国旗損壊処罰法案、衆議院で可決/6月25日の内閣委員会で、江藤隆之・桃山学院大法学部教授が意見陳述


国旗損壊処罰法案に対する意見陳述する江藤隆之・桃山学院大法学部教授(衆議院内閣委員会、2026年6月25日。ライブ・ビデオより)

 国旗損壊処罰法案は6月30日、衆院本会議で採決され、自民党と日本維新の会などの賛成多数で可決され、参議院に送られた。同法案の提出に加わった国民民主、参政両党も含むすべての野党が欠席し、採決に加わらなかった。

 これより先の6月25日、衆議院内閣委員会で参考人の意見陳述とそれに対する質疑が行われた。与党推薦で百地章・日大名誉教授(憲法)と野村修也・中央大法科大学院教授(商法)、野党推薦で志田陽子・武蔵野美術大教授(憲法)と江藤隆之・桃山学院大法学部教授(刑法)が立って、それぞれ意見陳述した。

 編集部では、この程、江藤隆之氏の意見陳述資料を入手した。

 それによると、江藤氏は、刑法研究者の立場から、この法案について理論面と適用面に分けて意見陳述した。

 はじめに、理論面について、つぎのように述べ、この法案に立法事実が欠けていることを強調した。

 「刑罰法規を新設する場合には、単に『その行為は望ましくない』というだけでは足りません。刑罰は、国家が個人に対して科す最も強力な制裁であり、用いるには、必要性、相当性、処罰範囲の明確性が求められます。ここで問題となるのが、立法事実です。(中略)たとえば、他人の所有する国旗を損壊した場合には、現行法においては、器物損壊罪の問題となります。また、建物に侵入して国旗を損壊したような場合には、建造物侵入罪なども問題となり得ます。さらに、業務妨害や侮辱などを伴う場合には、それぞれ既存の刑罰法規によって対応可能です。

 そうすると、本法案が独自の意味を持つのは、主として、自己の所有する国旗を他人の業務を妨害する等なく損壊するという、自己所有物を用いた比較的穏当な表現を処罰するときのみということになります。そうなると、表現の自由等との抵触が問題となりますし、立法事実としてもその必要性・相当性の説明が不十分であると考えます」。

 適用面については、現在刑法にある外国国章損壊等罪(刑法92条)と比較する。同法が適用され有罪確定例は明治40年の制定以来約120年間で1件で、同罪の適用が実際上意味を持ってこなかったこと、適用上種々の困難があるが、同法案の存在そのものが表現の萎縮を生じさせることなどを指摘。

 「刑罰法規は、起訴に至らない段階でも影響を及ぼします。たとえば、国旗を用いたパフォーマンスについて相談を受けた法律家は、摘発される可能性はほとんどないと思いながらも『やめておいた方が安全である』とアドバイスすることになると考えられます。(中略)表には出ない形で表現が差し止められます。法律相談に至らずとも、抗議活動、芸術表現、映像作品などで不安が生じれば、表現行為は控えられます。国会で、芸術表現は対象外であると説明があっても、一般国民にとっては、通報されて警察が事情を聴きに来る可能性があるだけでも負担ですから、国旗を用いた表現は何であろうと控えようとすると考えられます。

 また、立件できない事案でも、本法案が成立すると通報がなされ、現場の警察実務に負担が生じ得ます。たとえばデモの現場で通報が相次ぎ、警察官に『なぜ逮捕しないのか』と迫る者が現れれば、現場の負担は増します」。

 同氏は、同法案によって期待される実益はきわめて限定的である一方で、表現の萎縮や警察実務への負担といった無視しえない副作用が生じると警鐘を鳴らす。

 そして、最後に、「国旗に対する敬意は、社会において重要な価値であり得ます。国旗を損壊する行為に、嫌悪感を覚える人がいることも理解できます。私もそのひとりであります」と前置きして、「刑罰法規を新設するためには、単にその価値が重要であるというだけでは足りません。刑罰による保護が必要か、既存の法制度で対応できないか。処罰範囲は明確か、表現に過度の萎縮を生じないか、現実の不都合を生じないか等、慎重に検討する必要があります。本法案には、なお重大な課題が残されています」と、その審議については、廃案にすることも含め慎重な議論を求めている。

 なお、法案に対しては、日本弁護士連合会自由法曹団法律家団体などが反対声明を公表している。

(2026年07月06日公開)


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