『検証・免田事件[資料集]』編集の免田事件資料保存委員会が、 日本記者クラブ賞特別賞を受賞、5月30日に贈賞式


日本記者クラブ賞特別賞を受賞した「免田事件資料保存委員会」。左から、高峰武・熊本日日新聞社元記者、甲斐壮一・熊本日日新聞社元記者、牧口敏孝・RKK熊本放送元記者(5月30日、東京・内幸町の日本記者クラブ)。

 2023年度の日本記者クラブ賞特別賞に『検証・免田事件[資料集]』を編集した「免田事件資料保存委員会」が選ばれた。5月30日、東京・内幸町の日本記者クラブで、同賞の贈賞式が行われた。

 受賞理由では、①重要な裁判記録が廃棄される時代にあって、丹念に資料を残すことの重みとメディアの責任を示したこと、②1983年の再審無罪判決を直接取材した3人がその後も関係者と交流を続け、40 年に及ぶ免田事件検証というジャーナリズムの根幹を体現したこと、③それらが会社の垣根を越えた共同活動であること、があげられている。

 贈賞式には、同保存委員会の高峰武・熊本日日新聞社元記者、甲斐壮一・熊本日日新聞社元記者、牧口敏孝・RKK熊本放送元記者が出席。挨拶に立った高峰さんは、受賞の喜びと『検証・免田事件[資料集]』の意義をつぎのように語った。

 「記者という冠の付いた賞をいただき、感謝しています。と同時に、少々恥ずかしい思いもあります。というのも、出されていた宿題にようやく気付き、締め切りぎりぎりに何とか答案を出したような感じがあるからです。私たち3人は、1983年7月15日、免田栄さんの再審無罪判決を取材し、その後も交流を続け、熊日では免田事件に関する本を4冊出し、RKK熊本放送も優れたドキュメンタリーをつくってきました。そんな私たちが大きなパンチを食らったような衝撃を受けたのは、免田さんから託された資料群からでした。そこにはこれまで知らなかった34年余に及ぶ死刑囚としての獄中での日々が手紙やメモなどという形で具体的な物証とともにありました。正直、これまで事件が見えてなかったと思いました。これは資料集を編むしかないと思い、免田さんから託された資料を含めて、熊日、RKKにあった資料、それに私たちが個人的に持っていた資料、これらの資料を三分の一ずつの構成として、編集作業に入りました。また資料集を編む過程で、より多くの人に免田さんと事件を知ってもらおうと、評伝『生き直す 免田栄という軌跡』(弦書房)も企画しました。当初は同時に出す予定でしたが、折からのコロナ禍もあり、評伝が2022年1月、資料集が約半年遅れの同年8月の刊行になりました。
 免田事件は生きている、というのが率直な感想です。再審開始が決まった袴田事件で東京高裁は証拠の偽造の可能性にまで踏み込みましたが、免田事件では偽造ならぬ“紛失”が起きています。無罪を証明するはずの着衣や凶器とされた鉈などは結局、行方が分からず仕舞いのままです。また私たちが作業をしている最中に重要な裁判記録が廃棄されていることが分かりました。冤罪事件や司法当局の問題の多い行動が明らかになるたびに、戦後の冤罪の原点とも言うべき免田事件に光が当てられてくる、そんな気がしています。
 免田さんは『再審は人間の復活です』と語りましたが、そこに込められていたのは冤をすすぐことの困難さと、事件を生み出した構造への深い問いかけに他ならなりませんでした。そのことにようやく気付いた次第です。冒頭に申した少々恥ずかしい思いというのは、こういう事情を指しています。
 私たち、古稀前後のロートルのフリー記者の作業はもう少し続きそうです。温かく見守って下さい」

 なお、2023年度の日本記者クラブ賞には日本の財政・金融政策の決定過程の解明に挑み続けているTBSテレビ常勤監査役の西野智彦氏(64歳)、もう一人の同特別賞は「ゴールデンタイムにドキュメンタリー」という孤高の闘いを10年を超えて続けているRSK山陽放送「RSK地域スぺシャル・メッセージ」取材班が、それぞれ受賞した。

 また、受賞者による受賞記念講演会が、6月 30 日、7月 10 日の2回にわけて日本記者クラブで行われる。一般の読者・視聴者も参加(無料)できる。

○第1回:
【日時】6月30日(金)17:00~19:00
【登壇者】山下晴海・RSK山陽放送報道制作局長、免田事件資料保存委員会(高峰武、甲斐壮一、牧口敏孝)
【参加申込】日本記者クラブ会員、会員社所属記者の方は→こちら、 一般の方は→こちら

○第2回:
【日時】7月10日(月)17:00~18:00
【登壇者】西野智彦・TBSテレビ常勤監査役
【参加申込】日本記者クラブ会員、会員社所属記者の方は→こちら、 一般の方は→こちら

(2023年06月08日公開)


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