去る6月、政府は約2年11か月ぶりに死刑の執行を行った。死刑が執行されると、マスメディアは必ずニュースで取り上げる。裁判員裁判の導入後は、国民は裁判員に選ばれると、有罪・無罪の事実認定と有罪のときは量刑判断をすることになり、ときに死刑か否かの判断を迫られる(福井厚編著『死刑と向きあう裁判員のために』参照)。
死刑についての情報源として、ニュース報道は十分とは思えない。ニュース以外で知ろうと思えば、書籍からということになる。しかし、大部なものが多く最後まで読み通すことを諦めることがしばしばである。本書で、コンパクトにまとめられたものにようやく出会うことができた。
筆者は、「市民の、市民による、市民のための刑事政策」をモットーとしている、新進気鋭の刑事政策・犯罪学研究者である。Podcastでマスメディアのニュースでは聞けない犯罪学・刑事政策の話を、わかりやすく解説する音声番組「丸ちゃん教授のツミナハナシ」を配信している。
本書は、全8章で構成され、死刑制度存廃に関する「結論」ではなく、「ノイズ」といわれる最低限度の「情報」が収録されている。
本書の目的について、筆者は「死刑存置派を死刑反対派にすることでもなければ、死刑反対派を死刑存置派にすることでもない」という。そして、読者が死刑に賛成か反対かを考え、自分自身の答えを出すときに、死刑のことをどれだけ理解しているのかを問う。さらに、死刑制度を維持するために日本の刑事司法制度はその議論に堪えうるものを持っているのかどうかを知ってもらうところにあると力説する。
死刑はただ単にそこにあるのではなく、この日本の「刑事司法」の中に存在するという視点が本書の根底に流れている。
このため、筆者は「刑事司法」の中の死刑を考える上で必要最低限の情報を、第1章「死刑はどのように運用されている?」、第3章「被害者を支援するとはどういうことか」、第4章「死刑存置派と死刑廃止派の水掛け論」、第6章「『死刑は残虐な刑罰か』の過去・現在・未来」などで、そのファクトをしつこく紹介する。
「死刑」を考えることは、「刑事司法」とは何か、「犯罪」とは何かを考えることにも通じる。さらに、「社会」を見ることに通じる。本書から、その視点が見えてくる。
最後に、筆者は薬物問題に造詣が深いので、つぎは「『大麻(使用)』について私たちが知っておくべきこと」を是非まとめていただきたい。
(な)
(2025年09月29日公開)