刑事弁護の情報と知が集まるポータルサイト

大藪大麻裁判の第4回公判、予試験をした警察官に対する証人尋問


公判後開かれた報告集会で報告する弁護人ら。向かって右から石塚伸一弁護士、丸井英弘弁護士、被告人の大藪龍二郎さん、支援者の長吉秀夫さん(2022年6月29日、群馬会館にて)。

 6月29日(水)午後1時30分から、前橋地方裁判所で、大麻所持違反の無罪を主張して争っている大藪大麻裁判の第4回公判が開かれた。この日は、大麻所持罪による現行犯逮捕の際、車内にあった「植物片」が大麻であるかどうかを判断する予試験をした群馬県警のK警察官に対する証人尋問が行われた。

 法廷は向かって正面に橋本健裁判長、左に検察官、右に丸井英弘弁護士、大藪龍二郎氏、石塚伸一弁護士という布陣。

 やきもの作家の大藪龍二郎さんは、2021年8月8日午前5時55分頃、陶芸イベントの帰り道で急に眠気を覚え、群馬県吾妻郡長野原町内の道路の路肩に駐車して、仮眠をとっていた。そこに、「不審車両」があると近隣者からの通報を受けたT警察官らが駆けつけ職務質問を行った。そのとき、車両の中から「植物片」を見つけ、大藪さんを大麻所持の現行犯で逮捕した。

 弁護側の無罪主張の理由は、①職務質問から現行犯逮捕までの一連の手続は違法である、②大麻取締法自体が憲法違反の法律である、というものである。

 公判は型通りにK警察官が宣誓書を読み上げた後、検察官による主尋問からはじまった。

 K警察官は、2008(平成20)年に群馬県警に入り、2020(令和2)年から同県警刑事課で薬物捜査を担当するようになった。今回で2回目の捜査であることを明らかにした。第3回公判で証言したT警察官は、道交法違反の職務質問で大麻らしき「植物片」を車内で発見したため、本部に予試験の応援要請をした。そこで、K警察官が現場に急行し、その「植物片」を予試験したところ、「大麻」の反応があったので、逮捕するかどうかを検討し、証拠隠滅のおそれと逃亡のおそれ、前歴があることなどから逮捕に踏み切った旨証言した。

 弁護側は反対尋問の冒頭で、前回の公判で証言したT警察官による道交法違反の疑いによる職務質問から「植物片」発見、それを引き継いだK警察官の逮捕手続までの一連の流れを再度聞いた。

 特に、石塚弁護士は、前回の公判で大麻所持の疑いをもった端緒に大藪さんの服装が「ラテン風」であったことが問題になっていたので、捜査に偏見や差別がなかったかどうかを問い質した。これに対して、K警察官は問題の意味を理解できなかったようだった。

 これは、人種や肌の色、民族といった特定の属性であることを根拠にその人を捜査の対象にしたり、犯罪にかかわったかどうかを判断する「レイシャル・プロファイリング(racial profiling) 」の問題に通じるものである。

 昨年12月、アメリカ大使館が、日本の警察官による人種差別的な職務質問を受けた事例があるとして日本で暮らすアメリカ国民にSNSで警告を出した。今年3月、参議院内閣委員会で、国家公安委員会の二之湯智・委員長はその実態ついて石川大我議員(立憲民主)から質問(3頁)を受け、その調査を約束している。

 つぎに、刑事裁判では異例であるが、被告人の大藪さん本人がK警察官に車の駐車状況と当時の本人の服装について聞いた。しかし、第3回公判で証言したT警察官と同様、左車線の中央に近い状態で駐車していた旨回答した。

 また、丸井弁護士は、「植物片」の予試験が行われた状況について検査キットのしくみとその性能も含めて聞いた。予試験で「大麻」の反応があった点について、それがどのような大麻の成分かを問い質した。これについては、裁判長はK警察官に聞いても答えが出ないので、本鑑定した鑑定人(群馬県警の科学捜査研究所の技官)を次回に呼ぶことにしたいとして打ち切った。

 さらに、丸井弁護士は、逮捕の必要性の点について、証拠隠滅のおそれと逃亡のおそれ、犯罪の重大性について具体的に何をもって判断したのか厳しく質した。しかし、K警察官は、検察の主尋問で答えたように「総合的に判断」したということを繰り返すだけでなんら具体的な事実を示さなかった。

 最後に、弁護側はこの時点で、逮捕手続関係証拠の証拠能力の判断を迫ったが、裁判長は次回に鑑定人の証人尋問をした上で検討すると判断を留保した。

報告集会で報告する弁護人ら。向かって右から丸井英弘弁護士、被告人の大藪龍二郎さん、支援者の長吉秀夫さん(2022年6月29日、群馬会館にて)。

 公判後行われた報告集会では、丸井弁護士は、逮捕手続についてつぎのように批判した。「今回の逮捕では、K警察官の証言ではっきりしたように罪証隠滅、逃亡のおそれはない、これは逮捕権の濫用にあたる。任意捜査で十分である。警察は無駄な捜査費用を使ったことになる。こうした場合、検察官はすぐ釈放すべきだが、すぐ勾留請求するし、裁判官はすぐにそれを認めてしまう。検察官も裁判官も同罪です。こういう実態が日本の刑事裁判では長年続いている。今回は、逮捕手続の違法を立証して無罪を獲得したい、そこで決着したい」と逮捕手続の違法性をさらに追及する構えであった。

 これまでの裁判長の訴訟指揮から判断すると、裁判長は、裁判の第1段階である逮捕手続の違法性に関する判断はしないようである。そうなると、弁護側としては、大麻取締法自体の憲法違反を本格的に争う方向に向かわざるをえない。次回以降の裁判の行方が注目される。

 第5回公判は、8月31日(水)午後1時30分から3時30分まで。鑑定を行った群馬県警の科捜研技官の証人尋問で、鑑定の信用性について論戦する。

 なお、大麻取締法の歴史や問題点については、石塚伸一・長吉秀夫ほか編著『大麻使用は犯罪か?──大麻政策とダイバーシティ』がある。

(2022年07月26日公開) 


こちらの記事もおすすめ