柴﨑大麻裁判第4回公判/裁判長の転任、そして実刑のおそれ、それでも大麻取締りの理不尽さを問い続ける


さいたま地方裁判所熊谷支部(2025年6月10日。撮影:刑事弁護オアシス編集部)

 大麻取締法違反(単純所持)の無罪が争われている柴﨑大麻裁判は、2025年6月10日、第4回公判(裁判長:佐々木直人)である論告の期日を迎えた。同公判は、さいたま地方裁判所熊谷支部第401号法廷にて行われた。

 なお、第3回公判にて、弁護側の意見書の証拠調べ請求は却下したものの、柴﨑和哉さん本人による朗読と公判調書への添付は認めるという、例外的な判断を下した菱田泰信裁判長は転任となっていた。

証拠の採否をめぐる攻防

 弁護人の丸井英弘弁護士は、第4回公判に向けて、公訴事実に対する法律上の意見書(以下、意見書。丸井弁護士の主張の内容はこちらを参照)の補充意見、および証人の取調べ請求書を提出した。

 今回提出された補充意見は2つで、それぞれの概要は以下のとおりである。まず1点目では、「大麻=陶酔=平和」という見方もなし得ると訴える。「大麻に市民権を与えるため」に活動する組織が集まった国際会議の視察記事などに基づく。同記事は、やや古いものであるが、弁護人自らがこれまでに行ってきた活動の記録でもある。

 2点目は、「カンナビスに関する世界の第一人者による共同声明」と題した文書である。大麻使用に伴う心理的影響や依存には一定の注意を要するが、これらが社会的混乱を引き起こすという言説は誇張されたものであり、大麻の活用を妨げ、社会的損失に繋がっていることなどを主張するものだ(本文は末尾のリンクを参照)。

 アンドリュー・ワイル博士(米国人医師で、西洋医学だけに頼らない「統合医療」の提唱者)をはじめ、大麻の活用を推進する医師や研究者などが署名者に名を連ねる。丸井弁護士は、「自らも同意見である」としてこれを提出した。なお、この声明は、2025年7月時点で上告審にある大藪大麻裁判に際して正式に出されたものであるが、大藪さんと柴﨑さんは、現在の大麻規制に対して立場をともにしていることから、本件の弁護側意見として採用されたようである。

 丸井弁護士が取調べ請求を行った証人は、大藪龍二郎さんだ。大藪さんは、陶芸家として自身の作品を、柴﨑さんが経営する店に出品している。また、大藪大麻裁判の被告人であり、大麻取締りの理不尽さを訴えている人物でもある。

 これらの背景事情から、被告人である柴﨑さんの人間性や、現状のような大麻規制を行う科学的根拠の乏しさ(大藪大麻裁判でも主張される事項である)等を立証趣旨として、大藪さんが証人調べ請求された。

 公判冒頭では、裁判長の交代による訴訟の更新手続がなされた。当初丸井弁護士は、起訴状朗読だけでなく、法律上の意見の表明や証拠調べを改めて行うべきだと主張した。検察側の意見は「必要性なし」で、裁判官も「これまでの手続は記録化されている」として「従前と変更のない箇所についてはおうかがいしない」との訴訟指揮を執った。

 結果的に、本公判に向けて提出した補充意見の朗読のみが認められた。大藪さんへの証人調べなどの弁護側請求証拠については、前回に引き続き、全て却下の判断が下された。丸井弁護士は、「新たな証人尋問請求を検討中である」などとして証拠の採否をめぐって粘り強く交渉したが、証拠調べ手続の終了が告げられた。

被告人が大麻取締法に異議を申し立てる困難さ

 続いて検察側による論告となった。被告人・弁護側は、大麻の「有害性」および本件葉片が「大麻」であるかについて争う姿勢であった。これに対し検察側は、判例(最一小判昭60・9・10判時1165号183頁〔LEX/DB27803849〕、最一小判昭60・9・27集刑240号351頁〔LEX/DB25352393〕)や大麻規制検討小委員会とりまとめなどに基づき「取り締まりを必要とする有害性があることは明らか」とし、「本件大麻が大麻取締法上の『大麻』に当たることは明らか」と結論づけた。

 懲役1年の求刑をした。「被告人に有利な事情を最大限考慮しても、その刑事責任は重く、……矯正施設に収容して徹底した矯正教育を施すことによって同種再犯を防止するほかはない」という。理由の一つに、規範意識の欠如、すなわち「公判廷において、……自己の刑責に正面から向き合わずに自己弁護の態度に終始していること」が挙がった。

 柴﨑さんが丸井弁護士とともに「(休息の場での大麻使用やそのための所持が)『国民の保健衛生の保護』や『社会の安定の維持の保護』を、どれだけ、どのように侵害したのか」を具体的に示してほしい(冒頭意見陳述より)、と訴えてきたことが、上記評価につながったようだ。前回に続き、被告人という立場から大麻取締法(処罰根拠法)に異議を申し立てる困難さがうかがわれた。

裁判長によって異なる訴訟指揮

公判を振り返る柴﨑和哉さん(左)と丸井英弘弁護士(2025年6月10日、401号法廷前の待合室にて。撮影:刑事弁護オアシス編集部)

 柴﨑さんは、今回の公判を振り返って、「これまでのやりとり(第3回公判での例外的な対応に至る経緯など)があるから、今回も(知人らによる)嘆願書や要望書を読めると思った。前回の裁判長は、第3回公判の最後に情状証拠の追加をしきりに尋ねてきたが、今回は証拠調べの終了を一方的に告げられた感じがする」と言う。

 丸井弁護士は、「交代後の裁判長は、最初から公判を見ているわけではない。すでに記録化されているものだけを見ても、変更前の裁判長の状態と同じになったとはいえない」と、今回の訴訟指揮を批判した。裁判長の交代が、弁護側請求証拠の却下や証拠調べ手続の終了という判断にどれだけ影響したかは定かでないものの、裁判官による訴訟指揮の違いが表れた法廷といえよう。

 今後は、2025年9月9日(火)13:30〜15:00に最終弁論と最終意見陳述が予定されている。場所は、さいたま地方裁判所熊谷支部第401号法廷。

 アンドリュー・ワイル博士らによる共同声明は、2025年7月4日、正式に公表された。本文と動画はこちらから閲覧することができる。

 関連書籍は以下のとおり。大麻草については、長吉秀夫『あたらしい大麻入門』(幻冬舎、2025年)が詳しい。大麻政策については石塚伸一ほか編著『大麻使用は犯罪か?——大麻政策とダイバーシティ』(現代人文社、2022年)、大麻規制の歴史については本サイトでの連載「大麻使用を新たに罰する改正法の仕組みと問題点」が参考になる。

(お)

(2025年07月19日公開)


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