〈裁判傍聴をめぐる国賠訴訟〉「従わないと入廷できない」、裁判所によるパーカなどの着用制限、実態は強制と原告が証言

小石勝朗 ライター


尋問を終え報告会で感想を話す鈴木賢さん(左)と清水一人さん(2026年7月9日、東京・霞が関の弁護士会館、撮影/小石勝朗)

 「袴田事件」の再審公判や「同性婚訴訟」の判決言渡しを傍聴する際に、裁判所がバッジやパーカ、レインボー柄の靴下の着用を制限したのは違法だとして提起された国家賠償請求訴訟で、原告3人のうち2人の当事者尋問が7月9日、東京地裁(中野琢郎裁判長)で行われた。

 被告の国は、法廷に入る前にバッジを外したりパーカの文字や靴下の柄を隠したりするよう、裁判長の指示を受けた職員が原告に求めたことを認める一方で「要請であり命令は出していない」と主張している。尋問で2人は、着用を制限された品が自分にとっていかに大切なものかを語ったうえで、「従わないと入廷できない」と告げられた経緯や状況を証言。実態は強制であり過剰な対応だったことを浮き彫りにして、裁判所の措置の違法性をアピールした。

パーカの文字にテープを重ね貼りされる

 訴状によると、袴田巖さんの支援団体「袴田サポーターズ・クラブ」代表の清水一人さんは、2024年4月の再審・第14回公判で静岡地裁の傍聴席に入る前に所持品検査を受けた際、着ていたパーカの背中に書かれた「FREE HAKAMADA」の文字(3.5cm✕2cm)と同クラブのバッジ(直径2.1cm)を地裁職員に問題視された。職員が「HAKAMADA」の文字に養生テープを重ね貼りして隠し、バッジも外して、ようやく傍聴できた。

 袴田さんの主任弁護人だった小川秀世弁護士は、再審の第1回公判(2023年10月)から毎回このバッジを着けて法廷に入っていたが、第14回公判で國井恒志裁判長から外すように言われ、やむを得ず第15回公判からバッジを着けずに出廷した。

文字を隠すためにテープを貼られた清水一人さんのパーカ(2024年4月24日、静岡市葵区、撮影/小石勝朗)

 また、鈴木賢・明治大教授(中国法・台湾法)は2023年6月、同性婚が認められないのは違憲だとして起こされた訴訟の判決言渡しが福岡地裁であった際、半ズボンだったため、履いていた靴下のレインボー柄を入廷前に隠すよう地裁職員に求められた。6色のラインが入っている約6.5cmの部分を、内側に折り込んで見えないようにして傍聴した。

 こうした着用制限の根拠とされるのは、法廷の秩序維持のため裁判長に認められた「法廷警察権」(裁判所法71条)だ。

 3人は「法廷での裁判所の職務の遂行を妨げるような行為は何もしていない」と主張したうえで、憲法82条の公開裁判の原則などに基づき「法廷警察権は無制限ではない」「恣意的に行使されてよいものではない」と強調。裁判所の行為は「法廷の秩序維持という法廷警察権の目的を著しく逸脱し、違法な公権力の行使に当たる」と立論し、精神的苦痛への賠償としてそれぞれ110万円を支払うよう国に求めて2024年11月に提訴した(提訴の内容については本サイトの拙稿をご参照ください)。

国は「任意の対応を求める要請で命令は出していない」

 これに対し、被告の国は請求を棄却するよう主張し、準備書面で原告に反論している。

 清水さんについては、裁判長の指示を受けた地裁職員がパーカの文字が見えたりバッジを着けたりした状態では入廷できないと説明したことは認める一方で、「バッジの取り外しを命じていない」と唱えた。清水さんは自らバッジを外すとともに、パーカの文字をテープで隠すことを了承したので職員が養生テープを貼り付けた、との見解を示した。

 小川さんに関しても、裁判長はメッセージ性のあるバッジを着用しないよう協力を要請したにとどまり、「バッジを外すよう命じてはいない」と言い立てた。

 鈴木さんの場合も、裁判長の指示を受けた地裁職員が靴下のレインボー柄を見えなくするよう求めたことは認める一方で、やはり「レインボー柄を排除する命令を出したことは否認する」と記している。

 3人いずれのケースも、裁判所による「任意の対応を求める要請」であり、本人がそれを受け入れたので命令には至らなかった、だから強制はしていないとの理屈だ。

 国はバッジやパーカ、レインボー柄の服装を袴田さんや同性婚訴訟の原告への支持を表明するものとみなしており、法廷で着用すると「裁判所に対する中立性、公平性に疑念を抱かせることになりかねない」との論理を展開している。また、そうした疑念を抱いた人や同性婚訴訟の原告と対立する考えを持つ人との間で「喧噪にもつながりかねない」と懸念も挙げている。

 そして「法廷警察権の行使は裁判長の広範な裁量に委ねられて然るべきもの」「裁判所の職務の執行を妨げるに至らなくとも、法廷の威信を傷つけるものとして法廷警察権の対象になる」というスタンスを提示。裁判所法が裁判長に対し法廷の秩序維持に「必要な処置」を取ることを認めているとして、いずれの事案でも「裁判長は法廷警察権の趣旨、目的に則り適切に行使して指示をした」と結論づけ、違法性を否定している。

強制ではないとの説明は「全くなかった」

 当事者尋問を受けたのは清水さんと鈴木さんで、小川さんは体調不良のため欠席した。

 静岡県浜松市に住む清水さんは、袴田さんが2014年に釈放されて故郷の同市に戻ったのを機に支援団体を結成し、生活の手助けやまち歩きへの同行などの活動をしてきた。袴田さんを応援する市民の声に応えたいと考えてバッジを作ったという。パーカとともにふだんから身に着けており、バッジやパーカの文字を「裁判官に見せる意図はなかった」と強調した。

