
金融機関3社から融資の名目で計約22億円を詐取したとして東京地検特捜部に逮捕、起訴され、ことし3月に詐欺と会社法違反(特別背任)の罪で、東京地裁(中川正隆裁判長)で懲役11年を宣告され、控訴中の太陽光発電関連会社「テクノシステム」(東京都港区)社長・生田尚之氏(52歳)が、東京地検特捜部の検事から「反社会的勢力」と言われるなど、違法な取調べで精神的苦痛を受けたとして、国に1,100万円の損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が8月10日、東京地裁(大須賀寛之裁判長、今野藍、山中優太両裁判官)で開かれた。
国が提出した2021年6月4日から7月5日までの取調べ映像の一部が、約1時間10分にわたりスクリーンに再生された法廷を傍聴した。
訴状によると、生田社長は2021年5月に逮捕され、41日間連続で計205時間の取調べを受けた。最初から一貫して黙秘権を行使する意思を示したが、堀木博司検事(58歳。現、大阪高検)から「検察庁を敵視するってことは反社や」と言われ、「黙秘を人のせいにするな」と怒鳴られたとする。
同検事について東京地裁は、特別公務員暴行陵虐罪で刑事裁判にかける付審判決定をしている。
取調べ映像の一部を紹介する。
【2021年6月19日】
「破滅的人生。まったく家族のこと考えてない人生やな。この事件の一面や。家族を巻き込むな。周りを巻き込むな」「40代になって子どもがあれだけ大きかったら、自分が生活しとるのは家族のおかげと感じるはずやけどな」
「生田さん、刑務所行くんはあんたやけど。あなたの問題や。弁護士さんの問題やない。自分のこと、きちっと話せよ」
「喋ったから立件とかやない。あなたは、反省しとる、信用できると思わさなあかん」
「無罪なんかどう見ても無理や。じゃあ、次に考えるんはなんや」「どれほど裁判の結果悪くなるんか試してるんか」
「それくらいひどいで。生田さん、黙秘してる場合とちゃうやろ」
「裁判悪くしようとしてるとしか思えん」「犯行後の状況とか、犯罪の形態や被害者の処罰感情とかで裁判の結果は決まる」「犯罪の軽重はめちゃめちゃ重いからな。想像してるのと違うで」「黙秘して会社が許すか、あなたを」「俺が悪いんか、俺が酒注文したんか、俺が蓋あけたんか」
「この酒、どんだけ金かかるか」
「シャンパンタワーで酒の蓋あけたんも生田さんや。検察やない」「完全に拗ねた顔になってんねん」
【6月26日】
「生田さん、凄い顔になっとんで」「悪いことしたら謝るって知ってた? 小さい頃、そう教えられんかった? 生田さん」「黙秘権あるんや。それを謳歌してくれ」
「もう見るんもいやか? こっち向いてみい。むかついてしゃあないか?」
【6月27日】
「完全に悪役に徹するか」「特別背任の補填先がカジノってめちゃめちゃ悪いよな」
【6月28日】
「めちゃめちゃ悪い、一切反省せん」「同情掛ける余地ない」
「生田社長は部下のせいにして黙秘して、再逮捕されたらキレた。検察官を睨み付ける」「47歳の社長、3人の子の親や、これが生田尚之や。情け掛けるところがない」
【6月30日】
「小さい頃から、嘘ついたらあかん、悪いことしたら謝る。人のせいにしないと教わらんかった? 生田さん、なあ」
【7月1日】
「凄い顔してるで。聞こえてるのか? その返事もないんか。タチ悪いな。どこまで行くんや」
【7月5日】
「本能と欲、責任取りたくない。人間の醜いところが凝縮されとる」(ここで笑う)「めったにないもん、見せてくれとるわ。麗しいわ」
「おもろいほど醜い。でもわかれへんやん」「5月までは凄かった。自分だけ助かりたい。6月もや。全破壊なら全破壊したらええがな」「生田さん、潔くなさもすごい。つける薬ないというのは久しぶりや」
「生田さん、何考えてんの。幼稚園児やないんや」「40日付き合う。好きにしてくれ」「生田さんこんだけ証拠があって、それでも黙秘していくっていうんだから、その結果な。例えば生田さんに有利な事情があったとか。またピクッてしたな。うんざりやな。もう」
(ここで初めて生田氏が口を開く)
生田氏「え、何もう?」
堀木検事「うんざりやもうもうええ。お寒いわ」
生田氏「何も今表現してないですけど」
堀木検事 「うんうんもうええええ。ピクッとした分かるねんこっちもアホやないねんから」
生田氏「もう本当に何も言えないですね」
堀木検事「言うてへんやん。なんか言うたみたいに言わんといてくれや」
生田氏「いやでも本当にそう思いました」
堀木検事「うん。それでええやん。なんも言うてへんやん。今まで言うたん? ほんなら、本当に何も言えないですねって言ってもらっても結構やけど、そやろ? また人のせいにするやろ?」
生田氏「いや……もう……」
堀木検事「なんでも人のせいや。本当に何も言えないですねって、言わへんって決めたのはあんたや、人のせいにせんとってくれるか?」
生田氏「もういいです。表情で本当になんか判断されるのは残念です」
堀木検事「私も残念やなんでも人のせいにするあんたを見るのは。すごいよな。黙秘まで人のせいやもんな。本当に何も言えないですねってちょっと感動するよな。言葉選んだほうがええんとちがうか? ちょっと表情のこと言ったら『何も言えないですね』か。なんか言うとったっけ。この39日、なんか言うとったん? 俺が聞いてへんかったんかな」(関西弁で延々と喋った後、堀木検事は「黙秘を人のせいにするな」と大声で怒鳴る。まだ、コロナ禍の頃。二人の間にはアクリル板の衝立が立っていた)。
