〈袴田事件・再審〉冒頭陳述の要旨と証拠調べ請求を7月までに/裁判所が要請も検察は受け入れを留保/第2回事前協議

小石勝朗 ライター


事前協議の概要を説明する袴田巖さんの姉・秀子さん(左から2人目)と弁護団=2023年5月29日、静岡市葵区、撮影/小石勝朗

 袴田事件(1966年)の再審公判へ向けて、元プロボクサー袴田巖さん(87歳)の弁護団と裁判所、検察による第2回事前協議が5月29日、静岡地裁(國井恒志裁判長)で開かれた。地裁は弁護団と検察に対し、再審公判での冒頭陳述の要旨の提出と証拠調べの請求を7月10日までにするよう要請。弁護団は了承したが、検察は受け入れを留保した。地裁はまた、袴田さんの公判への出廷について「強制的に連れてくることは考えていない」と述べ、事実上、出頭を求めない意向を表明した。

「進展が見られた」と弁護団は評価

 4月10日の第1回事前協議では、検察が公判への対応方針を決めるのに3カ月の期間が必要だと主張し、地裁も容認したため、早期の公判開始と年内の無罪判決を求める弁護団は強く反発していた(こちらの記事を参照)。

 今回の地裁の要請を、弁護団は「進展が見られた」(西嶋勝彦団長)と評価している。一方で、検察が要請を「聞き置く」だけの態度を取り、立証方針も依然として明らかにしなかったことから、再審公判が長期化することへの警戒を緩めていない。

 事前協議は非公開で行われ、終了後に弁護団が記者会見して概要を説明した。今回から検察は、静岡地検の検事とともに東京高検の検事が参加。上級庁の高検がイニシアティブを取って協議に臨んでいるという。

裁判所の対応に抗議する意見書

 弁護団は事前協議に先立ち5月25日に意見書を提出し、前回協議で検察の主張を容認した地裁の対応に抗議した。

 意見書は、再審公判へ向けて検察がすべき判断は「日常的に行っている起訴するか否かの判断と同様のもので、確定審と再審請求審の記録の精査に3カ月もかかるなどという言い訳は通らない」と強調。3カ月の理由を問うことさえしなかった國井裁判長の訴訟指揮を「迅速な裁判を受ける権利を無視した不公平で不適切なもの」と強く批判し、速やかに検察に立証方針を明らかにさせるよう要求していた。

 地裁が今回の協議で双方に冒頭陳述要旨の提出と証拠調べ請求を要請したのは、弁護団のこうした主張も踏まえて再審公判の準備を加速化させるためとみられる。地裁は期限を、検察が立証方針を提出するとしている7月10日に設定。相手方の証拠調べ請求に対する意見も示すよう求めており、地裁はこれらをもとに審理計画を立てる方針だ。この日の協議では再審公判の具体的な日程に言及しなかったものの「審理の早期終結」には同意した。

 弁護団が地裁の要請を受け入れる一方で、検察は「要請は承ったが約束はできない」との姿勢を崩さなかった。弁護団は「有罪立証をするのか」「新たな証拠を出すのか」とも尋ねたが、検察は「可能性は排除していない」との受け答えに終始し、補充捜査の有無も「言えない」とした。理由については「重大事件だから」と釈明しただけだったという。

 弁護団の小川秀世・事務局長は「検察の対応は第1回協議の範囲を出ていない。『裁判所の要請を聞いた』と繰り返すだけで(受け入れると)約束しない理由も明らかにしておらず、何も言わないのと同じだ。強い怒りを感じる」と語気を強めた。

姉が袴田さんの現況を説明

 事前協議の終盤では、再審公判に袴田さんの補佐人として参加する姉の秀子さん(90歳)が、袴田さんの生活や会話の現況を10分ほど説明した。歯磨きやトイレに時間がかかることや、妄想の世界にいて普通の会話が成立しないことを話したという。「裁判官は熱心に聞いてくれました」と秀子さん。

 弁護団は、袴田さんが長期の身柄拘束により精神障害の一種である「拘禁反応」を患っているとする医師の診断書を5月15日に地裁へ提出した。診断書には「公判に出頭しても意味のある対応をすることが不可能な状態である」「強引に出頭させて手続きを進めた場合は身体的・精神的不調をきたすおそれがある」と記載されている。

 弁護団はさらに5月25日付の意見書で「とても裁判に出頭できる状態ではない」「裁判所への出頭を強制されることは恐怖でしかない」と主張。刑事訴訟法が規定する「回復の見込みのない心神喪失者」(451条2項)と認定し、再審公判への出頭義務を免除するよう改めて求めていた。

 地裁はこうした動きを受ける形で、秀子さんの説明後に、袴田さんを再審公判へ「強制的に連れてくることは現段階では考えていない」と述べたという。この問題は大きなテーマだっただけに、弁護団と秀子さんは会見で「良かった」と安堵の表情を見せた。ただ、地裁の最終的な判断は、再審公判の期日が決まった時点になりそうだ。

【袴田事件の再審決定後の動き】は以下を参照(編集部)
〈袴田事件・再審〉9年前に再審開始を決定した村山・元裁判長が述懐/「常識論として捏造しかないと思った」
〈袴田事件・再審〉検察は「有罪の立証をしない」と表明を/袴田さんの弁護団が申し入れ
〈袴田事件・再審〉検察が方針決定に3カ月を要求、裁判所も容認/第1回事前協議

◎著者プロフィール
小石勝朗(こいし・かつろう) 
 朝日新聞などの記者として24年間、各地で勤務した後、2011年からフリーライター。冤罪、憲法、原発、地域発電、子育て支援、地方自治などの社会問題を中心に幅広く取材し、雑誌やウェブに執筆している 。主な著作に『袴田事件 これでも死刑なのか』(現代人文社、2018年)、『地域エネルギー発電所──事業化の最前線』(共著、現代人文社、2013年)などがある。

(2023年06月06日公開)


こちらの記事もおすすめ