
12月2日、「再審法」の改正について、誤判救済に関心を持つ刑事法研究者が会見を開いて、相次いで声明と意見書を発表した。声明と意見書はそれぞれ別のグループによるものであるが、いずれも、刑事法研究者が、再審法改正について審議している法制審議会の議論内容に対する強い危機感を表明し、超党派の国会議員連盟が6月国会に提出した議員立法による再審法改正を支持するものである。
「再審法改正議論のあり方に関する刑事法研究者の声明」は、石田倫識(明治大学教授) 、白取祐司(北海道大学・神奈川大学名誉教授)、新屋達之(元・福岡大学教授)、川﨑英明(関西学院大学名誉教授)らが呼びかけ人となって、11月19日よりはじめて、12月1日現在で、呼びかけ人17名、賛同人118名の合計135名が賛同している(詳しくは、ホームページを参照)。
同声明は、はじめに現在進行中の再審法改正の動向、とくに「法制審議会―刑事法(再審関係)部会」の審議状況を説明する。①証拠開示の範囲を新証拠と関連する部分に限定、②違法・不当な再審開始決定に対する検察官抗告は必要といった議論が法制審の審議で主流を占めていることに、冤罪被害者にとっては「パンの代わりに石を与えるもの」だと強い疑問を呈する。
このあと、「第2 立法事実と再審の理念を踏まえた法改正の必要性」に触れ、最後に「第3 求められる再審法改正とは」の3項目にわたっている。
第2では、再審法改正の立法事実について「今回の再審法改正問題は、無辜の救済のための制度である再審制度が現実には機能不全となっている事実に端を発する。そして、その中核的要因として、検察官の裁判所不提出記録の証拠開示の有無・広狭により再審の可否が左右されていること(いわゆる「再審格差」)、再審開始決定に対する検察官抗告により救済が阻害・遅延させられていること」と分析する。
最後の第3では、「再審請求手続の機能不全、それに由来する誤判救済の阻害と遅延という事実が再審法改正の原点であった。この原点にかんがみれば、証拠開示の大幅な拡充とその制度化、そして検察官抗告の禁止を柱として、誤判救済を容易かつ迅速化する再審法改正こそが求められているといえよう」と結んでいる。
呼びかけ人の一人である川崎英明氏から、つぎのコメントをいただいた。
「私たちは、本年4月から始まった法制審議会―刑事法(再審関係)部会の再審法改正議論を注視してきたが、議論の行く末と学者委員の議論のあり様には深刻な懸念を抱かざるをえなかった。そこで、再審法改正の立法事実(再審実務が抱える問題点)と再審の憲法的理念(無辜の救済)に照らし再審法改正のあり方を提言したのが、今回の『刑事法研究者の声明』である。当面する再審法改正の重要課題は、裁判所不提出記録の広範な証拠開示の制度化と再審開始決定に対する検察官抗告(即時抗告、異議申立、特別抗告)の禁止とにある。それはいずれも、白鳥・財田川決定以後の一連の再審冤罪事件により再審の冤罪救済機能を実効化する上で不可欠だと実証されてきた歴史的課題である。だが、法制審の議論は証拠開示の範囲を狭く限定し、検察官抗告を維持する方向へと動いている。法制審の学者委員はこの動きを促進する側にいるが、その議論は理論的批判を免れない。
私たちはこれまで、問題性を孕む刑事立法に対して人権と民主主義の観点から警鐘を鳴らしてきた。今回の刑事法研究者声明には135名が賛同している。刑事法研究者の声明としては過去最大の賛同数である。さほどに今回の再審法改正議論の行く末は危ういということなのである」。
なお、法制審議会―刑事法(再審関係)部会の詳しい審議内容については、鴨志田祐美弁護士による「法制審議会―刑事法(再審関係)部会のリアル」を参照。
(2025年12月04日公開)