月03日公開)


こちらの記事もおすすめ