堀木検事は何とか自供めいた内容を引き出せば評価されると思っていたのだろうが、稚拙な語りからはおよそ、大の大人が「申し訳ございませんでした」などと話し出すとは思えない。エリートとされる特捜検事がこのレベルかと思うと悲しくなった。

口頭弁論後の記者会見で、生田氏の代理人の河津博史弁護士は自ら法廷での内容を説明はせず、冒頭から記者の質問を受けた。こうした際、法廷で記者席を与えられていない筆者は非常に困るが、幸い、この日は3倍近い傍聴券抽選に当たっていた。
河津弁護士は「再生されたのは1時間10分ですが、実際は41日連続で205時間。生田さんは当初から黙秘する意思を明らかにしていたにもかかわらず、これだけの取調べを繰り返された。沈黙している生田さんの人格を否定し、重大な不利益を行使したり、黙秘権行使を非難したり、嘲笑したりして精神的苦痛を与え続けた。これは黙秘権保障の精神に反し、人格権を否定したと主張しております」と話した。
国側の「(堀木検事の取調べを)社会的相当性の範囲を超えるものではない」との主張については「検察官がこのような取調べをしたことが深刻な問題。弁護人が繰り返し苦情を申し出ていたにもかかわらず、抑止されず繰り返された。国が堀木検事の取調べを『社会的に相当』としていることは深刻な問題です」と力を込めた。
原告側は、さらに家宅捜索での不必要な押収を「違法な捜索差押さえ」と問題視する。その違法性を明らかにするため検察庁が開示した段ボール箱を開け、背表紙を映した写真を証拠提出したが、大須賀裁判長は採用しなかった。「23時間強の捜索で段ボール箱300箱の資料を押収した。テクノシステムの事業に関連するものがほぼすべてで、(事件と関連がある)富士宮信用金庫とまったく関係ない資料が大量に雑多に詰め込まれている」(河津弁護士)。
これについて国側は「開示証拠の目的外使用だから証拠調べに使うべきではないと主張している」とする。河津弁護士は「刑事裁判で開示された時に弁護人が閲覧でどこに何がどのくらい入っているかの確認のため撮影したもので書類の中身はまったく写っていない。無関係なものを多く押収している証拠として提出した。証拠の目的外使用については、この間、再審法改正で論議された。裁判所は争点から外して判断を回避したのでしょう」と話す。
さらに「国は、中身を撮影していない写真を『目的外使用』と言いながら、刑事裁判の際の供述調書を大量に証拠請求している」と指弾する。
とはいえ大量の押収については、河津弁護士も想像しているとおり、別件捜査の目的があった可能性も否定できない。
話を堀木検事の取調べに戻す。
河津弁護士は「録音・録画の導入時は、まさか記録に残る形で被疑者の人権を侵害したり、黙秘権をないがしろにするような取調べは行われないだろうと考えられたのでしょう。しかし今回、録音・録画だけではこのような違法な取調べをなくすことができないことが明らかになった。とはいえ、録音・録画がなければ本件は明らかにはならなかった」と語った。
完全黙秘している被疑者への取調べの在り方が争点だ。
河津弁護士は「供述を拒否している被疑者への取調べをどこまで許すのか。憲法が黙秘権を保障している時点で、供述が得られないことがあることは予定されている。国民の法令違反を咎める警察官や検察官という公務員が憲法を尊重してこなかったことが大きな問題。供述の強要が冤罪にも結びついていた。同じような取調べが本件だけとはとても思えない。犯罪があったと思われている事件にも供述の強要による冤罪があったのではないかということを検証すべきだ」と訴える。
「喋らないと刑が重くなるぞと言って精神的苦痛を与える。特徴的なのは家族に言及すること。これは被疑者には辛い。こういう苦痛を与えて供述させることがこれまで成功してきた。冤罪を生む一因です。検察官は黙秘をして自分たちに逆らう者に対して不利益を与えようという心理もあるのでは」(河津弁護士)。
いっそのこと被疑者が「黙秘宣言」した段階で無駄な取調べを一切やめて「黙秘」を前提に捜査を進めればいい。野球の「申告敬遠」のようにすれば無駄な時間も金も使わないで済む。検事たちには多額の超過勤務手当が税金で払われているのだ。堀木検事個人の資質の問題を超え、旧態依然たる検察の取調べの在り方を今こそ見直すべき時に来ている。
異例の国賠訴訟は、①差押えの問題、②家宅捜索に23時間もかけて無関係の物を大量押収したこと、③弁護士への連絡をさせなかったこと、④家宅捜索に先立ちメディアにリークしたこと、⑤取調べでの人権侵害がポイント。原告側が最終準備書面を9月18日までに提出し、次回の10月1日の最終弁論で結審する見通し。
◎著者プロフィール
粟野仁雄(あわの・まさお)
1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部卒。共同通信記者を経て現職。著書に『サハリンに残されて』(三一書房)、『瓦礫の中の群像 阪神大震災』(東京経済)、『アスベスト禍』(集英社新書)、『「この人、痴漢!」と言われたら』(中公新書ラクレ)、『検察に殺される』(ベスト新書)、『ルポ 原発難民』(潮出版社)など多数。近著に『袴田巖と世界一の姉——冤罪・袴田事件をめぐる人びとの願い』(花伝社)、『狙われたトップメーカー——冤罪・大川原化工機事件の傷跡』(同社)。神戸市在住。
(2026年09月17日公開)