 再審公判の当日、静岡地裁の入廷前の検査は「他の裁判に比べて特別に厳しいと認識しており、受けたくない気持ちはあっても従わざるを得なかった」。バッジを外しパーカの文字を隠すよう求められた時に拒むとどうなるかを聞いたところ、職員には「裁判体の決定なので入廷できない」と言われた。強制ではないとの説明は「全くなかった」と語気を強めた。

 「傍聴の権利を狭めるのはおかしい」と感じたが、14回目の再審公判で初めて傍聴券の抽選に当たっていたので「ぜひ公判を見たい。(拘禁反応を患って)法廷に来られない袴田さんのためにも見届けておきたい」と考えて、受け入れることにしたという。

「屈辱的で不合理だが、やむなく従った」

 鈴木さんは性的マイノリティーで、性の多様性を象徴する意味を持つレインボー柄の衣類や携行品を「ほぼ毎日身に着けており、生活に常にある。自分のアイデンティティの一部を象徴するデザイン」と位置づけた。福岡地裁の判決言渡しに赴くにあたり、裁判のテーマにふさわしい服装でと考えてこの靴下を選んだが、半ズボンは日常的に履いていて「レインボー柄を見せる意図はなかった」と述べた。

 法廷の入口では職員2人が傍聴人の服装をチェックしており、「関所のようだった」と印象を語った。「その靴下では入廷できない」「裁判体の指示だ」とレインボー柄を隠すよう求められた時は、他の裁判所でそうした指摘をされたことはなかったため驚いた。「こんなことまでしないといけないのか」と悩んだが、抽選で傍聴券が当たっており判決を直接聞きたかったことや、強行突破すれば暴力が発生する事態になりかねないことを勘案し、「柄の部分を折り曲げて見えなくした」と振り返った。

 「自分の存在の根本にかかわるものを排除され屈辱的で不合理だが、やむなく従った。法廷警察権という国家権力の行使であり説明責任を伴うのに、いまだに果たされていない」。尋問の最後にこう訴えた。

 尋問終了後、中野裁判長は次回の口頭弁論を10月8日に指定し、それまでに最終的な意見書面を提出するよう原告の弁護団に要請した。判決は年内に出される可能性があると弁護団はみている。

図柄を隠すため地裁職員にテープを貼られた山崎俊樹さんのTシャツ(左)。背中側はそのままだった(2026年7月9日、東京・霞が関の弁護士会館、撮影/小石勝朗)

袴田さんの写真をあしらったTシャツにテープを貼る

 この日の口頭弁論では、袴田さんの支援活動に携わってきた山崎俊樹さんが、入廷前に着ていたTシャツの図柄を隠すよう地裁職員に求められ、その部分に粘着テープを貼られて傍聴した。

 Tシャツの図柄は縦・横ともに約27cm。右半分は袴田さんのスナップ、左半分に再審で焦点になった「5点の衣類」などの写真があしらってあり、胸と背中に同じ図柄がプリントされている。

 山崎さんによると、東京地裁の庁舎前で傍聴券の抽選の列に並んでいたところ、職員から「図柄を隠すように」と告げられた。理由を尋ねると「主張を表すものだから」「裁判長の命令です」と言われ、「貼りますから」と胸の図柄を6枚のテープで隠されたという。背中側の図柄は「背もたれで見えない」とそのままだった。

 山崎さんは「このTシャツは、裁判所職員の腕章や弁護士バッジのように属性を明らかにするもの。その人がどんな人なのか示せば相手も安心できる。裁判官も『こんな人たちが傍聴に来ている』と理解したほうが安心して審理を進められるのではないか。Tシャツの図柄がテープで隠されればかえって不自然だし、見る人は異様な光景と捉えるだろう」とコメントした。

◇     ◇     ◇

 裁判所のこの対応には疑問を感じる。

 袴田さんは再審で無罪が確定しており、5点の衣類も「捜査機関の捏造」と判決で認定され、決着はついている。袴田さんの支援者がこのTシャツを通して、再審の内容に直接関係しない裁判官をはじめ法廷にいる人たちに、主張をアピールする必要は、もはやない。再審判決を出したのは当の裁判所なのだから、中立性や公平性への懸念も無用だ。今回の国賠訴訟で争われている再審公判の時点とは、そもそもの前提が異なる。単純化して言えば、Tシャツの図柄は今や単なるデザインに過ぎない。

 こうした客観的な事情にはお構いなしに、機械的に袴田事件にかかわる図柄を覆い隠させた東京地裁の措置は、表現の自由を侵しており過剰で行き過ぎではないか。袴田さんの支援をしてきた清水さんが国賠訴訟で「裁判所がパーカの文字をテープで隠させたのは違法」と訴えていることへの意趣返しのように映る。

◎著者プロフィール
小石勝朗(こいし・かつろう) 
 朝日新聞などの記者として24年間、各地で勤務した後、2011年からフリーライター。冤罪、憲法、原発、地域発電、子育て支援、地方自治などの社会問題を中心に幅広く取材し、雑誌やウェブに執筆している 。主な著作に『袴田事件 これでも死刑なのか』(現代人文社、2018年)、『地域エネルギー発電所──事業化の最前線』(共著、現代人文社、2013年)などがある。


【編集部からのお知らせ】

 本サイトで連載している小石勝朗さんが、2024年10月20日に、『袴田事件 死刑から無罪へ——58年の苦闘に決着をつけた再審』(現代人文社)を出版した。9月26日の再審無罪判決まで審理を丁寧に追って、袴田再審の争点と結論が完全収録されている。

(2026年07月17日公開)


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