冤罪被害者・家族らが法制審の再審法「改悪」に怒り、共同声明を公表し記者会見で訴え 


記者会見を行う冤罪被害者や家族ら──左から、矢田部孝司さん、阪原弘次さん、袴田ひで子さん、高瀬有史さん、周防正行・映画監督(2026年1月21日、東京・霞が関の司法記者クラブにて。撮影:刑事弁護オアシス編集部)

「冤罪被害者とその家族の共同声明」公表

 1月21日、2024年に再審無罪を勝ち取った袴田巖さんの姉・ひで子さんなど、冤罪被害者とその家族らが、法制審議会による再審法の「改悪」に反対し、議員立法による法制化に期待する共同声明を公表し、東京で記者会見を開いた。声明の呼びかけ人には12名、賛同人には24名の冤罪被害者らが名を連ねる。声明は、後日法制審議会に郵送されるという。

 記者会見前日の1月20日、法制審議会―刑事法(再審関係)部会の第16回会議が行われ、法制審事務局の「試案」が配布された。証拠開示の範囲を「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」に限定するばかりでなく、再審開始決定に対する検察官の抗告を禁止する規定は盛り込まれなかった。ほかにも、証拠の目的外使用禁止の規定や、「再審の請求を受けた裁判所は、遅滞なく、その請求について調査しなければならない」というスクリーニング(再審請求の入り口での選別)の規定も盛り込まれた。

 「冤罪被害者とその家族の共同声明」は、「無実の私たちを見捨てた、法制審は退場せよ」と強い怒りをぶつけている。法制審議会を「危険な逆走車」と表現して厳しく批判し、誰のための再審法かと問いかけ、議員立法による再審法改正を切実に願うものである。

 記者会見で、袴田ひで子さんは、「国を守るための法律を作るのではなく、人間を守ってもらいたい。冤罪被害は人間が起こしたこと。人間として検討してほしい」と切なる思いを述べた。

 法制審議会の試案では、証拠開示の範囲が限定されるという点について、袴田ひで子さんは、「証拠は全部出さなきゃ無理ですよ。都合の良い証拠だけ出すなんてフェアじゃない」と語気を荒らげた。

 日野町事件で無実を訴えながら亡くなった阪原弘さんに代わって再審請求を行う長男の阪原弘次さんも、「日野町事件でもすべての証拠が開示されていれば、こんなことになっていなかった。証拠の全面開示は我々の切望」と訴える。

 また阪原さんは、再審法改正は、何もやっていないのに罪に陥れられた犠牲者のためにあるべき。(再審開始決定に対する)検察官の抗告を禁止して1日も早く冤罪犠牲者が救われる法律になってほしい」と主張した。阪原さんは、「再審というのは間違いなく冤罪犠牲者のためにある。法制審の試案では冤罪犠牲者は間違いなく救われない。議員立法による法制化で、多くの冤罪犠牲者が救われる。天国にいる父もそれを願っていると思う」と、亡くなった父親の阪原弘さんにも思いを馳せた。

 今市事件で有罪となり服役している勝又拓哉さんの弟・高瀬有史さんは、「司法は一度確定した判決を守ろうとする。私にはそれがまるで昔の天動説のように感じてならない。日本では“司法の天動説”を守るために、目の前にある科学的な真実から目を背け、不都合な事実を隠す」と痛烈に批判した。

 アクリル板越しに面会する勝又さんは、いつも「元気にしてるよ」と笑うというが、高瀬さんは「その笑顔の裏に自分は無実が証明されるまで生きていられるのか、そんな孤独で辛い不安と毎日闘っているのかと考えてしまう」と苦しげな面持ちで語る。

 西武新宿線痴漢冤罪事件で逆転無罪を勝ち取った矢田部孝司さんは、「痴漢や窃盗等、比較的軽微な罪についても、多くの人が冤罪を主張している。自分だけは巻き込まれないと思っているなかで、裁判をやって実際に有罪が確定すると途方に暮れてしまう方が多く、最高裁まで闘って有罪が確定してしまうとほとんどの人が諦めてしまう。実際には多くの人が再審を断念してしまうという現実がある」と裁判の厳しい現実を語った。

法制審部会のあり方に批判

 会見に同席した映画監督で再審法改正をめざす市民の会共同代表の周防正行氏は、作家・村上春樹氏の「高く強固な壁とそれに打ち砕かれる卵があるなら、私は常に卵の側に立つ」という言葉を引用し、「私自身が卵であると感じている」と述べた。そして、「私の前にそびえ立つ壁は嘘で塗り固められた壁であり、さらに法制審はその壁に嘘を塗りたくってより強固なものにしようとしている。その作業をされている委員の皆さまは、自分が卵になることを想像したことがありますか?」と問いかけた。

 また、かつてアメリカの陪審裁判で被告人たちが陪審員に語りかけた「どうか私をあなたたち自身が裁いてほしいと思うやり方で裁いてください」という言葉を引用し、「同じ言葉を法制審の委員に伝えたい」と述べる。「あなたたちも身に覚えのない罪で裁判を闘い、有罪になるかもしれない。そのときに、今あなたたちが作ろうとしている再審法のもとで闘いたいですか? 僕は絶対に嫌です」と言い切った。

 法制審議会の多くの委員が「法的安定性」を重視しているという点について、高瀬さんは、「それはあくまで通常審が正常に成立していれば、という話」だと指摘する。「警察・検察は、今までいくつもの裁判で無罪の証拠を隠してきた。法的安定性という神話に依存して良いのか。いつまでそんなことをしているんだ。物的証拠、科学的証拠に基づいて判断すべきだと強く思う」と厳しく批判した。

多くの冤罪被害者の「仲間」

 会見の中で、獄中から無実を訴えているある冤罪被害者からの手紙が読み上げられた。

 「刑務所や拘置所の中でこれから再審をしようとする場合、検察が保管している証拠の閲覧・謄写は、弁護士に代理人になってもらわないとできない。仮にこれができたとしても、刑務所の中で保管できる量は限られており、それを超えた場合、開示証拠は目的外使用が禁止されているために支援者や家族に宅下げしてもらうことができず、弁護士がいない場合は廃棄せざるをえなくなる。ほとんどの人は、弁護士を見つけるという作業にさえも何年もかかっている。これから再審をしようとする人にとっては、現状でさえもハードルが高いのに、これ以上再審法が改悪されてしまうと完全に手足をもぎ取られてしまう」。

 冤罪被害者というのは、表に立って発言できる人だけではなく、無実を訴えながらも再審請求への足がかりすら掴めず、声や顔を出すのが困難な人が何百人、何千人といる。そして、そのような人たちこそ、再審法の改正を切実に必要としている。登壇した冤罪被害者らは、このような多くの「仲間」の存在への理解も求める。

 冤罪は決して他人事ではなく、いつ自分の身に降りかかるかわからない。冤罪被害者らは、国会議員、法曹三者、そして市民に、そのような目線で冤罪について考えてもらうこと、そして無実の人が迅速に救済されるという原点に立ち返った再審法が成立することを切に訴えかける。

 冤罪犠牲者の会は、同声明への賛同やメッセージを募っている。賛同呼びかけ人として、指宿信氏(成城大学教授)、片山徒有氏(被害者と司法を考える会代表)、周防正行氏(映画監督、再審法改正をめざす市民の会共同代表)、新田渉世氏(元日本プロボクシング協会・袴田巖支援委員会委員長)が名を連ねる。賛同はこちらから。

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(2026年01月23日公開)


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