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大崎事件、最高裁の再審棄却は「世紀の大誤判」/異例の破棄・自判に抗議の集会


抗議集会
抗議集会には約130人が参加し最高裁への怒りの声を上げた(2019年7月23日、撮影 /小石勝朗)

 1979年に鹿児島県で起きた「大崎事件」で、最高裁が原口アヤ子さん(92歳)に対する高裁と地裁の再審開始決定を取り消し、さらに自ら再審請求を棄却したことに抗議する集会が7月23日、東京都内で開かれた。検察の特別抗告に理由がないとしながら職権で請求棄却を自判したり、新証拠の「明白性」のハードルを厳格化したりした最高裁の姿勢を強く批判。今後、他の事件で高裁・地裁の裁判官が再審開始決定を出しにくくなるのでは、との懸念も表明された。

 大崎事件は、原口さんが夫らと共謀して義弟(当時42歳)を殺害・遺棄したとされた事件。原口さんは一貫して犯行を否認したものの、主犯格として殺人罪などで懲役10年が確定し服役した。その後、再審請求を起こし、いったんは第1次の鹿児島地裁で2002年に再審開始が認められたが、高裁で逆転棄却。今回の第3次で改めて同地裁が2017年に再審開始を決定し、福岡高裁宮崎支部も2018年3月に再審開始決定を維持していた。

 抗議集会で開会あいさつに立った「大崎事件の再審をかちとる首都圏の会」の松木圓会長は「最高裁 再審開始決定!」のチラシ4000枚を準備していたと明かし、6月25日付の逆転決定が「青天の霹靂だった」と漏らした。最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)が5人の全員一致で、地裁と高裁の再審開始決定を「取り消さなければ著しく正義に反する」と結論づけたことに、「不服従を宣言する」と力を込めた。

 最高裁は決定で、検察の特別抗告に対し「実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法の抗告理由に当たらない」との判断を示しながら、「職権をもって調査」したとして高裁・地裁の決定を破棄し自判している。弁護団事務局長の鴨志田祐美弁護士は「事実調べや弁論を経ない不利益方向の自判は許されない」と強調。大崎事件ではこれまでに高裁・地裁で計3回の再審開始決定が出ており、それを取り消すのは「最高裁の権限を超えている」と非難した。

鴨志田祐美弁護士と佐藤博史弁護士
最高裁決定の問題点を報告する鴨志田祐美弁護士(左)と佐藤博史弁護士(撮影/小石勝朗)

 最高裁の事実認定についても、鴨志田氏や弁護団の佐藤博史弁護士は「世紀の大誤判」と糾弾した。決定が、被害者を遺棄したのが原口さんらではなく家まで運んだ近隣住民だとする可能性を「全く想定できない」とし、遺棄の犯人が原口さん一家以外の者だとは「想定しがたい状況にあった」と断定したことに、「証拠に基づかず理由も書いていない」と反論。また、「共犯者」や親族の供述・証言が変遷しているにもかかわらず「信用性は相応に強固」と評価したことにも、「裏付けなき決めつけ」と主張した。

 そして、高裁・地裁が新証拠と認めた法医学者の鑑定に対し、最高裁が「明白性」を否定したことを問題視した。決定はこの鑑定を「被害者の死因に関して、科学的推論に基づく一つの仮説的見解を示すものとして尊重すべき」と捉えながらも、被害者の「死亡時期」を持ち出して「決定的な証明力を有するものとまではいえない」との論理を展開しており、鴨志田氏らは「『疑わしきは被告人の利益に』とした白鳥・財田川決定に違反する」「科学的証拠の証明力に『無罪の立証』を求めるレベル」と反駁した。

 弁護団は決定の6日後に最高裁へ異議を申し立てたが、翌日、書記官が電話で「立件しない」と伝えてきたという。その後、支援者が最高裁へ異議申立ての審理を求める要請をしたいと申し入れたところ、「そのような事件は係属していない」と拒否されたそうだ。弁護団は第4次再審請求の準備に入った。

 他の冤罪事件にかかわる弁護士からは「裁判所が鑑定に難癖をつけるやり口が常態化すれば、あらゆる再審の扉を閉ざしかねない」との声が出ていた。今回の最高裁決定の根源には、再審開始決定に対して検察が抗告できる仕組みがあるとの見方も共有され、再審法制の整備が急務であることを印象づけた。

(ライター・小石勝朗)


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